前へ進め、お前にはそのがある

>EX..05-06 手折れぬ花







銀時とが居なくなった後、土方はタバコに火をつけると吸いこみ煙を吐き出した。


「言ってはやったが・・・あいつらが大人しくしている訳ァねーな」

「それを知っててわざわざ忠告だなんて、土方さんも随分と暇ですねィ」

「好きで忠告したわけじゃねーよ。一般市民をテメーが巻き込もうとしたからだろうが」


ちゃっかりと追加注文したお茶を飲みながら沖田は土方の言葉を右から左へと流した。
巻き込んだといわれてもそれに反論をする気も、弁解をするつもりも全くない。自分の正しいと思う事をやったまでの事である。
それに断ろうと思えば向こうにはそれができたのだ。
あそこまで連れて行き、それでも『自分たちには一切関係ない』と斬り捨てて、知らぬ存ぜぬを通せば良かったまでの事。



「まぁ、それができるほど腐っちゃいねー事は知ってましたけどねィ」



それを知っていてあそこへ連れて行ったのだから大概に性格が悪い。
しかしそれも承知の上である。今更それを罵られても今更だとケロリとした態度で返しただろう。
隣で呟かれた沖田の言葉は土方に微かに聞こえていたらしいが、内容までは捉えられなかったらしい。



「あ? なんか言ったか?」

「いいえ何も。何ですか? その年で幻聴ですか、こりゃもうダメですね。潔く死んでくだせェ」

「てめぇ・・・、まあいい。おい山崎、ヤツ等の事張ってろ」

「はい!」



自分達の座った席から死角になる場所にいた山崎を呼びつけすぐに指示を出した。
店を出た山崎は人込みの中小さくなった銀時達の背中を見つけ、その後を付かず離れず追いかける。
視線の先で突然走り出しただったが、銀時はマイペースに歩いている。山崎は慌てずに物陰に隠れ様子を見ていた。



山崎が銀時達を尾行し始めた頃、沖田は席を立ち店を出ようとしていた。今回は全てが土方の奢りだという事で、レジは素通りする。
それに文句をいいたそうな顔をしていた土方だが、新たに出したタバコの味を堪能する事でそれを我慢した。

「総悟、テメーは端から奴等がここまで首突っ込む事を知ってて巻き込んだのか」

土方の問いは先ほど呟かれた沖田の言葉が答えとなるが、もう一度言うほど沖田は優しくは無い。
ほしい答えが返ってくることなど全く期待はしていない土方も、なんとなく聞いただけである。



「さあ、どうですかねィ・・・・。ただ一つ、分かった事がありますがね」

「分かった事?」



闘技場で見た、真っ直ぐ相手を捉え自分の意志を通そうとするの姿。
例えて言うならば常に鞘に収まっていた刀が初めて、その刀身を光に当てたような一瞬の光が見えた。
それは抜き身の刀身よりも鋭く、闇を振り払い。何にも汚されることなく、斬るものだけ斬れば後はまた鞘に収める。


抜き身の刀身を獣と評するならば、あれは花だろう。



さんは、さしずめ鈴蘭って所ですかねィ」

「オメーにしては珍しいじゃねーか。誰かをそう評価するなんてな」



ただ、それは毒を持っている。


愛らしい姿に似つかわしくなく、高潔で何者にも犯される事を良しとしない。
屈服する事を良しとせず、咲き続ける為ならば傷つく事すら厭わない。
見た目が愛らしい花にまさか毒があるなどと、誰が思うだろうか。

そしてそれは、きっと自身も気付いていないだろう。
なんと厄介な事か。




「ただのお姫様かと思ったら、とんでもねー武器を持っていたって事ですよ」




愛らしい笑顔を振り撒く花の奥に隠された毒は、けして手折れる事のない強い心。
その心が折れるぐらいならば、傷つく事を選んだ。その強さに、惹かれたのは自分だ。


ただその思いは恋などと言う甘いものではなく、目の前の毒に触れたときどうなるのかという興味からで。


きっとそれは彼等の中だからこそ輝くものだろう。
そしてその心を保つ事ができるのも、彼等の中にいるからだろう。




「本当、面白い人たちですね」




小さく笑うと沖田は夕日を背にして歩き出した。





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