前へ進め、お前にはその足がある
>一夏の思い出 -act07-
崖の上で互いに睨みあう神楽と沖田の姿に、五人は暫し呆然とする。
「総悟!?」
「アレ? 何やってんの? 嫌な予感がするんですけど」
嫌な予感と言うものは的中しやすく、神楽は先ほど連れていってしまった瑠璃丸を使い沖田へリベンジするつもりらしい。
崖下の銀時達の必死の呼びかけにもまったく聞く耳を持たず、妙な空気が漂っていた。
「定春28号の仇、討たせてもらうネ。お前に決闘を申し込む」
「来ると思ってたぜィ。この時のためにとっておきの上玉を用意した」
カブト相撲をやるつもりである神楽だが、そのカブトムシはそこらの木で捕まえられるような普通のカブトムシとは違う。
見てくれはただの金色のカブトムシだが、その身についた付加価値はそこらの虫とは比べ物にならない。
傷などをつけたりすれば、下手をすれば切腹ものだと必死に止める為に声をかけつづける銀時と新八だが、やはり聞こえていないらしい。
慌てふためく近藤だが、逆に土方は落ち着きを払っている。
これは沖田の策であり、勝負を受けるフリでもして難なく目的のカブトムシを捕まえる事を考えているだろうと言う事だったが
見事にその予想は裏切られてしまう。
「凶悪肉食怪虫、カブトーンキング。サド丸22号に勝てるかな?」
どこからともなく現れたのは沖田を丸呑みしてしまっても違和感がないような、巨大なカブトムシ。
定春と同じように宇宙生物か何かだろう。だが何よりも恐ろしいのは、凶悪と称されるそれを手懐けている沖田である。
サド丸二十二号と瑠璃丸では、体格の大きさからして一瞬にして勝負が決してしまう。
もしかしたら、その明らかな優劣差によって神楽と戦わずして瑠璃丸を手に入れる方法なのではないか。
はそうではないだろうと思いつつも反面、希望をもたずにはいられない。
例えそうだったとしても、おとなしく引き下がる神楽ではなく、ケンカはガタイではなく度胸だとまで声高に宣言してしまった。
もう言葉で止まる二人ではない。こうなれば、間に入って止める他なく、しかし崖はそう簡単には登れそうにない。
ここは互いに力を合わせていくしかないという近藤の言葉に、今度は銀時と土方の意見がぶつかり合う。
「よし、お前が土台になれ! 俺が登ってなんとかする!」
「ふざけるな、お前がなれ!」
「お二人とも言ってる場合じゃありませんよ!」
「そうだよ! 言ってる場合じゃねーだろ! 今、為すべきことを考えやがれ! 大人になれ!
俺は絶対土台なんてイヤだ!」
「お前が大人になれェェ!!」
不毛な言い争いなどしている暇などなく、もちろん銀時達のしようとしている事など知る由もない二人はとうとう動き出してしまう。
サド丸が土煙を上げながら瑠璃丸へむかって突進するのが崖下からでもよくわかる。
虫の動きとしてありえない地響きを立てるサド丸に、瑠璃丸はともかく神楽は身構え、挑む気満々だ。
咄嗟に視線を交わした四人は先ほどまで言いあっていたのが嘘のように、三人が土台となり、その背を踏み台にして銀時は崖の上に登った。
「かーぶーとー狩りじゃああああ!!」
横からサド丸を蹴り倒し、瑠璃丸は守られた。
だが突然の銀時の乱入に沖田と神楽は不満を抱く。文句を言う二人の頭を殴り、久しぶりに聞く銀時のまともな説教が聞えた。
近藤たち三人はそのまま崖をよじ登っていくが、は流石に登ることが出来ずどうしたものかと辺りを見渡す。
落ち着いてみればなんて事はなく、自然と出来たものだろう傾斜がすぐ近くにあった。
「遊び半分で生き物の命もて遊ぶんじゃねーよ! 殺すぞコノヤロー!!
カブトだって、ミミズだって、アメンボだって、みんなみんな・・・・・・・・・」
地面に手をつきながら崖上へと登りきった時、銀時の言葉が不自然に途切れ、かわりに聞えたのはやけに鈍い、メキッと言う音。
右足を軽くずらせば、その下からは銀時に踏み潰されてしまった、瑠璃丸の変わり果てた姿が現れる。
「・・・みんなみんな死んじゃったけど、友達なんだ・・・・・・・・・。
だから連帯責任でお願いします」
せっかく助けられたと思った矢先の出来事に、全員開いた口が塞がらなかった。
一体どうしたらいいのかという相談から次第に誰の所為だという罪の擦り付け合いに発展し、最終的には取っ組み合いにまで
進んでしまいそうになったが彼らの動きを止めたのは、近藤の何とかしようという言葉。
何とかしようとしてなるような物ではない。それは誰が見ても判る。下手をすれば切腹することになるだろう。
策があるのか、自信有りげな誇らしい笑顔を浮かべてもう一度、先ほどと同じ台詞を言う近藤に皆は頷く事しか出来なかった。
森を出る前に、せめてもの罪滅ぼしとして瑠璃丸を埋め、弔ってやるのが達の出来る精一杯の事だった。
その後、全身を金色に染め兜を被った近藤と土方は当然の事ながら松平に切腹を申し付けられたが
自分の我侭であり、それも虫の命の儚さゆえだと何かを悟ったのであろうか。
将軍からの言葉に絆され、結局松平からは咎めは無いと言い渡されたことで事なきを得られ
後日、咎め無しの連絡を受けた真選組の隊士達は喜び、同じように連絡を受けた銀時達は口では心配していなかったと言いつつ
その実、連絡があるまで夜逃げでもするかなどと、妙な相談をしていたらしい。
しかし、ここで一番胸を撫で下ろしたのは他でもない。
男らしく自分に任せておけと言っていた近藤だったのは内緒の話である。
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