前へ進め、お前にはそのがある

>心想回路 -act01-







まだ暑さが残る夏の日。相変わらず万事屋の仕事はピンからキリまでのため、財布の中身は万年氷河期を過ごしている。
そんな中、久しぶりに閑古鳥ではなく電話のベルが鳴り響く。
居間を掃除していたが急いで受話器をとれば、聞きなれない男性の声で聞きなれた「スナックすまいる」の店名に首をかしげる。
夏風邪が蔓延して、今や元気に動けるのはお妙一人という状態。
加えて明日にはかなり重要な客が来るため、店は開店を余儀なくされている。
とにかく詳しい話は明日、店に来たときにすると言われ、断る理由もなく承諾の意を示し受話器を置いたところで銀時が居間へ戻ってきた。

「なあ、さっき電話鳴ってなかったか?」

「お妙さんのお店からで、依頼したいことがあるらしくて明日来てほしいって」

「用心棒でも雇いたいってか? それだったらすでに強力な用心棒がいるじゃねェか。毎日迫り来るゴリラをなぎ倒す奴がよ」

「・・・それ、お妙さんに言ったらそのゴリラと共に間違いなくなぎ倒されますからね」

銀時の言葉に呆れ溜息をつきながら、先ほどの電話の内容を掻い摘んで説明すれば、夏風邪と言うフレーズに怪訝な顔をした。
とにかく詳しい話は明日、店に行かねば分からないが、大体の予想はついていた。
大方キャバ嬢の代わりになる娘でも紹介してくれとでも言うつもりだろう。
そう言われることを承知の上で翌日四人で「すまいる」へ行けば、案の定店長から言われたのは予想通りのものだった。

「アンタ万事屋だろ。顔も広いじゃない。カワイイ娘の二人、三人スグ紹介できるでしょ?」

「カワイイ娘(コ)がいるなら俺が紹介してほしいよ」

「カワイイ娘ならここにいるアルヨ」

店長が松平関係の幕府の上客が来るのだと説明する傍らで、神楽がの手を掴み挙手をするがあえてそれは皆で無視している。
はただ苦笑を浮かべるだけだが、神楽はどこか納得いかない表情だ。
可愛いか可愛くないかと問われたら、神楽は可愛いほうだ。しかし未成年だから酒の席は不味いだろう。きっとそんな考えがあるからこそ
誰一人として神楽の言葉に一言も返さないのだと思っているのだが、神楽に掴まれた手を無抵抗のまま上げた状態のはとてもいたたまれない気分だった。
の心情などお構いなしに、神楽は必死に自分を銀時へとアピールするが、巧みにその言葉を交わしていく。
お妙がみかねて可愛い子なら自分が連れてこようかと言うが、銀時はそれすら一刀両断。

「ダメだ、女の言うカワイイ娘は信用ならねェ。大体自分よりランク下の奴連れてくんだよ」

「銀さん、なんか嫌な思い出でもあるんですか?」

ちゃんだったら協力してくれただろうになぁ」

遠い目をして友人の顔を思い出したが、物理的に無理なことだ。
それに顔を思い出したと同時に、人数あわせと言うことで出た合コンで相手の男を張り倒してしまったとか言う伝説を持っていたことも思い出す。
居なくてよかったと、少しだけ思ってしまった事はだけの秘密だ。
他に知り合いの女友達がこちらで居ればいいが、悲しいことに万事屋と蜜月の往復を繰り返す日常の中で、知り合いの女性といえば朔ぐらいだった。
結局いい案は何も思い浮かばず、誰もが頭を抱えたところで突然響いた第三者の声に、全員がそちらへ顔を向ける。

「すいません、あの、妙ちゃんはおられるか? 差し入れを・・・」

「あ、九ちゃん」




突然現れた九兵衛を連れて店の控え室に入れば、襖越しに東城の怒りの声と、それを抑える銀時たちの声が聞こえる。
飛びきり綺麗にするんだと張りきっているお妙の隣で、も嬉々として着物を選んでいる。
事情も飲み込めず、突然の出来事に驚く九兵衛を他所に二人は、あれでもない、これでもないと色とりどりの着物を合わせていった。
漸く納得行く仕上がりになったところで、ずっと部屋の隅でなにやらしていた神楽も、「よし」と声を上げて立ち上がる。
軽く髪を下ろしウェーブをかけている後姿に、助っ人としての人数に入れてもらえるように必死な姿が窺えた。
そんな神楽の姿は今は目に入っていないのだろう。呼ばれて入ってきた店長と、自分の仕上がりに納得の行っているお妙が
九兵衛の着飾った姿に嬉しそうに声を上げた。
ポニーテールだった髪はツインテールに結ばれ、眼帯もお手製の花の形をしたものへと変えてある。
それだけでもかなり雰囲気が違うが、元がカワイイのだろう。きっともっと違う格好をさせても似合うに違いないと
の中で密かに、いつかは九兵衛をもっと着飾らせてみたいという野望が生まれつつあった。
そんな彼女らの後ろでは、護るべき若への愚行としてみているのだろう。
先ほど以上に声を荒げている東城が今にも掴みかからんと言う勢いだったが、それを銀時と新八が更にうまくなだめようと必死だった。

「待て、おちつけ。ちょっと色々ワケがあって、あの・・・」

「ちょっとだけだから力貸してください! すいまっせん、ホントすいまっせん!」

「ふざけるなァ!! 貴様らもしっているだろう!! 若は・・・若は・・・
ゴスロリの方が似合うぞ!!

愚行を止めるどころか、さらにその上を行く発言を後半に交えたところで九兵衛直々の蹴りによる制裁を受けた。
ひっそりと、東城の言葉に内心頷きつつ、今度お妙と神楽も加え四人で九兵衛を可愛くしてみよう企画を企てそうになったのは内緒だ。
なかなかナイスな服のセンスだと、の中で東城の株は一気に上がったのだが、キャバ嬢の助っ人と言う仕事に怒りをあらわにした東城が
何も知らない九兵衛へ、キャバクラとはどんなことをするのか説明するが、その内容はまったく違う職種のものだった。
キャバ嬢はまずマットは使用しないし、体がヌルヌルになることも無い。普段行っている店の系統が露見した東城に対して、男性としては普通なのだろうと
軽蔑することはなかったが、その代わりに上がった株は一気に平常値まで戻っていく。
以前にもこんな事が近藤に対してもあったような気がすると、いつぞやの出来事を思い出したの耳に届いたのは
嫌いにならないでくれと必死の東城に対し、はっきりと元から嫌いだと言う男よりも男らしい九兵衛の言葉だった。





<<Ex03-09 /BACK /TOP/ NEXT>>