前へ進め、お前にはそのがある

>一夏の思い出 -act04-







夕暮れ時のかぶき町をは神楽と二人、買物袋を下げて万事屋へと帰宅する為歩いていた。
何の歌かわからないが神楽は上機嫌に鼻歌で歌い、その様子をも楽しげに見ていればやがて見慣れた看板が見えてくる。
二階へ上がろうと階段へと足をかけた所で、神楽がいつも銀時がバイクを停めている場所でしゃがみ込んでいる事に気づき
どうかしたのかと上から声をかければ神楽が何かを掴んでへそれを見せた。


「ねえ、。これなんて虫アルカ?」

「え? ・・・うーん、私虫には詳しくないからなァ」

「もしかしてこれって、カブトムシとかの仲間かな!?」


ここ最近子供の間でカブトムシ同士で相撲をとらせるのがはやっている事はも知っていた。
神楽もやりたいらしかったが、残念ながらカブトムシもいなければクワガタもいない為に、いつも子供たちがやっているのを眺めているばかり。
万事屋の中で取れるものなどせいぜいゴキブリか小さなクモかアリ程度だろう。
神楽がカブトムシの仲間かと聞いて掴んで見せたそれはどう見ても、カブトムシには見えない。
だからといってクワガタにも見えないが、先ほど言った通りは虫には詳しくない為に、首をかしげわからないと答えるしかなかった。
口を尖らせて違うのかと俯いたように見えた神楽に、が思い出したのは以前、小さい子供が置いていった虫図鑑。
なくし物をさがしてほしいがお金がない為、大切な物を依頼料代わりにするといって持ってきたものだった。
まさかそれが今ここで役に立つとは思っていなかったは、とりあえずそれで調べてみようと提案をすれば神楽は綻んだように笑う。
潰してしまわないように力を加減して掴みながら階段を駆け上がり、虫かごのなかにそれを掴みいれれば早速図鑑を引っ張り出して調べ始めた。


「ただいま銀さん、新八君」

「おかえりー。つーか、神楽はどうしたんだ? 帰ってきて早々あんなもん引っ張り出して」

「あれ? この虫かごに虫入ってますね。どうしたんです?」


二人の当然の疑問。
それに順々に答えながらは買ってきた物を袋から出して新八と二人で冷蔵庫へと仕舞う。
今日の晩御飯は何にしようかと銀時へ聞けば簡単なものでいいだろうと答えが返ってくる。
明確な答えがないのが一番困る、と苦笑しながら味噌汁でも作ろうと冷蔵庫から味噌を出そうとした時、居間の方から神楽が何かを騒ぎながらやってきた。


「銀ちゃん、銀ちゃん! コレ見るアル!!」

「ウルセーぞ神楽ァ。騒ぐ時はパチンコに勝った時と
自販機の下から五百円見つけたときだけにしとけー

「へェ? 銀さんそんな事してるんですか?」


自販機の下に手を突っ込み、誰かが落したかもしれない小銭を弄り探す銀時の姿を想像しながら
は聞き逃すなどと言う事はせずに笑顔のまま問えば、少々慌てた様子で物の例えだと弁解をする銀時。
あえてそれ以上深くは突っ込まないでおいたが、最後に笑みを深くする事でそんな事はしないようにと無言のまま釘をさしておく。
心なしか口元が引きつりながら冷や汗を流しているように見えたが、それもあえて見ないフリをした。
前のように、すぐに手が出ないもののその分、纏うオーラに重さが増しているのは気のせいではあるまい。
これ以上と目を合わせていられないとばかりに神楽へと振り返り、一体どうかしたのかと話題を無理にそちらへと変えた銀時の視界に飛び込んだのは虫図鑑のページ。
神楽がそれを広げながら、先ほどの虫はこれだったのだと嬉しそうにはしゃぐ姿は微笑ましい。
しかしその指し示した虫の名称を見て三人は暫く固まってしまった。神楽はそんな三人の様子に気付く事もなく、虫かごをもってクルクル回る。



「決めたヨ! カブトムシじゃないけど、私この子をそこらのカブトムシなんかに負けないぐらい立派に育てるアル!!
 その気になれば定春ぐらいでかくなるネ!!」


「・・・いや、定春の大きさは・・・・・・無理じゃないかな?」



の絞り出した言葉はそれが精一杯だった。
虫かごの中にいるものと寸分違わぬ姿の写真が載ったページが開いたまま落ちている図鑑。
そこにはスカラベと書かれながら、その横にはさらに太字でフンコロガシと虫の名称が記載されていた。










数日が経ちがバイトの帰り、橋を歩いていた時に神楽のなんともいえない悲痛な叫びが耳に入った。
何処からだろうと辺りを見渡して見るが姿は見えず、首をかしげならがふと川岸を見れば神楽が地面に手をついて項垂れている姿が視界に入る。
ただならぬ気配を感じ駆けより声をかければ泣いてはいないものの、ものすごく悔しそうな顔で振り返った。



「どうしたの神楽ちゃん!?」

・・・私・・・私悔しいヨ!!」



胸倉を掴んでくるような勢いでアイツがだの、定春二十八号がだのと言ってくるが、どれも的を得ない単語の羅列に過ぎず
は落ち着くように言うが一向に治まる気配を見せない神楽は、興奮もそのままに立ちあがり腕を振り上げて叫んだ。







「こうなったら見てろよ、リベンジじゃー!! カブト狩りじゃァァァ!!!」







の言葉など聞こえていないかのように、叫びながら神楽は万事屋へと走っていってしまった。
それを呆然として見つめていたはただ一人佇み、意外と元気そうな神楽の姿に半ばホッとしながら歩いて万事屋へと帰っていく。
内心、明日からバイトを休む事になりそうだと思っていたの予想は見事に当たったのは言うまでもない。





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