前へ進め、お前にはそのがある

>一夏の思い出 -act02-







ー、袖まくって欲しいヨ。上手く捲くれないアル」

「はいはい。あ、銀さんお面ずれてますよ」

「ああ・・・こんなもんか? おい、新八、グラサン忘れてるぞ」

「あ、スイマセン」





それぞれが着替え、最終確認を終えて落の前に立った瞬間、その場の空気は一変した。
一人は包丁を持ち、一人はチェーンソーを持ちと多種多様の武器を携えて立っている銀時達。
その格好をお化けと称するには、問題が山積すぎて落の突っ込みもままならない。



「何しにきたの君達!! それ肝試しじゃないよね!? 肝殺りにいってるよね!?

「これ位やんねーと、今のすれたガキはびびんないスよ」


お化けの衣装をもってこいと言ったのに、誰一人お化けと言うより殺人鬼という称号が似合いの格好。
銀時はジェイソンの面にチェーンソーと言う出で立ちに、本当に怖いものは人の心だとまで言い出す。
ツナギを着て包丁を持つ神楽は落の突っ込みそのままに包丁を持った家なき子以外の何者でもない。
パンチパーマのカツラを被りグラサンをかけてスーツ姿の新八に至っては、ヤクザのお化けと言う究極にまで至る。



「で、お嬢さんは一体何なわけ!? この中で一番殺人鬼の匂いが漂ってるよ!」

「え、だってこれ某有名ホラーゲームに出てきたやつっぽい格好だから、いいかな?って。
 ほら、ちゃんと鉈にも血糊つけたんですよ!」

「よくねーよ! 血糊ついた白衣と鉈に般若の面ってどうみても殺人鬼だよ!」



結局今のままでは駄目だと言われ、去年の肝試し大会に使った衣装に強制的に変えられてしまった。
新八は狼というよりも犬のきぐるみ。銀時は吸血鬼であり神楽は皿屋敷の衣装。
はおかっぱのカツラを被りどうみてもトイレの花子さんである。


「んー、まァ、前よりはマシになったヨ」


「寺に吸血鬼ってどーよ? どーゆーセンス?」


「みんなバラバラアル。世界観一つに統一しろよな。ダメダメアル」


「お前らのさっきの格好は何が統一されてたんですかァ!? どこにセンスがあったんですか!!」


「落さん、落さん。トイレの花子さんなのにトイレがないっておかしい気がします」


「さっきの殺人鬼よりマシだよ! トイレじゃなくてもお寺に出る寺子さんとかでいいでしょ、もう!」


のツッコミに対しても一歩たりとも譲る気は無いらしく、無理矢理設定を捻じ曲げられてしまった。
たぶん、昨年でも同じようなやり取りがあったのではないだろうかとも思ったが、そこはあえて突っ込まないでおこうと押し黙る。
打ち合わせも何も出来ていない状態だが、夕方だと言うのにやってきた客に対しぶっつけ本番で行くしか無いと
銀時達へと配置につくように半ば叫ぶようにして言う落。
会場だと言われた寺の庭へと向かえば、井戸が見えた。皿屋敷の衣装を着ている神楽はそこが所定の隠れ場所になるだろう。
だが何を考えたのか、四人は皆固まってそこに隠れてしまう。
やがてやってきた親子連れにも気付かず、神楽は手に持った皿の意味を新八から聞いたが元々一枚足りない状態なのに
さらに一枚足りない事に気付き落ているのをとりにこうとしたが、それを阻止しようとした新八によってこけてしまい派手に皿全てを割ってしまった。
暫しの沈黙が流れた後、子供がそっと飴を置いて父親と共に去っていった。
あまりのグダグダ感に落は次はお手本として自分一人でやってみるから見ていろと言い出す。
結局言われるままに銀時達は寺の陰に隠れて様子を見る事となったが、やって来た客の顔を見て皆なんともいえない表情。



「あ、落さんヤバイ」



お妙と同じキャバクラで働くおりょうの二人。
心配しながらもコッソリと後をつけて様子を見ながら聞こえた会話からすれば、お妙は肝試しなどは苦手らしい事は窺える。
これなら大丈夫だろうと思っただったがそれが甘い考えだったと思い知らされるのに、そう時間はいらなかった。
やがて落の仕掛けたガイコツやら火の玉などが出てくるが、全て恐怖が行き過ぎキレたお妙によって台無しにされてしまう。
おりょうを後ろから羽交い絞めにして力を込めれば、その肋骨から嫌な音が響き渡る。それを流石にマズイと思ったのだろう。
落が制止する為に駆け寄ったが今の落は肝試しのお化け役の格好である。それもお妙の恐怖を煽る要因となってしまい、見事なとび蹴を頂いてしまった。
助けに行こうと腰を浮かしただったが、今出て行けば落の二の舞だ。
銀時がそれを無言で止め、おりょうの手を掴んだお妙はそのまま寺の出口へと駆け出してしまった。





「あの・・・よかったじゃないですか、かなり怖がってましたよ!」

「よかったっスね。より落ち武者っぽくなりましたよ」

「落ち過ぎじゃねーのか。地面にめり込んでるよ、もう」

「バンジーネ。裸族のバンジージャンプ並みに危険な落ち方ネ」



「もういやだァァァ!! 今年もう最悪!!
 もういや!! スタッフから客までメチャクチャな奴ばっかりじゃねーかよォ、もう!!」




慰めというよりも追い討ちをかけているようにしか聞こえない達の言葉に、落はとうとう崩れ落ちた。
まだ二組の客しか相手にしていないと言うのに、このグダグダ感は人伝に伝わり客などこないとまで嘆き始める。
町内会の役員を降ろされれば居場所がなくなると言う落は打ちひしがれ、万年平社員のために職場にも居場所がなくそれ故に家庭でも居場所が無いという。
それでも自分で自分の居場所を見つけ、それがこの場所であり、その為に日々努力をしてきた。それを誇りに思い、生きがいにしているのだろう。
は声をかけようとしたが、突然立ち上がると声高に叫んで寺の庭へと駆け出していってしまう。



「こんな所でおわらせてたまるかァァ!! 僕一人でも盛りあげてみせるぅ!!」



「お、落さん!?」

「落さーん!!」

「ダメだありゃ、どこまでも落ちていくわ」

「落だからネ。名前が落ちだからネ」



走り去っていった落の遠くなる背中を見送った達の耳に聞こえてきたのは、次の肝を試しにきた客の声。
しかし対応する人はどこか怯えたようすだった。
気になりそちらを見れば、一人そこに佇んでいたのはヘドロ。その姿を見て一瞬、の顔が強張る。




「・・・・・オイ。ちょっくらひとっ走りしてスナック買って来い」

「え? ・・・わかりました!」




突然何を言い出すのかと抗議しようとしただが、銀時の視線が落の走り去っていった方を見ていた事で
何か考えがあるものなのだと信じ、素直に従う事にして会場へと急いで走っていった。





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