前へ進め、お前にはそのがある

>一夏の思い出 -act01-







うだる暑さが続く夏も祭りの時期に入った。
一月ほど前からいつもは静かな寺や、その周りでは賑やかに屋台の準備をする者も多く
ここかぶき町でも臨時に出店する店は少なくはない。
だがまるでそんな夏の風物詩などにまったく心を躍らせず、相も変わらず居間で暑いと項垂れたった一台の扇風機で暑さを凌ぐ銀時達。
日も傾き始めた夕方になり、漸く風も涼しくなってきた頃。電話が耳障りな音を立て鳴り響く。
いつもは率先して出る新八は、台所で夕食の準備中。仕方がないとばかりに銀時が気だるそうに立ち上がり受話器を取った。




「もしもし〜、万事屋ですけど・・・」



『 あ、もしもし。私かぶき町町内会役員の落ですけど、明日の肝試しの打ち合わせについてなんですが・・・ 』




明日の肝試しは、本番前に打ち合わせとリハーサルを行う為昼には寺にきてくれという電話だった。
毎年祭のイベントの一つとして行われる肝試し。今年のお化け役に万事屋の面々に白羽の矢が当たり、皆それぞれ一応の用意はしていた。
だがあまり乗り気ではないのは火を見るより明らかだ。

きちんと内容が頭に入っているのかいないのか。銀時は普段の倍はやる気のない生返事で始終相槌を打っていた。
受話器を置いて暫くしてがバイトから帰ってきたらしく、それを知れば微かに皆の目に生気が宿る。
今年も例に漏れず、朔の店も出店をするためは去年同様連日、その出店用のメニュー作りなどの手伝いをしていた。
そしてその大量に生産された試作品などは万事屋の晩御飯のおかず、若しくはおやつとして加えられるのが常である。


「ただいまー、今日は水まんじゅう貰いましたよー」


案の定の言葉を聞いた面々はさらに目が光り、銀時の頭からは先ほどの電話内容など全てが抜け落ちてしまっただろう。
電話があったこと事態も、たぶん他の二人の脳内から消去されているかもしれない。
誰一人として、電話の事など触れはしなかった。
に至っては電話自体があった事など知らないのだから、仕方がないと言えばそうなる。


「あ、明日は私午前中は朔さんの出店の手伝いに出るんで、先に会場行ってますね」

「おー。じゃあ夕方に寺な。ちゃんと衣装持って行けよー。
 忘れてもお前、銀さんはそこまで面倒見きれねーから」


食事が終わり、貰った水まんじゅうを皆で食べてまったりしていれば、やがて新八が家に帰り神楽が大欠伸。
そろそろ寝る時間だと、その日の夜は少し寝苦しくはあったが早々に皆床についた。





まだ昼間だというのにものすごい人通りである祭会場内。
昨年に比べまた人が多くなったのでは無いかと、目眩を起こしそうにもなるが今のは会場全体よりも
今、目の前に並び、注文をしてくる客の多さに目を回しそうになっている。
元々朔の店はそこそこに名の知れた団子屋。常連客を含め、口コミで訪れる客も少なくは無い。
日もだんだんと暮れ始め、人もますます多くなってきた。一番忙しいだろう時間帯であり、もそこで抜けるのは心苦しくもあったのだが
銀時に耳にたこができるほど、この行事に出る事はかぶき町で生きる為の掟だと、何度となく言われた。
その大半は、何故暑い日にそんな事をしなければいけないのかという愚痴から始まったのだが。


「それじゃすいません、朔さん。私はそろそろ行きます。皆さんも申し訳ないです」

「いいんですよ、さん。お化け役、頑張ってきて下さいね」


朔や他のバイトの人たちへと頭を下げると、人込みの中を足早に寺へ向かった
階段を少しだけ駆け足で上ると、突然神楽の声が聞こえてきた。




「スイマセンしたっー!!」



「私も長年生きてきたけどね、こんな攻撃的なスイマセンでしたは初めてだよ」



「・・・あの、銀さんたち・・・何やってるんですか?」




この肝試しを取り仕切っている役員である落とその前には座り込みスイカを食べている銀時達。
落の足元には粉々に砕け散った西瓜の皮が落ちていた。
本来ならば肝試しの本番に向けて昼間に一度、打ち合わせやリハーサルなどをやる予定だったらしいという事を、はここで初めて聞かされる。
その事を昨日電話で伝えたというのに、銀時達が寺に姿をあらわしたのは夕方。
怒った落だったが元よりやる気のない銀時達はそのまま帰ろうとして、それを引き止めるべく西瓜を振舞ったらしい。


「あの・・・すいません。私何も知らなくて・・・」

「え、何も聞いてないの? ちょっと坂田さん、昨日電話したよね? なのになんで伝えてないの?
 どーするんだ、このままぶっつけ本番で肝試しを始めてもしケガ人でも出たら」


打ち合わせ無しで本番に入るのは、危険だという落。
逆に銀時は打ち合わせなどなくとも、そういったものは自然と周りにつられてはしゃぐものだと言う。
とにかく自分たちに任せておけと言う銀時へ、あまりウダウダ言っているのも時間の無駄だと判断したのだろう。
落は渋々ながら頷いた。


「あ、君達ちゃんとお化けの衣装持ってきたんだろうね?」

「大丈夫っすよ。俺らはね、やる気は本当無いけどやる時はやりますから」

「結局それ、やる気あるのか無いのかわからないんだけど・・・・」


不安を駆り立てる銀時の言葉に、顔が強張っている。
皆それぞれもってきた衣装に着替えようと移動し始めたが、ただ一人。だけはそこに残っていた。
どうかしたのかと問う落は、の視線がある一点に注がれている事に気付かない。



「あのスイマセン、着替える前に私も西瓜貰っていいですか?」


「君も随分とふてぶてしいな!!」



自分一人だけ食いっぱぐれるのは嫌だったらしく、とりあえず一切れだけ食べ終えるとは漸く着替えに移動し始めた。





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