前へ進め、お前にはその足がある
>Ex..03-09 昨日の出会いへありがとう、今日の出会いへ初めまして
「あ」
「あ」
蜜月でバイトをしていたは、店にたまたま寄ったのだろう。九兵衛とカウンター越しにバッタリと遭遇した。
先日の出来事はまだ記憶に新しいが、お互い様々なものを乗り越えて今はスッキリしている。
だがあれから改めて顔を合わせるのは初めてだった。
「い、いらっしゃいませ。えっと、何かお探しのお団子とかありますか?」
「そうだな・・・じゃあそこのいそべを三本ほど」
「かしこまりました。お包みいたしますので少々お待ちください」
営業スマイルとマニュアル通りの言葉を浮かべながら淡々と作業をこなしていく。
いくら吹っ切れたものがあるとしても、まだにはぎこちなさが残っている。
きっとこの先、少なからず関っていくだろう。お妙の友人なのだから、尚のこと。
それには九兵衛のことが嫌いなわけではなかった。本当ならもっと話をして仲良くなりたいとも思っている。
商品ケースから団子を出し、包みに入れる作業の合間で、ケース越しにそっと九兵衛を盗み見る。
団子を一本掴んで、包みへ乗せるわずかな時間だけ考え、すぐに行動へ移した。
「どうぞ」
「ありがとう・・・ん? あの、一本多いんだが・・・」
「あ、それは私の分です。もちろんその一本分は自分で払いますから」
「え?」
「ということで、朔さん、すみませんがちょっと出ます」
「ええ、今は忙しくないから大丈夫ですよ」
突然のの行動に驚く九兵衛を他所には前掛けをはずすと、財布から団子一本分を支払い九兵衛の手を引いて歩き出した。
九兵衛の予定はまったく知らないが、団子を買ったところを考えればこれからどこかへ出かけると言うことは無いだろう。
すぐ近くのベンチに座り緑茶を二人分買って一つを九兵衛へ渡した。いつもなら脅してでも自分の分だけしか支払わないが、今回は別だ。
「ありがとう」
「いえいえ。それよりごめんなさい。なんか急な事しちゃって」
「いや・・・僕も君とは話をしたいとは思っていたからちょうど良い」
「そうですか」
お団子を頬張りながらお茶を一口飲み、なんとなしに道行く人々を眺め見る。
話をしたいとは思ったが、いざ突然こんな状況となれば何から話していいのか。
回りくどい前振りをおくのは止めたほうがいいだろうか。だからといって、いきなり直球で聞いていいものかどうか。
そんなことを考えているへ、九兵衛が先に口を開き言葉にしたのは先日の出来事への小さな謝罪だった。
「すまない。君たちには迷惑をかけた」
「いいんですよ。銀さんも言ってたけど、皆はやりたいことをやったんですから」
「そうか・・・。本当にすまないと、思っている。だが、後悔はしていない」
「いいんじゃないですか? 後悔して無いなら、プラスもマイナスも含めて良い経験になったってことですし。うん」
あっけらかんとしたの言葉に軽く笑みを浮かべて面白い人だと小さくこぼした言葉は、雑踏の音に掻き消されることなくの耳に届いた。
穏やかに風が流れる。
久しぶりに感じた風だった。
まるで、友達と隣りあわせで椅子に座って、何気ない沈黙ですら楽しむかのような感覚。
「あの、九兵衛さん」
「なんだ?」
「よかったら、友達になってくれる?」
「友達? 僕とか?」
「うん。なんかね、一緒に居るとそんな感覚があって。あと、欲張りかもしれないけれど、私も九ちゃんって呼ばせてもらって良い?」
ダメかな?
首をかしげながら問うへ、先ほどとは少し違う笑みを浮かべやはり君は面白い人だと言葉にした。
「君の好きにするといい」
「そう? じゃあ、はい」
「これは?」
「握手。一応、改めて初めましてってことで。あと、これからもよろしく」
「ああ・・・こちらこそ」
軽く握った手は女性にしては竹刀ダコが目立ち少し節くれた指をしていたが、とても暖かかった。
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