前へ進め、お前にはそのがある

>心想回路 -act02-







男性に指先だけでも触れられると虫唾が走り、肩を叩いただけの銀時が投げ飛ばされるなどと言ったアクシデントもあったが
九兵衛が頑なにお妙達に協力する意思を見せ、ついには東城までもが自らもキャバ嬢の助っ人として名乗りを上げた。
どこまでも九兵衛を護ると息巻く姿は立派なものではあるのだが、如何せん思考回路が急カーブ過ぎて行き着く答えがおかしな方向になる。
お妙と九兵衛の隣にたつ東城は、なぜかタオルを胸を隠すように体に巻き脇にマットを抱えて立っている。
そのマットはいったいどこから持ってきたのか。そんな素朴な疑問は口にしてはいけないだろうかと思いながら、は溜息をつくことしかできなかった。


「あと何人位必要なんだ?」

「最低でもあと三人はほしいね」

「私いれたらあと二人アルナ」

「あと三人か、ダリーな」

「オイ、あと二人だって」


あと必要な人数を話す銀時と店長の会話の間に、神楽が必死に先ほど化粧を施した自分をアピールする。
しかし化粧など今までまともにした事が無いこともあってか、真っ赤な口紅で彩られた口はまるでピエロ状態。
更には塗りすぎたファンデーションのせいか、顔が真っ白だった。この顔でお化け屋敷のスタッフでもすれば、繁盛間違いないだろう。
もちろんそんな神楽の言葉はまったく無視をして一人呼んでいるという銀時と、さすがだと仕事の速さを褒める店長にとうとう神楽はふてくされてしまった。
まるでそのタイミングを見計らったかのように、入り口から現れたシルエットの猫耳には嫌な予感しかしなかった。


「コンニチハー、タダ酒飲メルキイテキマシター」

「人の話きいてたァァ!?」


キャサリンの登場と共に聞こえた台詞に店長のツッコミが店内に響く。
ただ助っ人に来てくれというだけではまず来ないだろう。キャサリンの性格を良く知っているからこそ、上手いこと呼び出したと思えばいい。
しかしそのままの着物姿でいればいいものを、何を考えてか東城と同じ格好で隣に立つキャサリンは、その胸すら隠せていない。
腹を立てて声を荒げる店長に、みた事へとんでもない金額を請求するがそれはまさに火に油を注ぐ発言でしかなかった。


「銀さん、いいんですか?」

「構やしねェ。ようは頭数さえ揃えればどうとでもなる。さて・・・あと、二人ね」


心配するなどかまわず、突然木刀を天井へ向けて投げつければ鈍い音を立てて落ちてきたのはさっちゃんだった。
銀時のいるところには大抵いるので、さほど驚きもしないが見事に脳天に突き刺さった木刀には流石に痛そうだと顔をしかめる。
のそんな心情など知る由も無い銀時は淡々と木刀を抜き取ると、お前も今日からキャバ嬢だと見下したように言う。
さっちゃんは言われるや否や、さわらないでと激しい拒絶の意思を示した。触ってないと返す銀時の言葉は相変わらず冷たく抑揚すらない。


「柳生編だかなんだかしらないけど、散々長いこと放置プレイして、久し振りに会えたと思ったら、キャバ嬢になれ!? そんな・・・・・・」

「さっちゃんさん・・・」

「そんなのって・・・・・・・・・・・・
興奮するじゃないのォォォ!! どれだけ私のツボを心得ているのよォ!!

「・・・さっちゃんさん・・・」


さすがに銀時の態度に傷ついただろうかと心配した自分が馬鹿だったとは、己の甘さに呆れ、どこまでも前向きになれるさっちゃんへ若干哀れみの気持ちを抱いた。
そんな事を知られたら銀時以外へ発動するだろう、エスな部分で散々に罵られるだろうから、その気持ちは墓場まで持って行こうと心に決める。
いつもの忍者服を脱ぎ捨てたさっちゃんは忍者のなせる業なのか、それとも常に下に着ているのかはわからないが、どうみてもSM嬢のコスチュームに身を包んでいた。
東城の辺りからいろいろな意味で”嬢”という単語しかあっていない状態となっているが、とりあえず頭数はあと一人となった。
しかし他に知り合いの女性など居ない。


「あと一人どうするんです? 私でもいいんですけど・・・」

「馬鹿か、オメーにキャバ嬢の真似事なんかさせられるわけねェだろ! いいか、中にはケツどころか酔ったフリして胸まで触ってくるような奴だっているんだぞ」

「はぁ・・・そんなのちょっと捻ってやれば黙りますよ。あ、息の根は止めないように手加減はしますから」

「なにサラリと怖い事いってるの? とにかくダメだ。銀さん認めません。最初からは頭数に入れてません」

「ちょっと、ナニ銀さんとイチャイチャしてるの! ハッ! わかったわ銀さん、今度は目の前で放置プレイしようって言うのね!? いいわよ、乗ってやろうじゃない!」

「違ェよ。まぁ、これで六人揃ったな」

「え? さん入れないんじゃ、まだ五人・・・一人足りませんよ」


新八の言うことはもっともである。銀時はそれに答えず、ソファにふて腐れて寝転がっている神楽へ、酒はダメだがオロナミンCまでなら良いだろうと声を掛ける。
確りと聞こえた銀時の言葉に顔を上げた神楽だが、ふて腐れて泣いていたせいでアイシャドーが思い切り流れてしまい、ますます怖い。
思わず店長は化け物屋敷かと叫んでしまうほどだ。今度お化け屋敷などの仕事が入った際は、このメイクでいこう。
密かが心に決めたところで、スタッフの来客を告げる声が響いた。
まだ時間は早いだろうと驚く店長をよそに、慣れているお妙は出迎えからがすでにお水の花道は始まっているのだと入り口へ向かって走っていく。
後をついて走るのは神楽に九兵衛、さっちゃんの三人。
大丈夫だろうかと一抹の不安を抱く店長に銀時はあいつらならやれると言うが、目の前の階段で東城とキャサリンが上ることにすらてこずっている。


「銀さん、本当に大丈夫ですか?」

「・・・大丈夫だ、奴はともかくキャサリンだって伊達に夜の女をしているわけじゃ・・・」


銀時の必死のフォローもむなしく、その言葉が終わる前に体に無駄に塗りたぐったローションのおかげで脳天から滑り落ちてしまう。


「オイぃぃぃぃぃぃぃぃ!! 何してんだァァァァァ!!」

「客に会う前に、イキナリ殉職しちゃったよォォ!!」


入り口を抜けた先に見えた景色は二体の地面から生えた生足でした。
ここはキャバクラという名のホラーハウスか。





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