たとえ鳥のように羽ばたけなくとも


01:時に捻りが大切って言っても捻りすぎもよくない







まだ時間にして昼。
いつもと変わらず賑わう江戸の町中を疾走する影が一つ。
は息を切らせながらも走りつづけていた。
慣れない町の中を逃げるように、必死に。

走り過ぎていくの様子を横目で見る人は居るが、厄介事に首を突っ込むのは避けているのだろう。
誰一人声をかけることも手を差し伸べる事もしない。
それが当たり前で普通だともわかっているのか、景色と同じように過ぎ去る人々に目もくれずただ足を動かす事に集中する。
細い民家の隙間をぬうようにして走るの後ろでは、積み上げられたゴミなどを無遠慮に蹴散らして追ってくる人相の悪い男が数人。
背後を確認する余裕もなくいくつも角を曲がった所でとうとう行き止まりにぶつかってしまった。



「おい! そっちに行ったぞ!!」

「っ! ・・・もう、こうなったら最後の手段・・・!」



はすぐ近くから聞こえた男の声に驚きながら、少し低い位置にある屋根を睨み据えた。
後ろに退ると助走をつけ壁に足をかければ屋根に飛び乗る。
男たちに気付かれる前にと、はすぐさま屋根伝いに走った。
硬い靴底が瓦を踏む独特の音をカツカツと立てながら、ふと背後を振り返れば男たちが追ってくる様子も無い。
しかしどこで身を潜めているかもわからない。用心にこした事はないと、次々屋根を飛び移るの動きはとても軽かった。
ヒョイヒョイと屋根から屋根に飛び移る様は傍から見ればまるで猫のよう。

だんだんと地面が遠くなる。気付けば五階建ての天人製のビルの上を走っていた。
足を止めず辺りを窺うが、男たちの気配もなくようやく撒いたかと一安心したのも束の間。



「ァッ!!!」



思い切り足を滑らせたは屋根から落ちてしまった。
上を走っている時には感じなかったその高さと、落下の浮遊感に驚きは思わず目を瞑る。











少し時間を戻して万事屋の中。

相変わらず仕事の有無の波が激しい万事屋は、今日は仕事の無い日。
神楽は早々に暇を持て余し定春と散歩に出かけてしまった。
新八はいつ客が来てもいいようにと掃除をかかさず、従業員として働くようになってから着始めた割烹着もある意味作業服の一種となってしまい
その着こなしようと似合いように違和感すらなく、ある種万事屋のお母さんのようである。今は和室の畳を丁寧に乾拭きで雑巾掛けしている。
銀時と言えば今日発売のジャンプを読むのにソファで足を組んで読みふけっていた。
もちろん最初こそ新八は「手伝ったらどうなんですか」と声をかけたが、もちろんそれに答えて重い腰を上げる銀時ではない事はよく知っている。
返答とも取れない微妙な答えを頂き、それに溜息一つで返して終ってしまう。
和室の掃除も終え、お登勢の所から借りてきた掃除機を取り出すととうとう新八は銀時を箒で掃くようにして追い出してしまった。
それに抗議が無かったわけでも無いが、どうせ家に居ても掃除も手伝わないし仕事もどうせこないなら
外に行って仕事一つでも探してこいと凄まれてしまっては返す言葉も無い。
あまつさえ有無を言わさず扉を閉められては反論のしようも無いと言うものだ。

結局なけなしの小銭を使ってチョコ一つ買って外で時間を潰していた銀時だが、いい加減掃除も終っただろうと万事屋へ帰ろうとしていた。
でもあまり早く帰っても仕方がないし、散歩気分で回り道して帰ってもいいかもしれないときまぐれを起こしてみたせいだろうか。
突然の出会いはやってきた。





「? って、うわ、ちょっ!!??」



頭上から妙な音が聞こえて仰ぎ見れば、落ちてくる少女が一人。
である。
驚き途惑っている間にどんどんと落ちてくる。
咄嗟に手を伸ばし何とか受け止める事に成功すれば、無意識のうちに深く安堵の溜息をついた。



「・・・・え?」

「あー、えーと? とりあえず大丈夫か?」

「あ、は、はい・・・あの、ありがとう、ございます」



道の角でぶつかって今日和なら聞いた事はあるが、屋根から落ちてきて今日和は聞いた事が無い。
奇抜な発想なのかなんなのか。昨今のマンネリ化している出会い方と言うものに、捻りを効かせてみたのか。
どちらにしても、また厄介ごとを引き寄せてしまっただろう事は誰の目から見ても明らかな出会いである。





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