前へ進め、お前にはその足がある
>異色同士 -act08-
敏木斎の敗北の宣言を真に理解した瞬間、近藤が勝利の声を上げた。
大将を打ち破ったのは新八だと言うのに、神楽は殆どが銀時のおかげだろうと、九兵衛の攻撃によるダメージがあるにもかかわらず
新八をやたらと叩いていた。多少手加減はしているだろうが、見ている側としてはかなりハラハラする。
それでも近藤のさり気無い義弟発言には、確りと突っ込みを入れているのだから大丈夫だろう。
彼等のやり取りをみていた銀時はホッと息をつくが、それとは真逆にざわつき始めた柳生の門下生たち。
それもそうだろう。廃刀令などにも衰えを見せぬ柳生の剣術の上に立つ二人が敗れたのだ。
動揺する門下生たちへ、銀時達を賊と称し倒せと声を荒げる輿矩。それを咎めたのは敏木斎だった。
「わしらの負けじゃ、退け。これは、九兵衛が自ら約束したこと。大人しくお妙ちゃんを返せ」
「パパ上! つーか、元から私は女同士の結婚なぞ反対ですぞ!」
「え・・・九兵衛さんって、女だったの?」
「さん・・・気付いてなかったんですか」
肝心の話しは殆ど女中から逃げている最中だったため、殆ど場の空気に流され飲まれていただけだった。
確かに途中、そんなような事を匂わせている台詞もあったかもしれないが、正直それを気にしていられるような状況ではなかった。
大体ここへ来た最初から銀時達の状況も事情もよく分かっていなかったのだ。気付くわけもない。
だが勝負の邪魔をするような者は事情を知っていようといなかろうと、放っておくわけには行かない。友達を泣かせるやつは許さない。
その考えは変わらないのだから、どちらしても、自分の行動は同じだっただろう。
今まで九兵衛の横で座っていた銀時がおもむろに立ち上がり、倒れたままの九兵衛の横を通り過ぎる。
銀時の目の前には俯いたお妙が立っていた。ただ黙って立つお妙へ銀時は静かに口を開く。
「・・・男だ女だ責めるつもりはねーよ。だが、アイツはしってたはずだ。お前がどんなつもりで自分の左目になろうとしてたか。
お前はしってたはずだ、そんなモン背負ってアイツのところへ行ったところで、何も解決できねー事くらい」
こんな事をしても、誰も幸せになれない知っていたはずだ、と。
最後の言葉は二人へと向けたもの。お妙から零れた言葉は謝罪だった。
それすらも必要ないとはっきりと口にする銀時は、ただ真っ直ぐに前を見ていた。
「みんな、自分の護りたいもの護ろうとしただけ。・・・・・・それだけだ」
九兵衛はその左目を失った時のお妙の言葉を思い出した。
自分の左目になるといって、その奥にある思いに気付かぬフリをした自分に気付いていた。
女である身でこの柳生の名を背負うには、男に負けぬ強さが必要だった故に、輿矩も敏木斎もただ強くなれと厳しかった。
厳しくも、確かにその中にあった優しさに気付いていたのに、ただ男として育ててきた事を恨んでいた。
「それでもみんな、僕を最後まで護ろうとしてくれた。結局僕は・・・護られてばかりで前と何も変わらない。
約束なんて・・・なんにも果たせちゃいなかったんだ」
幼い頃の、お妙との約束。強くなったら、お妙をお嫁さんにするなどと、傍から聞けば子供の戯言かもしれない。
だがそれは、確かな約束だった。強くなって、その傍らにありたいと思う、純粋な思いだった。自らたてた誓いでもあった。
確かに強くはなった。実際、武者修行の旅に出て、その剣術には更に磨きがかかり、そこらの者には負けないだろう。
しかし力だけが先走りして、その心はいつまでも弱いままだった。
「僕も・・・ホントは、みんなと一緒にままごとやあやとりしたかった。みんなみたいにキレイな着物で、町を歩きたかった。
妙ちゃんみたいに・・・強くて優しい女の子になりたかった」
男であろうとしても、その体は女であり。しかし普通の女として生きることは周りが許さず、ただ男の様に強くなければならなかった。
自分はどちらなのか。いつだって迷い、惑い、そんな心の軋みと弱さに蓋をして只管剣を振るった。
だから焦がれたのだ。お妙の優しさと、その強さに。凛とした立ち居振舞いも。自分も、そうありたかったのだ。ただ、それだけだった。
「九ちゃんは・・・九ちゃんよ。男も女も関係ない、私の大切な親友。だから・・・泣かないで」
泣く九兵衛へ、それでも侍なのかと言うお妙の声は震えていた。
零れる涙を拭う事も忘れ、ごめんなさいと繰り返し、ただ今だけは普通の女の子として泣き続けた。
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