前へ進め、お前にはそのがある

>異色同士 -act07-







鋭く、速い立ち裁きは並大抵の者では到底太刀打ちできるものでは無く、九兵衛の太刀は容赦なく新八を殴り飛ばした。
一時はいけると思えたが、幼い頃より男して、柳生家を背負う跡取として育てられたその太刀に迷いは無く
その立ち居振舞いや言動だけでは無く実力でも、女だという事実を忘れるには充分だった。
相手の隙の合間に銀時は倒れた新八へ確りしろと声をかけるが、思ったよりかは軽傷だったようですぐに起き上がった。
その顔は眦に痛みによって涙を浮かべながら、驚愕を色濃く表している。



「うごをを・・・、ホントに女!? 力も身のこなしも並みの男じゃ敵わないよ、アレ」

「今更実力差に気づいたところで遅い。そちらの男は使えるようだが、新八君・・・君は完全にお荷物のようだな」

「なっ・・・!」


九兵衛が新八へ向けた言葉が門下生を相手にしていたの耳にまで届き、思わず眉を寄せた。
たしかに銀時は強い。神楽も夜兎族という事を差し引いても度胸も強さもある。
比べてみれば新八も、そしても確かにひ弱に見えるかもしれない。だが今まで、新八がどれだけの事をしてきたか。
その中にどれだけ真っ直ぐな強さがあるか。それを知らないのだから、そう評価されても仕方の無い事なのかもしれない。
だが、頭では分かっていても気持ちはそれを受け付けなかった。
が思う間も、九兵衛と敏木斎の攻撃から銀時は新八を護り、そんな姿の新八へ九兵衛は更に辛辣な言葉を向け続ける。

お妙を取り返すべく乗り込んだものの、結局は足手纏いで、どこかで誰かが助けてくれるのでは無いかと思っていたのだろうと。
昔からのその甘い考えが、今の笑顔を貼り付けて何もかも背負い込もうとするお妙を作りあげてしまったのだと。
そんな新八にはお妙は護れない。護れるのは、自分だけだ、と。



「テメーに、新八の何がわかるってんだ。テメーがコイツを語るな。テメーなんぞに、新八を語ってもらいたかねーんだよ」

「ぎ・・・っ!」

「!!」

「しっ・・・新八ィィィィィ!!」


よろける体を起こした銀時へ敏木斎が飛び掛った。
頭上から振り下ろされる木刀をその身に受けたのは、銀時を突き飛ばし護った新八だが、体は軽々と家屋へと飛ばされる。
派手な音を立て障子を突き破り、九兵衛は止めを刺すためか、家屋へと向かう。
新八の元へ駆けつけようとする銀時の前に敏木斎が立ちはだかり、大将はこれで潰れ終わりだというが銀時は一片たりとも諦めていなかった。
それどころか先ほどの九兵衛の言葉は、ただ護りたいというばかりで自分が護られている事には気づいていないと反論する。


「そんな奴にゃ、誰一人護ることなんてできやしねーさ」

「・・・・・・・・・アレ、兄ちゃん木刀は?」

「あれれ〜、どこいっちゃったんだろ〜」


敏木斎の問いにいつものような死んだ魚の目でおどけた風に言ったが、その木刀は倒れた新八の手にあった。
突然、家屋の中から九兵衛が新八の一撃を受け庭へと飛ばされ、予想外の事態に敏木斎は驚き声を上げる。
突き飛ばされた九兵衛は、飛ばされた木刀をすぐに拾い上げ身を起こす。
隙があるうちに一気に畳み掛けるつもりの新八は、それすら許さないとばかりに突きを繰り出した。
だが経験の差からなのか、実力差からか。動きを読まれ同じ突きによって、木刀の切っ先を突き合わせ防ぐと、新八の利き腕を蹴り上げた。
胴ががら空きとなり狙いを定めた九兵衛が横なぎに木刀を振るおうとするが、銀時が落ちた木刀を拾い九兵衛の手元を狙い投げ
攻撃を防ぎ更にその手から木刀を弾き飛ばす。
銀時の作ったチャンスを無駄にはせず、新八がさらに体制を立て直して九兵衛を狙い攻撃に転じようとしたが
敏木斎が銀時同様に自らの木刀を投げつけて邪魔をする。
弾かれた二本の木刀は、天高く舞った。



「うおらァァァァァァァ!!」



二本の木刀を追って同時に飛び上がった四人。掴んだのは九兵衛と銀時だった。
銀時は敵大将である敏木斎へ狙い定め構え、九兵衛は新八を狙い攻撃の体制をとる。
しかし、九兵衛のそれはフェイントで元々の狙いは大将を狙い、隙が生じただろう銀時。
新八も気づいたが木刀もなく、空中では身動きすら自由に取れない。
その瞬間、誰もが銀時が負けると思っただろうか。しかし、ここで簡単に終わる男では無い。
相手の読みに気づき、あえて撒き餌となり懐へ飛び込んできた九兵衛の一瞬の隙を狙って、その胸にある皿を柄で小突いて割った。
九兵衛の持っていた木刀を奪うと新八へと投げて寄越したが、その隙を狙い後ろから敏木斎に羽交い締めにされ、灯篭へと叩き落されてしまう。
銀時の皿もその衝撃で割られてしまい、残ったのは互いの大将のみ。



「いけ、新八」



敏木斎が地面に降り立つ瞬間だった。それはあまりにも、一瞬の出来事。






「おおおお!!」






響いた灯篭の壊れる音。皿の割れる細い音。
木刀の打撃音と、人の倒れる音。そして。





「・・・ゴメン、負けちった」





敏木斎の敗北を告げる言葉だった。





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