たとえ鳥のように羽ばたけなくとも


02:どんな場所だって恥じらいは忘れちゃいけない







屋根から落ちてきたは偶然にも居合わせた銀時に受け止められ、とりあえずそのまま万事屋に連れてこられた。
銀時としては人助けというよりも、何か困った様子だった為上手くすればそのまま仕事ゲットだぜ!という状況を先読みしての事。
もちろんそのまま連れ帰った最初の新八と帰ってきていた神楽の第一声は「どこでたぶらかしてきた」などと
何とも人聞きの悪い言葉だった事は言わずとも予想は出来るだろう。
反論しながらも事の経緯を話せば漸く納得したのだろうか。それとも言い合いを続けていては埒があかないと思ったのか。
どちらにしても新八がお茶を煎れに台所へと行き、神楽はへ自己紹介をし始めた事で言い合いは終った。



「で、お嬢さんは一体なんで屋根から落ちてきたわけ?」

「あ、はい。あの、実は私・・・追われてまして。それで逃げてたらうっかり落ちてしまって・・・」

「逃げてたって・・・屋根の上をですか?」

「はい」



見るからに普通の女の子であろうが屋根を走って逃げていた。
追われていた、と言う所だけでも尋常ではないと言うのに逃げている場所が場所である。色々な意味でただ事ではない。
一瞬困惑したが、もしかしたら見た目は大人しそうで実のところさっちゃんみたいな、元お庭番と言うような肩書きがあるかもしれない。
人は見た目で決まるわけではないのだからと、内心頭を振って何故追われていたのかと聞けば一瞬口篭もる。
しかしチラリと定春を見やったと思えばの口から漏らされた言葉は銀時の問いの答えではなかった。



「あの、定春君は・・・宇宙生物ですよね? その・・・ペット、なんですか?」

「ん? まあそうだけど。けど、そうは言ってもただ見た目デケェだけの大食いの犬だよ。コイツと二人でうちの食費殆ど消えるからな」

「なに言ってるアル。あれでも腹五分目まで我慢してやってるヨ。感謝しろよな」

「ふざけろよお前。あれで腹五分目って、お前の満腹は一体米倉いくつ分ですかコノヤロー」

「ちょっと二人とも、そんなやり取りは後にして下さいよ。今はさんの話を聞かなきゃ」



視線をぶつからせながら言い合いを始めた二人を新八が諌める事で、何とか話しが脱線せずに済んだ。
それもそうだとへ向き直り定春がどうかしたのかと聞けば少しだけ躊躇った様子で
今度は三人を順々に見ると意を決したかのようにぐっと目に力を込める。



「じ、実は私、天人なんです!」

「・・・・・・そうなの?」

「はい、ちょっと珍しいと言うかなんと言うか。私、そのせいで追われてるんです」

「珍しいって・・・?」



新八の問いは最もである。
の言う「珍しい」という単語だけでは追われる理由としては不十分。
暫し考えるように沈黙したは突然立ち上がると、背を向けて上着を脱ぎ出した。



「ちょ、ちょっと何やってんですかァァ!?」

若い子がそんな、早まっちゃいけませんッ!!! って、え?」

「ウオー! 羽生えてるアル! スゲーアル!!」



の突然の行動に慌てふためく二人だったが、神楽の言う通りその背中には羽が生えていた。
服の下に隠れるぐらいの小さな羽は、微かにパタパタと羽ばたくように動く。
三人がそれを確認できたと思えば服を着て整えるとまたソファに座った。
どうやらその羽がの言う「珍しい」ということらしいが、天人など数多いる。
それこそ全身鱗だらけの者からどう見ても二足歩行する動物にしか見えない者や、神楽のように人と変わり無い外見の者。
羽が生えた者だってたくさんいるだろう。当然の疑問を口にすれば羽が生えていることではなく、生えた羽が珍しいものなのだと反論。

の種族の羽は所謂「高級品」で、一人ひとりの背に生える羽は見た通り小さく取れる数などたかが知れている。
あまつさえ服の下に隠れてしまう為に羽が見えなければ天人か地球人かも区別がつかない。
希少価値の高い羽は、得てして裏の取引などで高値で売買されるというわけだ。

それ故、他人に自分の正体を話すのは自殺行為にも等しい。
定春を普通のペットとして飼っているのか、はたまたを追ってきた男たちと同じようなものなのか。
その確認の為に先ほどは定春の事を確認したらしい。



「なるほどねェ。上手くすりゃバレなかった所を運悪く見つかっちまって追われる羽目になったわけか」

「はい。地球には出稼ぎでやってきたんですけど、このままじゃ仕事を探すのもままならなくて・・・」

「じゃあの事追ってくる奴追っ払って仕事を見つければ良いアルか?」

「そんな! そこまでして頂くわけには」



いかないと続くはずだったの台詞は、差し出された銀時の名刺によって遮られる。
万事屋は何でも引き受けるものだと言う銀時達。
名刺と三人の顔を何度も見やると、「宜しくお願いします」と深く頭を下げた。













「ところで、さんは何で羽を見つけられちゃったんですか?」

「いや・・・ターミナル歩いてたら服の中にゴミが入っちゃいまして。それをとる為に上着を脱いだ所をたまたま・・・」

「・・・いやそれ、たまたまっつーか、突然脱ぎ出したら誰だって驚いて見るっつーか? とりあえずアレだ」




まずは恥じらいというものを知ろう、と頭を抱え込む銀時達を見つめるの表情は心底不思議そうであった。
とりあえず、色々な意味でこの依頼は前途多難そうである。





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