前へ進め、お前にはその足がある
>Ex..03-08 戦にはタッパー持参で
「ー、前閉めて欲しいアル」
「はいはい、ちょっと待ってね」
柳生との一戦が終わったあとすぐに右手を折られた神楽をすぐに医者へ連れていけば、夜兎族の回復力を持ってしてもギブスは免れなかった。
それから暫く口を開けばなぜか出てくるのは沖田への恨み事ばかり。
深い事情まではあえて聞かず、やられたら三倍返しを有言実行してやったと、誇らしげな言葉にも何も返せなかった。
片腕では色々と不自由で、どこか不器用な所もある神楽とはその日から暫く行動を共にしていたは今朝も早くから
神楽の着替えを手伝っている。怪我を理由に少々甘えている面もあるだろうが、普段はどこか突っぱねている所が目立つのだからいいだろうと
はあえて気付かないふりをしている。それに一番不満げなのはもちろん銀時だが、相手は怪我人なのだからと言えば不貞腐れつつも
今だけだ、と一応許してくれる辺りはさり気無い優しさだろう。
万事屋の半分は不器用さでできていると思ったのは内緒だ。
「おい、準備できたか?」
「もうちょっとアル」
すっかり準備できている銀時たちは神楽との準備が終わるまでの間、居間でテレビを見ながら待っていた。
かれこれ三十分は経っているだろう。まだ終らないのかと聞こえるように愚痴を零せば
女性の準備は時間がかかるのだから我慢しろと、神楽の声が聞こえた。あえてそれは気にしないことにして深い溜息を零す。
「早くしろよなァ、今日はアイツらの局長様の晴れ舞台だ。おかげでただ飯が食えるんだからな。気合入れるのは化粧じゃなくて空腹だ」
「銀さん少しでもいいからその本音を隠して、祝ってやろうとか気の効いた台詞はいえないんですか? それに依頼でもあるんですよ?」
「うるせーよ眼鏡。俺はここ最近豆パンに中ってパンすら食べれ無ェんだ。そろそろ栄養ある物が食べたいんだよ」
「銀さん、準備できましたよー。それとタダ飯じゃないですよ。ちゃんとご祝儀は出すんですから出費はあります」
「よしおめーら、ご祝儀の三倍は食べるぞ!」
祝いに行くと言うよりもどこかバイキングへ出かけるような雰囲気だが、その場に行けばさすがの銀時も大人しいだろう。
先ほど新八が言ったように、今回は依頼でもある。そうでなければまず結婚式に呼ばれることすらないだろう。それほど犬猿の中なのだ。
今回はあの料亭であった猩猩星のバブルス王女と近藤の結婚式。あの時のアレが見合いだったのだと判ったのは、依頼を受けてからだ。
その結婚をどうにかして壊して欲しいと願っての近藤の依頼。そして他の隊員数名からも自分たちでは手が出せないのだと言ってきた。
あの王女との見合いや結婚などは上から言われたもので、外交も関わる政略結婚だから幕府に身を置く自分たちでは手が出せないのだと
理由をあらかた聞いた所で銀時が最初に口にした言葉は、報酬は出るのだろうなと言う確認のものだった。
確りと誓約書まで書かせたあたり、確りとふんだくるつもりだ。
万事屋は慈善事業でも何でもなく、常にカツカツの生活を強いられているのだからそれも当然だろう。
さりげなく神楽の怪我が悪化したのは沖田に原因があるのだから、それをマスコミに垂れこんでやってもいいなどとこの時とばかりに脅しをかけていく。
悔しげに歯軋りして煙草を噛み切ってしまった土方の、それはもうこの世とも思えぬ形相は今でも夢に見る。
同時に楽しげに、且つしたり顔の銀時の顔も忘れられなかった。
何はともあれ何事もなく終ってほしいものである。たとえ結婚したとしても、外交は護られお妙への執拗なストーキング行為はなくなる。
その場合は報酬は受取れないが被害が少なくなるのは、まあいい事だろう。ここで無事結婚をぶち壊せたとしたらその真逆の結果が待っている。
どう転ぶかわからないが、とりあえず色々考えるのは会場につき、腹を満たしてからだ。
満たせなかったら持ち帰るまでである。と新八は手荷物の中に確りとタッパーをいくつか仕込んでいた。
なにせ今日はいつお目にかかるかもわからないご馳走が出るはずなのだ。どうせ余ったら捨てるんだろう。そんな勿体無い事をするぐらいならば
いくらだって持ち帰っていくらでも消費する自信がある。
今朝の朝食は八百屋で貰ってきたキャベツの葉っぱだけだ。
「よし、皆腹の準備は良いか!」
「はい!」
「さん、元気よく返事してますけれど、目的忘れちゃ駄目ですよ! 大丈夫ですよ。ちゃんとタッパーは持ってきますし」
「新八ィ! そんなちっぽけなタッパーで兵糧攻めできると思っているアルカ!」
「どこの戦に出るつもり!?」
<<03-08 /TOP/ 03-09>>