前へ進め、お前にはその足がある
>矜持 -act03-
男は銀時とに挟まれ、さらにはその顔面を鷲掴まれて身動きが取れない状態のまま、混乱した頭はまったく整理できていなかった。
最近、頻繁に覗きを繰り返して警察などが動いていることは知っていた。
だが夜闇に紛れて行動している事もあり、顔は割れていないと当然の自信もあった。故に、覗き行為を繰り返し行っている。
ランダムに気の向いた相手を覗くわけではなく、ターゲットを予め決めて行動していることは誰も知らない事実。
町の中でふと見かけたお妙の姿を見て、今日はここだと決めたのだろう。そうしてやってきた今、まさかの包囲に驚きを隠せない。
「っ!!」
「あ、落ちた」
「いや、落ちたって言うかが落としたんだろうが」
「やだな銀さん、私がそんな恐ろしい事できるわけ無いじゃないですか」
笑顔で言う辺りが恐ろしいと、喉元まで出掛かった言葉を飲み込むと、敷地内に落とされた男へ視線を向ける。
どこまで覗き根性が強いのか囲まれている状態だと言うのに諦める事はせず、予備の使い捨てカメラを取り出すと浴室へと走った。
騒ぎに気付いていないかのように、窓の向こうからは神楽とお妙の無邪気な声が聞こえる。
躊躇いも何もなく、窓を開けてカメラを構えた瞬間、シャッターが押される前に煌めく何かがカメラを突いて、男の体ごと押し返す。
塀に背中を強かに打ち付け短く呻き声を発する男の手には、薙刀が刺さり真っ二つになった無惨な姿のカメラ。
浴室から出て来たのは神楽とお妙。二人とも今まで浴室にいたと言うのに、服を着用している。
「なっ・・・なんで・・・」
「あら、覗き魔をおびき寄せるのにわざわざ裸になるわけ無いでしょう?」
「女の肌がそう簡単に見れると思ったら、大間違いネ!」
その台詞は、覗き魔を捕まえる為ならば風呂に入っても構わないと豪語していたものとは真逆だが、それをツッコム者はいない。
腰に手を当てて威張る神楽は、幼稚な手に引っかかってと男を見ながら勝ち誇った笑みを浮かべている。
当初の作戦は、神楽が言った通りに男三人がタオル巻いて湯船に浸かって、囮になるというもの。
湯気などもあれば、相手も騙され引っかかるだろう。
そう意見を出したまではいいが、やはり銀時たちは反論してきた。
もうここまで来れば誰かしらが囮になることは決定事項であるが、それでも譲れない。
それぞれの意見はぶつかるばかりで、結局は一度試してみるのがいいと男三人は半ばお妙に脅される形で風呂へ浸かった。
しかしさほど大きいお風呂でもないわけで、三人の窮屈そうな姿が垣間見える。
それどころか、その姿には想像以上に無理があったとしか言えない。やはり神楽の立てた作戦も駄目だった。
全員が唸り始めた所に新八の少し遠慮がちな声が響く。
「よくよく考えてみれば・・・わざわざ湯に浸かっておびき出すことも無いんじゃないですか?」
「・・・あ、そうか。服来て窓をほんの少しだけ開けて、中で談笑でも何でもしてればいいんだ」
「さすが新ちゃんね。伊達に眼鏡はかけてないわね〜」
「いや、そこは関係ないですよ・・・」
「でも女でもあの風呂場に三人はキツイんじゃね?」
銀時の言葉に、今度はお妙達三人の意見がぶつかり合ったが、結局アミダクジだと落ちていた棒を拾って適当に線を描いていった。
その名残が今の立つ足元に残っている。
目の前にはカメラを破壊された事と、よもや待ち構えているとは思っていなかった銀時達の姿に呆然としている。
そうだと思えば、まるで思い出したかのように声を張り上げて支離滅裂な言葉を吐き出した。
「ギャーギャーと、煩ェよ。テメェはもう逃げらんねェんだから、大人しくしろ」
「う、ぅうううぅ・・・うるさぁぁぁい! だいたいお前ら何なんだよ! 覗くだろ!? 普通風呂に女が入ってたら、覗くだろォォォ!!??」
「貴様なんかと一緒にするなァァ! 俺は軒下と天井裏にしか潜り込まん!!」
「それも自慢できる事じゃないんですけどね」
近藤の言葉も今更の事であるし、今は目の前で喚く覗き魔の方が優先事項である為それ以上のツッコミはなかった。
周りを囲まれながらも逃げようとしているのか、後退る中でも隙を見せない。
それでも壁まで追い込んでしまえば捕まえられる。そう思っていた矢先、一瞬の閃光。
どうやらまだ隠し持っていたカメラがあったらしく、そのフラッシュを目晦ましに使い、怯み隙が生じた所を一気に駆け抜けようとした。
銀時の横を走り抜けた男は完全にこちらに背を向け、門へ向かって一目散に足を動かす。
視界が戻る間も待たず、銀時は振り向き様に木刀を引き抜くと男へ向かって投げつけた。横回転して飛んできた木刀が、男の背中へぶつかる。
倒れた所を逃がさないとばかりに新八が持っていた縄ですぐに縛りあげ、お妙は笑顔のまま男の目の前に薙刀を突き立てた。
「ひぃ!!」
「さあ、あとはお前を奉行所に突き出すだけだ。キツイ取調べを受ける事だなぁ」
新八の結んだ縄の先を持って男を立たせた近藤は、そのまま連れていこうとする。
その背に静止の声をかけられ、銀時が男へ写真とネガはどこだと聞くが、男は何の事だと逆に聞き返してきた。
しらばっくれたような男の態度に微かに眉間に皺がより青筋が立つ。
「この間うちの風呂場覗いただろ。そん時撮った写真とネガどこだ。家か? 言わなきゃテメーの家ごと燃やすぞコノヤロー」
「な、なななななッッ!!」
「燃やされなくなければ素直に吐いてください変態野郎さん。私の事撮ったでしょう? どっちにしてもネガも写真も燃やしますけど」
「撮った! 撮ったさ!! でも写真もネガも、もう無い!!」
必死の形相で訴える男の言葉だが、どうにも真意が見えずそればかりか虚言にしか聞こえない。
一体無いとはどう言う事か。そう問えば、既に廃棄したと、驚きの言葉だった。
廃棄したのならばそれはそれでいいが、しかし燃やされてたまるかという男の嘘かもしれない。
もう一度問いただそうとしたの言葉より先に、男の声が響く。
「覗きをしたって、好みがある! 最初はいいかなーとは思っても、現像した写真見たらそんなでも・・・ゲフッッッ!!」
「・・・人の事覗きしといてそう言う態度かこの変態。女なんだと思ってんだ」
男の言葉を最後まで聞くことは無く、顔面に拳を受けた男は崩れ落ちた。
覗いてほしいわけでも、写真を撮っておいてほしいわけでも無いが、そこは複雑な女のプライドと言う奴である。
倒れた男を見下すの傍らで男三人は口元を引きつらせ、対しお妙と神楽は拍手喝采だった。
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