前へ進め、お前にはそのがある

>一夏の思い出 -act06-







結局、あの後も一日森の中を彷徨ったがカブトムシは捕まえられず、夜になってしまった。
達は宿営地のテントまで戻り、持ってきた荷物の中から野菜やご飯、カレーのルーなどを引っ張り出して
やはりキャンプにはカレーだろう。という発想の元、グツグツとカレーを煮込み辺りにはカレーの濃厚な香りが漂う。
ご飯もほどよく炊き上がり人数分を皿に盛り渡すが、真選組との一悶着の後からどうも銀時と神楽の機嫌があまりよくなかった。



「なんやパッとしないカレーアルな〜。
 わたし、芋とか野菜がドロドロにルーに溶けこんだ田舎カレーが好き言うたやろ」


「うぜーよコイツ!! 何で関西弁!?
 田舎が好きならご飯にどぶ水かけてすすってろ!」




あまりにも気が立ちすぎて、互いの些細な言葉ですぐに気持ちはささくれ立ってしまう。
神楽と銀時が睨みあうのを新八が宥めつつ、真選組は本当にカブトムシをとりにきたのかと疑問を口にするが
その横っ面に突然、神楽の張り手が炸裂する。
何をするんだと抗議しても、淡々とした口調で掌に張りついた蚊を見せて、蚊がとまっていたのを仕留めてやったのだと示す。
あまりにもそっけなく理不尽に感じる態度に、些か腹を立てつつそれに突っかかるような事はせずに
何とかその場を穏便に済まそうと努力する新八だが、話しを元に戻そうとした時今度は逆の頬を銀時に叩かれた。
確かに蚊が止まっていた事は新八の正面に座っていたも知っていたし、先ほどから周りをやたら大量の蚊が飛んでいる。
流石に二人にやられては新八も逆上するが、それでもここで言い合いをしてはいけないと思い留まりいい加減にしろと諌めれば
銀時と神楽も互いに大人気なかったと反省の色を見せて、その場が丸く収まろうとしていた。


しかしこれで大人しくなるわけもなく、今までの行動は全て先の行動を起こすための布石である事はも理解していたらしい。
だがここで突っかかればいい目は見ないだろうと、そっとその場から少し身を遠ざければ同時にぶつかり合う三人。
互いに隙を窺い、狙っていたわけだがその結果はあまりにも無惨なものだった。
痛み分けなどと素直な終り方などなるわけもなく、せっかく煮込んだカレーは鍋ごと倒れ、その全てが地面へと流れてしまった。
一人コッソリ逃げたは、三人に目をつけられる前に皿に残った自分の分のカレーを、今までに無い早さで食べ尽くそうとしたが
自分が痛い目を見ている横で、一人がオイシイ思いをするなどけして許されないのが万事屋のルール。
神楽は自分の空になっている皿を目掛け投げつけ、それに気をとられて避けようとした反動で手から皿が滑り落ちてしまった。



「なにするの神楽ちゃん! いくらなんでも私、許せる事と許せない事があるよ!!」


だけおいしい思いなんてさせないアル!! 一人は皆のために、皆は一人の為に!」


「使いどころ違ェェェ!!」





激しく争った後、結局起きていたら争うばかりだと空腹から目を逸らして寝ることにした四人だったが
寝袋に包まれ横になろうと、激しい腹の虫と胃の痛みが微かに感じる眠気すらも遠くに追いやってしまう。
唯一、一皿を完食したのは神楽だが、たった一杯で満足のいく胃の持ち主ではない。当然三人から漏れるのは文句ばかり。
銀時は気の所為だと言うが、気のせいで終わらせられないほどの空腹感に心が折れそうだった。
あまりの空腹にとうとう幻覚などまで見えてきてしまったのか。は先ほどから何かが焼けるような、香ばしいかおりに脳内では
あれが食べたい、これが食べたいとあまりにも虚しい映像が流れている。
辺りを流れるその匂いはどうやら気のせいでも幻覚でもなく、神楽が起きてみればテントの前でこれ見よがしにバーベキューをする真選組の姿。



「うめェェェェ!! やっぱキャンプにはバーベキューだよな!」


「カレーなんて家でも食えるしィ! 福神漬けもってくるのめんどくせーしィ!」



ただ呆然とした顔で、口の端から涎を垂らしながら彼らを見ていれば沖田がバーベキューの串を片手に
こんな所で寝ては蚊に刺されるといいつつ、持っていた串を落としてしまう。
それを目の前に落したまま、まだこちらにたくさんあるからという隊士の声に答えつつ戻る傍ら、落ちたそれを食べてもいいと言ってくる。

の中で他人に対して、ここまでどす黒いものを感じた事は初めてであり、無言のまま四人が顔を見合わせればそれぞれが準備にかかる。
銀時は火を熾し、神楽は荷物の中から酢昆布を取り出す。新八との二人で串へとそれを刺して火の近くで炙り出した。
酢昆布を焼きながら、バーベキューなどダサいと彼らを馬鹿にした目で見つつそれを食べる姿を痛々しいと言ってくる。
正直空腹を通り越してしまい、胃に入れば何でもいい状態であるはそんな言葉も鼻で笑って終らせた。
目の前で延々と焼きつづけられるバーベキューへは、神楽がそれ相応の報復をして退けた後、仕返しが出来たことに幾分か
気分がよくなった銀時達は土方たちが退いていった後、漸く眠る事ができた。








「昨夜のアレは非常に腹立たしかったです。悔しいんで、こうなったら意地でもカブトムシとりましょう!」


翌朝になり気合を入れたの第一声はそれだった。
銀時も新八もそれには同意らしく、少し日が高くなった時間から森を昨日同様に散策を開始した。
暫くして神楽は木にとまった金色のカブトムシを見つけた。対し銀時は銀蠅のような汚いものだから触るなと言う。
それでも金色でカッコいいと諦めきれないのか、神楽は渋るがああだこうだとそれらしい言葉を並びたてながらさっさとその場を離れていく。
結局諦める事にしたのか、神楽も後からついてくるが少しだけ残念そうな顔をしていた。



「大丈夫だよ、また見つけられるって。カブトムシは一匹じゃないんだから」


「うん。もっと、でっかいのつかまえるアル!!」



の言葉に漸く諦めただろう神楽だが、先ほどの金色のカブトムシが飛んできてその頭の上に乗ってしまった。
気付いた銀時は自分の帽子で叩き落とそうとするが、あまりにも勢いがよすぎたせいか的を外して神楽の頭を叩くだけに終わる。
カブトムシも必死に逃げるがけして神楽の頭から離れようとはせず、銀時の叩く力は強まるばかり。
痛がる神楽の後ろからは昨日同様に全身ハチミツ塗れの近藤が走って来たのに気付いたは、思わず小さく悲鳴を上げてしまう。
仕方がないだろう。なにせ全身がハチミツ塗れでフンドシ姿なのだから。
勢いよく走ってきた近藤は途中、つまづき転びそうになり、振り下ろされた手は思い切り神楽にチョップを食らわしてしまう。
反動でそのカブトムシは地面に落ちてしまうがすぐに神楽が助け拾いあげ、定春二十八号を継ぐのはこのカブトムシだと喜ぶ。
背後では必死になって何かを言おうとする近藤が居るが、その言葉など耳半分にも聞きいれていない。



「今こそ先代の仇を討つ時アル! 行くぜ、定春29号!!」


「オイぃぃ!! 待てェ、それは将軍の・・・」




土方の言葉が全て終わる前に、その襟首を掴み引き止めた銀時は言葉を聞き逃さなかった。





「将軍の・・・、何?」









先ほどの金色のカブトムシが将軍のペットの瑠璃丸であり、真選組はその捕獲の為にこうして
隊士総出で森の中をカブトムシ取りに来る羽目になってしまったらしい。



「オイオイ、たかだか虫のためにこんな所まで来たの? 大変ですね〜、お役人様も」


「善良な一般市民の目の前で嫌味ったらしくバーベキューしたりもその為なんですよね。大変ですねー、本当に」


「だから言いたくなかったんだ」



若干から目を逸らしつつ言われた土方の言葉だったが、近藤はこうなれば協力してもらうしかないと言い出す。
しかしあそこまで見事に嫌な思いをさせられたのだ。もさすがに「協力します」などと、素直に首を縦に振るわけもない。
もちろんそれは銀時も同じであり、将軍からの依頼ならそれなりの物が貰えるのだろうから、その六割を報酬として寄越せと要求。
神楽が瑠璃丸を連れている事を考えれば、ここで逆らうのは彼らにとって得策ではない。
これで暫く家賃や生活に困る事は無いと、新八と銀時が高笑いをしている傍ら、はとんでもないものを見つけてしまった。



「銀さん、アレ、アレ」


「あ?」



目の前に崖のように切り立った高い場所。そこでは神楽と沖田が対峙していた。





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