たとえ鳥のように羽ばたけなくとも


03:飛べない鳥だって鳥にかわりはしない







万事屋へ来て既に三日が経とうとしている。
その間、を追っていた男たちの情報を集めようとしていた銀時達だがこう言う時に限って依頼というものは舞い込んでくる。
どこを拠点にして行動範囲はどれほどのものか。それが解らなければ護りようも無い。
当の本人は楽観的なのかなんなのか。家の中で掃除をしたり買物を手伝ったりとしている傍ら、とても楽しそうだった。
現に今は台所の掃除をしながら鼻歌を歌っている。しかもかなりノッているのか、自分の鼻歌にあわせて体まで揺れてしまっていた。



「たでーまー」

「ただいまヨー」

「んふーふふーふっふーふー! あ、おかえりなさい!」

「なんだァ? 随分テンション高ェな?」

「いやー、なんかノッちゃいまして」



満面の笑みを浮かべながらは更に続きを口ずさむと掃除の続きに取り掛かった。
暫くして新八が遅れて戻るとその肩には二連式のはしごが担がれている。
同時に居間の方からは神楽の銀時を呼ぶ声。新八ははしごを玄関脇に立てかけると重い荷物を降ろしたとき独特の溜息をついた。
一旦台所の掃除を止めて適当なコップを選んだは汲んだ水を新八へ渡すとお礼と共に受け取り、一気に水を飲み干す。
空になったコップを受取りながら何をはじめるのかと聞けば万事屋の屋根の修理だと答えが返って来た。



さんがここにくる少し前に雨が降ったんですけど、屋根に穴が開いてるのか雨漏りしまして。
 また明後日から雨が降るらしくて今の内に修理してしまおうって事になったんです」

「ああ、だから神楽ちゃんと銀さん工具探してるんですね」



二人の会話がちょうど途切れたとき、銀時が工具入れを持って居間から戻ってきた。
さっさと終わらせるぞと言いながら、立てかけられたはしごも一緒に担いで玄関を出ると新八と神楽も次いで外へ出る。
台所の窓に微かにはしごの掛かった影が映り三人が順々に上っていく影を目で追っていけば、なんとなく楽しい気分になってまた鼻歌を歌い始めた。
その後も床を雑巾掛けをしたりシンクを綺麗にしたりと、一通りの掃除が終った所で漸く一息つく。
床にそのままペタリと座り込んだは微かに聞こえる釘を打つ音を聞きながら、何をするでもなくぼうっと窓を見つめていた。
しかし何かを思い出したかのように突然立ち上がると、朝の残りの米をにぎり適当な数のおにぎりを作り出す。
皿に乗せると外へ出て屋根の上に上がればその瞬間、目の前に金槌が飛んできた。
咄嗟の所で避けると、すぐ下のほうでガツンと重い音が聞こえる。どうやら玄関前に落ちたらしい。



「おい、大丈夫だったか? おい神楽、オメーはもういいからこの板捨ててこい。」

「わかったアル!」



どうやら釘を打つ過程で手からすべり飛んでしまったらしい。と入れ違うように銀時が金槌を取りに降りていった。
突然屋根に上がってきてどうかしたのかと聞こうとした新八だったが、それは聞く前にの持っている皿で答えが既に示されている。
銀時が戻ってきた所で「一息入れませんか?」と皿と手洗い用にペットボトルに汲んだ水を見せた。

四人で屋根の上でお昼代わりにおにぎりを頬張ると落ちた米粒を狙った小鳥が一羽、の手元で啄んでいる。
上手く米粒をくちばしで挟むとそのまま飛んでいってしまった。その様子を、少しだけ羨ましそうに目を細めて見つめるは無意識の内に呟いた。



「いいなぁ・・・」

「なにが?」

「鳥は飛べるんです。飛べる、羽を持ってます」

「オメーのは、飛べねェの?」

「せいぜい、身が軽くなるってところですかね。地面から二階建ての屋根の上にジャンプして登るのが精一杯です」



大体飛べたら飛んで逃げるし屋根からも落ちてきません。
苦笑して言えばそれもそうだと、納得したように最後の一口を放り込んだ。
ペットボトルに残った水で軽く手を洗って水気を払うと、さっさと終わらせるぞと金槌を持って立ち上がった。
その動きを目で追いながらは外の空気がおいしく感じ、暫くここに居てもいいかとその背に問い掛ける。
金槌を打つ合間に聞こえたのは「好きにすれば良い」という、いつもと変わらない気だるげな答え。
痛んで穴の空いていた板を神楽がまるで板チョコを折るかのような何でも無い仕草で小さくしていき、纏めたゴミを新八と二人で捨てに行った。
暫くは甲高い釘を打つ音だけが響き渡る。



「・・・鳥ってさ、全部が全部飛ぶわけじゃねェだろ」

「え? あー・・・そう、ですね。うん、確かにそうだ」

「だから、別に飛べなくてもいいんじゃね? 歩ける足があればそれで充分じゃん」



背を向けてまだ釘を打つ銀時の背中をキョトンとした顔で見つめるが、それ以上の言葉はなかった。
瞬きを数回した後、はニッコリと笑って「そうですね」と小さく呟くと、銀時の打つ金槌の音にあわせて体を揺らし鼻歌を交えさせる。



「ふーんふん、ふー、ふっふ、イエイ!!」

「アダッ! ちょ、ちゃん変なところで気合入れない!」



屋根の上のやり取りをちゃっかり聞いていた新八と神楽は、銀時の失敗に思わず吹き出してしまい身を隠していたことがバレ
盛大に銀時に怒られたらしいがもちろん、怒られている当の二人はどこ吹く風であった。





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