前へ進め、お前にはそのがある

>一夏の思い出 -act05-







全員むぎわら帽子を被り虫取り網を持ちやってきた森の中。
背負っていた風呂敷の中から取り出して組み立てたテントというには、少し様相が違う宿営地。
定春二十八号がやられてしまい、神楽はカブト相撲で沖田にリベンジするべくカブト狩りに行こうと言い出したのが発端。
最初でこそやる気などなかった銀時達だが、ちょうどつけていたテレビでカブトムシブームを取り上げている番組をやっていた。
その中でカブトムシは種類や大きさなどによっては、高値で取引されるという話題を耳に入れ、こうして万事屋総出でのカブト狩りとなり今に至る。






「おめーら、巨大カブトをつかまえるまで帰れると思うなよ。ビジネスできてんだからな、ビジネスで。
 キャンプ感覚ではしゃぐんじゃねーよ。森は魔物だ。うかれてたらあっという間に飲みこまれるぞ」



銀時はそう言うが、は銀時の風呂敷の中におやつが入っていた事を知っている為
微妙な面持ちで銀時の事を見ていたが、生憎とそれにツッコミを入れられる立場ではなかった。
の背負う荷物の中にも、数種類のおやつが入っているからである。
神楽も食料をしっかり買いこんでいるといって風呂敷を広げたが、中からでてきたのはどう見ておやつの類。
皆考える事は一緒だった。



「バカヤロー、何うかれてんだ。
 オヤツは三百円以内におさめろって言っただろーが!!


「お前もかいィィ!」


「えっと・・・ごめんね新八君」


さんもですか!? あーもう、皆もっと真面目にやって下さいよ!」



の謝罪の言葉を聞いて、何の意味を持っているのかすぐに理解できた新八のつく溜息はあまりにも深かった。






オヤツについての論争は新八のツッコミによって何とか収拾がつき、漸く森の中を散策し始めた四人。
歩きながらも注意深く、木の幹などを見るがそう簡単に捕まえられるわけもなく。
いまだカブトムシはおろか、虫の影すら見かけない。
すぐに見つかるかと思っていた神楽はどうしたらいいのかと銀時に聞くが、全身にハチミツでも塗っておけと適当な事を言ってくる。



「流行ってるって話しだし、この辺のはもうとりつくされてるのかもしれませんね。 ん?

「どうしたの新八く、・・・え?



歩きながら新八が動きを止め、視線が釘付けになった所を見れば、そこには全身にハチミツを塗り立っている人物が一人。
後姿だがどこかで見たような気がする。下手をすれば知り合いのような気にもなったがはあえて何も言わない。




「銀サン、帰りましょうよ。この森、恐いです」


「身体中にハチミツ塗りたくってたネ」


「気にするな。妖精だ、妖精。樹液の妖精だよ。ああして森を守ってるんだよ」


「妖精ですかあれ? むしろ変態の方がしっくりきますよ、アレ




知っている顔に似ているだの、ゴリラだのと言うが誰一人として明確な個人名は口にしない。
皆一様に今見た事を否定することに必至だが、否定しきる前にまた見慣れた人物が木の幹にマヨネーズを塗っている姿を見つけてしまった。
今度はそれを妖怪だなんだと、銀時はまたも三人の言葉に淡々と返してくる。
その時突然、新八は大きな声で叫び何事かと問う前にの視界にも、その叫びの原因がうつりこんだ。
身の丈二メートルはあろう、大きなカブトムシが目の前の木にとまっているのを発見し、皆で木の幹を蹴り揺さぶり落しに掛かる。
全員の容赦無い攻撃にとうとう木から落ちてきたカブトムシに駆けより、神楽はこれで仇がとれると喜んだがその喜びも刹那で終わる。





「なにしやがんでェ」





振り返ったのはカブトムシのきぐるみを着て倒れている沖田だった。





「お前こんな所で何やってるアルかァァ!!」



「見たらわかるだろィ」


「いや、わからないから聞いてるんです」



仰向けに倒れた沖田は起き上がろうとするが、亀の如く一人では起き上がれ無いと助けを求めてくる。
そのままではあまりにもかわいそうだとは手を貸し、漸く座ることが出来た沖田の後方からは聞き覚えのある声。
できればあまり見たくは無かった、全身ハチミツだらけの近藤を筆頭に集まったのは真選組。
何をしているんだと聞いてくる近藤だが、それはこちらの台詞だと出かけた反論の言葉を何とか飲み込む。

どうやら真選組もカブトムシとりの為に森へ来たらしいが、彼らは遊びではなく仕事。
その為、邪魔だから帰れとまで言ってくるがもちろんそれに大人しく従うような者は居ない。
神楽は定春二十八号の仇をとる為にきたのだと声高に言う。



「何言ってやがんでェ。お前のフンコロガシはアレ、相撲見て興奮したお前が勝手に握りつぶしただけだろーが」


「誰が興奮させたか考えてみろ! 誰が一番悪いか考えてみろ!!」


「お前だろ」


「まあ、子供には良くあることですから・・・」



定春二十八号はどうやらカブト相撲で潰されたのではないことは明らかになったが、だからといってカブトムシとりをやめる理由にはならない。
飽くまで神楽は沖田へリベンジ。銀時は金儲けの為にカブトムシをとる気でいる。
しかしこのままでは何時ぞやの花見の時のように、真選組と万事屋で争う事になるのだろうかとが考えていた所に
双眼鏡を覗く隊士のカブトムシを見つけたという言葉が響き渡る。瞬時に反応した新八と以外は、一気にその気へ向かって走り出した。



「皆落ち着いて!! そんなふうにしたらカブトムシが逃げちゃうっ」


「いいですよさん、放っておいて。どうせ聞こえやしませんし、無駄です」



新八の言葉通り、の声が聞こえる事は無くそのまま全員で醜く激しい争いの末、カブトムシのとまっていた木は折れ
一匹のカブトムシはその喧騒から逃れるようにして、飛び去ってしまった。





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