前へ進め、お前にはその足がある
>Ex..02-03 油断大敵
覗き魔を捕まえた夜、万事屋へ帰ってきた銀時たちは安心した所で空腹に気付く。
何かを作ろうかと台所に行った所までは良かったが、残念な事に米は昨夜で使い切ってしまった。
おひつに残ったご飯は今朝、全てを平らげた。曰く、「腹が減っては戦ができない」と言う事だったらしい。
その時の勢いを今になって少しばかり後悔したが、嘆いた所で米が戻って来るわけでも無いと、他に何か無いかと探し始めた。
冷蔵庫を開ければ豆腐がいくつか入っている。
「昨日安売りで買ってきたパンがあるから、それと豆腐細かく切った味噌汁でいいんじゃね?」
「えー、私は冷奴がいいヨ」
「冷奴食ったら腹が冷えるだろうが。温かいのにしなさい。駄目だよ女の子が腹冷やしたら」
「腹じゃなくて腰だろ。銀ちゃんが味噌汁食べたいだけじゃん。私は冷奴がいいアル! でっかく切った豆腐が食べたいアルぅ〜!!」
「あーあー、喧嘩しないで二人とも。じゃあ間をとって豆腐のあんかけ作ってあげますから」
台所でにらみ合いを始めた二人を余所に、が豆腐を適当に三等分にすれば、神楽の目が煌めいたような気がした。
銀時も納得したようでそれ以上は文句を言わずただ一言、美味いのを作れよ、と余計な言葉を残して居間へ入った。
隣に立つ神楽へと風呂を沸かしてきてくれと頼み、は手際良くおかずを作っていく。
暫くして居間からこちらにやってきた銀時が、先ほど長谷川から電話が入りちょっと外へ出てくると言いながらブーツへ足を通す。
「飲みに行くのはいいですけど、事故とか事件とかトラブルとかに巻き込まれないで下さいよ」
「好きこのんで巻き込まれてるわけじゃねェよ。あっちがしつこく纏わりついてきてんだよ」
「振り切ればいいものを、律儀に首を突っ込んでるのはどこの誰ですか。おかず、戸棚に入れておきますからね」
「おー」
軽く手を振って外へ出た銀時の言葉は扉が閉る音で掻き消された。
風呂場から戻ってきた神楽へ銀時の事を伝えれば呆れた様子もなく、ただいつもの如くどうせ二日酔いになるんだろうと、パンの入った袋を持って居間へ戻っていく。
二人だけのご飯なども頻繁では無いが、そう珍しいわけでもない。銀時が飲みにでた時はいつもの事である。
すっかり慣れてしまったも気にせず、神楽の見たいと言っていたドラマの音を聞き流しながら晩御飯を終えた。
ドラマを見終えて風呂に入った神楽が出てくれば、入れ替わるようにしてが風呂場へ向かう。
帯に手をかけた所で一瞬、窓が開いているのでは、と妙な感覚を覚えて風呂場の中を見れば窓は確りと閉っている。
やたらと神経質になっている自分の姿に自嘲の笑み浮かべたところで、扉の向こうから神楽のおやすみなさいと言う声が聞こえた。
どうやら今日のことで少し疲れたのだろう。いつもより早い就寝時間だ。返事をすると神楽の足音が遠のく。
銀時もいない。神楽も寝た。
何故だかちょっとした開放感に浸ったは、鼻歌交じりにいつもよりもゆっくりと時間をかけてバスタイムを満喫する。
いつもよりも少し長めにリンスを浸透させてみたり、爪の間を少し入念に洗ってみたり。
昼間に、神楽が見ているテレビを横目で見た時仕入れた情報で半身浴がいい、と言っていた事を思い出して少しだけ試してみたり。
果ては鼻歌が拳の聞いた演歌へ変わって行ったり、そうと思えば新八が時折音外れしながら、気持ちよく口ずさむお通の曲のサビ部分だったりと。
少しだけテンションが上がってきている様子だった。それも、今は一人だから、という気持ちがあるのだろう。
そんなが、銀時がもうすでに帰ってきている事になど気付いているわけもない。
元々懐が暖かいわけでもなく、一杯引っ掛けて軽く愚痴を聞きながら一つ二つと、つまみを口にして珍しくさっさと帰ってきた銀時は
いざ台所に行って戸棚のおかずを取りに行った時、風呂場からの声に気付いた。
また何かあったのかとも思ったが、微かに聞こえる声はどこか楽しげな声に聞こえるため、そうでは無いと悟る。
いつもならば放っておくところだが少量の酒が入っている銀時は、そっと扉に近づくと聞き耳を立てた。
聞こえてきたの歌声に思わず笑みを浮かべる。
「なにやってるアルこの変態」
「・・・っ!? か、神楽? あ・・・いや、これは違うんだよ。そうじゃなくて・・・」
「何が違うネ。どうせ覗く気だったんだろ。最低アル」
「だから違うって言ってんだろォォ!」
まだ眠りの浅かった神楽が銀時の帰ってきた音を聞き目を覚ましたついでに、厠へとでも行こうとしたのか。
居間を出た所で扉の近くに立ち、傍から見ればニヤつきながら聞き耳を立てる銀時へと冷たく見下した視線をぶつけてきた。
扉の前の騒ぎを聞き、慌てて風呂から出たは、顔を真っ赤にしながら銀時へ只管、聞いていたのかと問いただしてくる。
何も聞いてないし見ていないと弁解する銀時の言葉はさらなる疑惑を生み出し、ついには家を飛び出してしまった。
その日の夜、銀時が帰ってくることはなく、朝方になってどこで飲んできたのかベロベロに酔った状態で玄関先で倒れていた。
それを目の前には、介抱するか否か五分ほど悩んだと言う。
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