前へ進め、お前にはそのがある

>一夏の思い出 -act03-







息を切らして戻ってきたが銀時へとスナックを渡せば、それをもって茂みに隠れる落の元へと近づいていった。
の居ない間に段取りを決めたのだろう。既に新八と神楽の姿は無かった。
何をすればいいのかわからないが、はとりあえず自分も茂みにでも隠れた方が良いだろうと適当な場所にしゃがみこむ。
微かに、遠くからヘドロがこちらへ向かってくる姿が見えた。
少し離れた茂みからは、ヘドロの姿を見て驚き逃げようとした落へとまた逃げるのかと問い掛ける銀時の言葉が響く。


「わからねーのか。今度はあんたが肝を試す番なんだよ。
 落さん、男は毎日肝試して生きてるようなもんなんだ


銀時に対し反論しようとした落の言葉に被さるようにして、辺りに不気味に響くのは神楽の皿を数える声。
それに気付き足を止めたヘドロは心なしか青ざめているように見える。
神楽がまともに皿を数えたのは三枚までで、それ以降は以下省略で終らせてしまったが本人はすっかりなりきってセットの井戸から現れた。
井戸から這い出てまるでヘドロの行く手を遮るようにして立つと、それを見た落が危ないと声を荒げる。
落の予想に反してヘドロは驚き叫びながら来た道を走り戻ろうとする姿が視界に飛び込む。



あれっ!? 化け物が・・・なんかアレびびってない?」



逃げようとするヘドロの退路をさらに塞ぐように茂みから現れたのは新八。
その手にはフリスビーが一枚。








「フリスビーが一枚、二枚、以下省略。アレ、一枚たりない。うらめしワン!!








妙な設定付けをされた新八の演技に続くように現れた銀時は、にんにくを数えるというムチャクチャな自己設定のものだった。
しかしヘドロは本気で怖がっているらしく膝をついて頭を抱え振るえているばかり。
一瞬、ヘドロを囲うようにして立つ銀時達から視線を感じたは、意を決して音をわざと大きくたてるようにして茂みから出るとゆっくりと歩み寄っていった。








「ペーパーが一個、ペーパーが二個、以下省略。うらめし花子!!








冷静に考えればあまりにもムチャクチャだが、今この場ではノリと空気に任せている状態。
故にどういった設定で押し通そうとしているのか判らないにも、三人のスナックコールに何の疑問も抱かずノッていた。
どうやら先ほどに買ってこさせたスナックを落のポケットに仕込んだらしく、それを数えろというコールらしい。
落もそれに気付いたのか、ポケットの中に入ったスナックを見つけた。
暫しの思案の時。ここで前にでなければこれから先、本当に逃げの人生になってしまうだろう。
そうならないよう、とまで考えての事なのかどうかには判らない。それでもこれは、落がさらに一つ強くなる為の試練のようなものだと
スナックコールを繰り返す傍ら、内心で答えを導き出していく。
やがて前へと一歩、一歩。落はスナックをかじり数えながら歩み出てきた。








「うらめしやでござるぅぅぅぅ!! い”い”い”い”い”い”い”!!








最後の最後。
落は駆け寄っておどかそうとしたところでヘドロのパンチによって吹っ飛ばされてしまった。
その見た目に反し、内心は穏かで花を愛でる平和主義者のようなヘドロがその様な事をする理由など一つしかない。




「いやー、面白いデモンストレーションでした。新しいタイプの肝試しでしたね。
 ・・・でも、
殺生はいけない。あやうく虫をふむところでしたよ




あまりの結果に、銀時達は閉口するばかりだった。












結局その後、落は気絶したまま肝試し大会は終了となり銀時達の役目も終った。
着替えたあとは終わりも近づいてきて人も疎らの祭り会場内を、出口へ向かって歩いていく。


「あーあ、結局今年はあまり祭り堪能できませんでしたね」

「来年があるヨ。来年こそはボソボソの焼きそば食べるアル!」


既に片付け始めているやきそばの屋台を歩きながら見つめている神楽は、固く決意するように強く言う。
も店仕舞いをし始めている沢山の屋台を眺めながら、先ほどの色々な意味で強烈な肝試し大会ですっかりと忘れていたある事を思い出し
銀時達へと一言断って走り出す。その先にあったのは朔と知り合いの男がやっている屋台。
すでにほとんど片付けられてしまっていたそこへと駆けより、男へと声をかけてある物を受け取って戻ってきた。


「銀さん!」

「おいおい、走るとコケるぞ。で、どうしたんだ?」

「これ、どうぞ!」


銀時の目の前に突き出すかのようにして出されたそれは、りんご飴。
肝試しの会場へと向かう途中、は大会が終った後に取りに行くからと、とって置いてもらったものだった。
面を食らったような表情でそれを見る銀時がそれを受取るとは残りを神楽と新八へも渡す。
二人はそれを素直に受取ったのを見て銀時は漸くりんご飴を口にして、歩き出す。
大会に出ていては祭りも堪能できないだろうという、なりの思いやりもあってのことだがそれ以外にも理由があった。


「去年、落しちゃって結局渡せませんでしたからね」

「・・・別に気にしねーでもよかったのに・・・。まあ、その、・・・ありがとな」

「いえいえ。それにしても銀さんって、本当甘い物好きですよねェ」



















――― ホント、銀さんは甘い物が好きですよね



















「・・・え?」













の言葉の後、脳裏にフラッシュが焚かれたように響いた言葉。いつだったか前にも一度、同じような事があった事を思い出す。
記憶にあるのに覚えの無い言葉に妙な違和感を感じ、銀時は思わず足を止めてしまったが達は目の前で楽しそうに歩くばかりだった。


「銀さん? どうかしたんですか?」


立ち止まった銀時を振り返ったが問い掛けてきたが、わからない事を今ここで悩んだとしてもきっと答えなど何も見つからないだろうと
同じように止まり様子を窺う新八達へ何でも無いと答えながら、歩き出してりんご飴を一齧りした。






「甘ェ・・・」





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