前へ進め、お前にはその足がある
>心想回路 -act03-
階段の前で倒れた東城とキャサリンをとにかく退かそうとした銀時たちだが、床が滑ることを注意した店長も足をとられ倒れてしまった。
店を頼むと一言残し意識を飛ばした店長だが、すぐに気持ちを切り替えた銀時は淡々とした様子で奥へと運ぶ。
「なんだァ? 今日は店の娘少なくねーか。盛り上がれねーな、これじゃ」
「大丈夫ですよ。あちらにいけば一杯いますから」
入り口から聞こえた松平とお妙の声に三人は同時に焦りを見せた。
一杯居るといっても、タオルを巻いて殉職した男と猫耳おばさんと呼ばれている二人に、頭部から血を流す店長。
店のスタッフの男性と銀時たち三人とまともに動ける女はのみだ。
「どーすんですか!? 一杯いるとか言っちゃってますよ、早くしないと!」
「・・・・・・・・・・・・、オメーは店長と一緒に奥に行ってろ」
「で、でも銀さんたちで何とかなるんですか!?」
「するしかねーだろ」
悩んでいる時間など無いと、今は銀時を信じて店長の足を掴んで奥へ隠れる。
肩を貸した状態で行けばいいのだが、正直足を掴んだ方が手っ取り早かったのだ。
頭部を怪我しているがきっとこれぐらい大丈夫だと、勝手に納得させて知らないフリをしておく。
が奥へ向かったのを見計らって銀時は新八へ目配せをして、すぐに動き出す。向かった先は奥のテーブルの影に隠すようにして片付けておいた
東城とキャサリンの所。準備を終えたところで見事にギリギリの滑り込みセーフといった所か。階段の上にお妙と松平の姿が見えた。
こちらの状況など知りもしないお妙は笑顔でみんな待っていると言ったが、指し示した所に立っていたのは胸を隠すようにしてタオルを巻きマットを持った
銀時と新八の二人だった。その衣装は二人から剥ぎ取ってきたものだ。正直着替える時間など無かったのだから、仕方ないだろう。
パー子にパチ恵と偽名まで急場しのぎにもほどがあるが、この際細かいことは気にしていられない。
奥からが投げてよこした付け毛でそれとなく見せてはいるが、店の奥で様子を見ているはハラハラしている。
(ぎ、銀さん・・・新八君・・・どう見てもガタイのいい女性とかには見えないよ。どう贔屓目に見ても女装しきれていない男性だよ!)
「アレ、なんか今日初めて見る娘が多いな。新人さん?」
いつばれるかとドキドキしながら見ていたの耳に届いた聞き覚えのある声。
視線を移すと松平の後ろには真選組の面々だった。先ほどの声は近藤だったようだ。
これではバレてしまう。どうしたら良いのだ。バレるだけならいいが、それが元で何かしら弱みを握られたらたまったものではない。
他人の弱みを握ってここぞという時に若干叶えられなさそうで、叶えられる要求をされるのは嫌だ。自分達がするのはおおいに構わないのだが。
どうしたらこの危機を乗り越えられるのかと、顔見知りゆえに表に出れないは銀時たちへ視線を向けた。
新八も同じ心境らしく無言のままその視線で訴えたが、驚いたことに銀時はこの状況を顎をしゃくらせると言う荒業で乗り切ろうとしていた。
「いらっしゃいませー」
「!!」
(ぎ、銀さん! そんな無茶な!!)
「しゃくれ! パチ恵、軽くしゃくっとけ。しゃくっとけばバレねーってTVで大地真央が言ってた」
銀時があるからか、神楽すらもそれを真似てしまった。いらない所は確りと真似てしまう。
癖にならないように気をつけねばと思った矢先、そんな神楽を見て何かを考えるように無言の九兵衛に新八とは嫌な予感しかしない。
予感は的中し、しゃくれてしかも趣味まで言い出す始末だ。ここはしゃくれバーでは無いというのに。
こんなことなら素直にばれた方がまだマシな気な気がしてきたが、真選組の誰しもが気付いた様子は無い。
(・・・馬鹿な人たちでよかった)
最近、ますます持って言動に毒を含ませつつあるだがまだ口に出さないだけマシだろう。新八も同様に視線でばれていないことに安心した様子だった。
しかし、いくらこの場を凌げたとしてもこの大人数相手だ。いつばれるか分かったものではない。特に向こうにはサディスティック星の王子がいる。
このままではまずいかもしれない。そう感じたは倒れた店長の額に濡れタオルを放置したまま店の控え室へと走った。
もう何度かきている店内だ。勝手知ったるなんとやらとはまさにこの事だろう。
目的の物を見つけ手にすると、すぐにソレを身に着けてホールへ戻ったところで、沖田の言葉が耳に飛び込む。
「じゃあ、ごゆっくり楽しんでいってくだせェ、俺達ゃしっかり外、見張っとくんで」
まるで黒い波がひいて行くかのように、真選組は入り口へ向かい外へ出て行ってしまう。
沖田の言葉に押されるように奥からスッと姿を見せたのは、小奇麗な着物に身を包んだ男性だった。松平の知り合いだろうか。
一瞬の脳裏に浮かんだ疑問に、更に沖田の言葉が答えるかのように響いた。
「上様」
え、上様?
上様って・・・・・・上様!!??
物陰から身を乗り出そうとしたは、ただ聞こえたその呼び名に驚き硬直する。
こんなことなら、真選組の相手の方が何百倍もマシだと、声を張り上げたい衝動にかられたのを我慢した事を褒めてほしいぐらいだ。
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