前へ進め、お前にはその足がある
>絆 -act08-
闘技場前、扉の向こうは既に前聞いたものとは違う声が響いている。
ここへくる途中に銀時の姿を見失い、ついでに少しだけの寄り道をした達三人は銀時とは出遅れての登場となった。
この扉の向こうでは、銀時が暴れているのだろう。
「本当にいいんですかさん」
「今更なに言ってるネ新八。いいから来たに決まってるアルヨ」
「うん、もう腹は括ってるもの。さ、早く行こう!」
お面によってくぐもった言葉。
まっすぐと闘技場へ向かわなかった理由はただ一つ。このお面を手に入れるためだった。
中へ入れば闘技場の真ん中で銀時が天人であろう、鬼の姿をした相手に攻撃を受けた時だったが。
は銀時ならば大丈夫だと新八と神楽の後を付いて歩いていく。
観客席に着いたところで座らずに居れば近くにいた者達が文句を言おうとしていた。
だがそれに構っている暇は無い。既に目の前では銀時が囲まれていた。
「神楽ちゃん」
「わかってるヨ」
傘を構えて躊躇わずに撃ち込めば、周りの者達が怯みまるで蟻の子のように固まりとなって逃げる。
自分たちの周りに居た者達も逃げ惑った。
「なっ、何者だアイツら!?」
その言葉をまるで合図にしたかのようにはお面を外し言葉を紡いだ。
「ひとーつ」
「人の世の生き血をすすり」
「ふたーつ!!」
「不埒な悪行三昧」
「「「みぃーっつ!!」」」
三人で銀時へとその先を絆せばしょうがないやつ等だという態度でいたが、次いで出る言葉がとんでもないものだった。
「えー、みーっつ、み・・・みみ みだらな人妻を・・・「違うわァァァァ!!」
「銀ちゃん、みーっつミルキーはパパの味アルヨ」
綺麗な蹴りと共にツッコミを入れる新八とたぶん素でボケている神楽。
もちろんそれを聞き逃す新八では無い。
「ママの味だァァ!! 違う違う!」
「みーっつ醜い浮き世の鬼をですよ!!」
周りに漂う微妙な空気に少々居た堪れなくなったは勢いよく言えば、それを合図にしたかのようにポーズをとる。
「たっ・・・退治してくれよう万事屋銀ちゃん見参!!」
そして相手はこちらの漫才とも取れる態度も原因だろう。頭にきた様子で大勢が勢いよく襲い掛かってくる。
それを次々となぎ倒しながら銀時は死んでも知らないというが、給料もらっていないと言う新八と神楽が彼等らしい。
もちろんそれはにもいえる事であるが、とりあえず今は言わないでおこうと思った。
「チッ! おい、あの女を人質にするぞ!」
「・・・・っ、!!」
「!?」
それはを指した言葉だった。見るからに一番弱そうだと思ったからだろう。敵の大将らしき者の声に反応した一人が動く。
背後に現れた相手がを捉えようとする。それを視界に入れた銀時の声に反応して後ろを見た。
だが相手に対して怖い、などと思う暇もなく体が動く。
地面を蹴って伸ばされた手を避けると身を屈めて足払い。体制を崩した相手の鳩尾へ素早く拳をめり込ませた。
「・・・っ!?」
「銀さん、私なら大丈夫ですよ! これでも・・・・」
次に襲い掛かってきた相手の攻撃を身軽に避けて、躊躇わずアイアンクロー。
メキッと鈍い音が響いたと思えば崩れ落ち口から泡を吹く相手の姿。
「格闘技、得意なんで」
「・・・へっ、そりゃー怖ェなっ、と!」
次から次へと敵を薙いでいく銀時達の姿に何だこいつらはと後退ろうとするが、背後に立った沖田によってそれは叶わなかった。
周りにはいつのまにか敵以外に真選組の隊士たちも混ざり始める。
やがて今の状況が飲み込めた観客たちは逃げ惑い、やがて銀時たちも制止される。
事を沈静化させて外へとでれば既に夕暮れだった。
道信が子供たちを守るために鬼になったことも。
沖田が自分たちへ今回の話を持ち込んだことも。
銀時たちが闘技場へ乗り込んだことも。
誰が正しいとか間違っているとかそんな物はこの際関係ないだろう。自分が自分の中で正しいと思える行動をとったのだ。
沈み始めた夕日を見つめながらは思いを馳せていたのだが。
「全員切腹だから」
突然聞こえた土方の物騒な言葉に驚く。
たしかに今回は色々と無茶をした。しかしそれで切腹とはまた突拍子もないことでは無いか。
「ムリムリ!! あんなもん、相当ノリノリの時じゃないと無理だから!」
「いやいや、切腹でノリノリってどうなのそれ!? 土方さんそんないきなり切腹ってそれはないよ!」
「心配いりやせんぜ、俺が介錯してあげまさァ。チャイナ、てめーの時は手元が狂うかもしれねーが」
「コイツ絶対私の事好きアルヨ。ウゼー」
なんとも重大な言葉を残してさっさと帰っていく土方の後姿を見ながら、出来れば腹切りは勘弁してくれとは口元を引きつらせた。
後悔はしないようにしたはずだが、いくら何でもここまでのデッドオアアライブは究極すぎる。
どうぞ真選組へと火の粉が降りかかりませんようにと祈るの傍らで、新八が銀時へ帰ろうと言うと銀時は懐からあのお面を出した。
何をやるのかと思っていればそれを空へ放り投げて、木刀で叩き割る。そっと、銀時の隣に立ち割れて落ちていく破片を見つめた。
「あの世じゃ、笑って暮らせや」
「笑ってますよ、きっと」
子供たちが幸せに笑顔で暮らしていれば、もう心を鬼にする事はないのだから。
袖の中へ入れておいたデンデン太鼓を鳴らせば、心地好くその音が耳に響いた。
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