前へ進め、お前にはその足がある
>絆 -act07-
沈黙が流れる居間に響く激しい雨音。沖田の持ってきた話に新八も神楽も顔を俯かせた。
そんな二人にも何も言えずも同様に口を少しだけ噛み締めて黙る事しかできない。
「ゴメン銀ちゃん」
「僕らが最後まで見とどけていれば・・・」
「オメーらのせいじゃねーよ。野郎も人斬りだ。自分でもロクな死に方できねーのくらい、覚悟してたさ・・・」
「銀さん・・・」
先ほどから銀時はデスク前にこちらに背を向け座っている為、その表情は分からないが少なからず予想はしていたのかもしれない。
はそれでもまさかこんな事になるとは想像もしておらず、つい先日会った道信の事を思い出す。
そしてその道信を慕い、笑い、幸せそうだった子供たち。
この先あの子達はどうなるのだろうと思った矢先の子ども達の引き取り先を探すという沖田の言葉に、内心ホッとしたのもつかの間。
「! テメーら。ココには来るなって言ったろィ?」
扉の開く音と共にそこに居たのは廃寺にいた子供たち。
道信の敵をとってくれと泣きながら頼む姿に言葉が見つからず、ただ見つめる事しか出来なかった。
テーブルの上に広げられた玩具の数々。それも使い古され所々擦り切れていたり、汚れがついていたりしている。
帰れという沖田の言葉も無視して子供たちは泣きながらも言葉を続けた。
「・・・僕知ってるよ。 先生・・・僕たちの知らないところで悪いことやってたんだろ? だから死んじゃったんだよね」
子供とは、大人が思う以上に隠された真実を時に受け止めるものだ。
それをはよく知っていた。
昔の自分も、そうだったから。
「でもね、僕たちにとっては大好きな父ちゃん・・・ 立派な父ちゃんだったんだよ・・・」
泣きじゃくる子供たちの姿に、昔の自分を映し出す事は無かった。
昔の自分は笑って誤魔化す事しかできず、こうやって泣く強ささえ持っていなかったのだから。
「オイ、ガキ!」
銀時の言葉にデスクの前に居た子供はきょとんとした顔をして銀時を見た。
自分も集めているといいながら子供が差し出したシールを手に取り、立ち上がるその姿には目を向ける。
「コイツのためなら何でもやるぜ。後で返せっつってもおせーからな」
「兄ちゃん!」
迷いのないその姿には一瞬驚き、次には口元に薄く笑みを浮かべていた。
どこまでも真っ直ぐで、自分の中の思いを曲げないその姿が好きなのだと改めて認識する。
きっとどんな不利な状況だといってもその足は止まらないだろう。
「酔狂な野郎だとは思っていたが、ここまでくるとバカだな。
小物が一人はむかったところで、潰せる連中じゃねーと言ったはずだ・・・ 死ぬぜ」
「オイオイ何だ。どいつもこいつも人ん家にズカズカ入りやがって。テメーらにゃ迷惑かけねーよ。どけ」
ドアの前に凭れかかるようにして立っていた土方の言葉に、銀時はさして気にした風でもなく返す。
わざわざ死にに行くようなものだという土方へ行かなくても死ぬと言う銀時の目は真っ直ぐと前を見据えていた。
「俺にはなァ、心臓より大事な器官があるんだよ」
それは自分の中にある絶対に曲げられない思いがあるからこそ言える言葉。
「そいつがあるから俺ァまっすぐ立っていられる。フラフラしてもまっすぐ歩いていける」
銀時の言葉一つひとつがの心にも響き渡る。
「ここで立ち止まったらそいつが折れちまうのさ。 魂が、折れちまうんだよ」
玄関の向こうへと姿を消した銀時。は視線をそこへと向けたままだった。
土方は見えなくなった銀時へととんだロマンティズムだと言うが、思わぬほうから言葉が返って来る。
「なーに言ってんスか? 男はみんなロマンティストでしょ」
「いやいや女だってそーヨ、新八」
目の前で新八と神楽が玩具の山から一つ見繕って立ち上がり、銀時の後を追うようにして外へと出て行った。
「オッ・・・オイてめーら・・・」
「まあまあ、そんな怒鳴らないで。血糖値上がっちゃいますよ」
「うるせー・・・ってアンタも何やってんの!?」
は玩具の山からデンデン太鼓を一つ持つとそれを鳴らしながら玄関へ向かう。
静止の言葉を向けてくる土方へ振り返り、は笑顔のままに答えた。
「皆それぞれの曲げられない思いのために行きました。
私は傷ついても歩くって決めた、自分自身のために行きます」
この先悲しい事が起ころうとも、辛い事が待っていようとも目を背けないために。
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