それはとても小さな
>12:掃除
はただむくれていた。それでも手は動かすが、同時に文句を紡ぐ為に口を動かす事もやめない。
ポロポロと零れる言葉は全て担任への不満や文句ばかりである。
それも本人の目の前でだ。しかし聞いている方は慣れているのか、まるで聞く耳持たず、といった様子。
銀八の態度にもは腹を立てていた。
「ちょっと、先生。聞いてんですか?」
「あー、聞いてる聞いてる」
「嘘つき。聞いてないくせに」
「大人はずるくて汚くて嘘つきな存在だぞ。だからオメーも将来悪い男とかに引っかからねェよう、気をつけろ」
「既に引っかかってる気がする・・・。だいたい、なんで私が、先生の片付けを手伝わなきゃいけないんですか」
言いながら机の上に山積にされたジャンプを整え、近くにあったキャビネットの上に一時避難させた。
そもそも、何故銀八の片付けの手伝いをする羽目になったのか。
職員室に来たのは確かに銀八に用があったからだ。
たまには真面目に国語の予習なんかをやってきたは、少しわからないところがあってそれを質問にやってきた。
至極普通の一生徒としての行動をとっただけである。ノートを片手に訪れたを見た銀八はいつも以上にダルそうな顔をしていた。
その時に気付いてすぐにでも逃げていれば、こうして手伝わされる事はなかったのだが、それを悔やんでも仕方がない。
いい所にきた、と有無を言わさず渡された書類の山。渡りに船とはこの事だ、と意気揚々と片付けを始めた銀八の後姿を呆然と見ながら
はまさに飛んで火に入る夏の虫とはこの事だと、暫しの間立ち尽くしていることしか出来なかった。
こんな事になるならば、真面目に予習なんかするんじゃなかった。
そう思いながらも、ここで律儀に手伝う事も無いと書類を適当な所に置いて帰ろうと背中を見せたが、そこに静止の声がかかる。
「。手伝ったらとりあえず、アレだ。アレやるから」
「アレってなんですか。全然分からないんですけど」
「んだよ、全部言わせる気か? こう言う時は決まって「ご褒美」が待ってるんだよ。だから手伝え」
「えぇ〜、さしてそそられないんですが。それに結構私はこう見えて、忙しいんです」
「嘘つけ。帰っても着替えもせずゴロゴロしてるだけで、帰ってきたおふくろさんに、ご飯ぐらい炊いておきなさいって言われるんだろ?」
なんで帰ったあとの行動を知っているんだ!しかもそれ昨日の行動そのままだ!!
驚きの表情に嫌悪感を混ぜ合わせて、目を見開いたまま銀八の顔を見れば「やっぱりな」と一言もらすだけで背中を見せた。
どうやら単なる予想だったらしいが、あまりにピンポイントに正解を言い当てた事にやはり驚く事しかできない。
そんなに読みやすい生活態度をとっているのだろうかと、首を傾げながら唸り考えるの頭軽く出席簿で叩いた。
早く手伝え、という事らしいがそれなら行動では無くて、言葉で示して欲しいものだ。
手足よりも口が先に出るタイプだと言うのに、こういった時には最初に手が出る。たまに同時の時もあるが。
結局逃げようと言う素振りを少しでも見せると、ああだこうだと言ってきてはの足を止めてしまう。
そうなればもう、とことんまで手伝ってやると半ば意地になっていた。
片付けの途中、職員室に戻ってきた他の教師が手伝っている姿を見ては、気の毒にのォとか、手伝ってるのか、えらいなとか。
人それぞれの言葉をにかけながら、各自仕事をこなしていく。
教師と言うのも意外と忙しいらしい、ということが失礼かもしれないが、今ここで初めて判った。
そもそも授業をしていない時は一体何をしているのか。教師とは意外と謎な存在だな、とは思う。
その謎に拍車をかけているのが、今隣でジャンプを紐で縛っている銀八だろう。
「ん、なんだ?」
「先生って、先生なんですよね」
「突然何言い出すわけ。俺が先生じゃなかったらただの気だるげなオッサンだろうが。ああ、はそれ持て」
一通り纏めた書類。あとはファイルするだけなのだが、正直ここまで生徒に手伝わせていいのだろうか、とまた首を傾げる。
それを口にすればきっと、「俺がいいっていうんだからいいの」と、なんとも言えない切り替えしをされて終ってしまうだろう。
一纏めにしたジャンプを両手に持つ銀八の後ろを歩くは、ついた資料室の扉を開けられるのをただボウッとしながら見ていた。
開けた瞬間、微かに誇り臭い匂いが漂う。中に入れば所々、埃を被った書類や椅子に机などが並んでいる。
あとはの持ってきた書類をそれぞれファイルするだけで終わりだから、と棚を開けると中からいくつものファイルを出して机の上に置いていく。
その都度、埃が微かに舞うのを顔をしかめてみていたが、書類を机の上に置いて窓を開けた。
入りこんできた風に目を細めると、後ろから「あ〜・・・」と銀八の溜息雑じりの声が聞こえた。
「どうし・・・・あぁ・・・」
「纏めた書類、また整理しねぇとな・・・」
「す、すいません・・・」
「謝る事じゃねぇよ。悪戯な風のせいだ。ついでにもうちょっと悪戯してくれれば見えそうだったんだが・・・」
「何見ようとしてんですかセクハラ教師! 本気で申し訳ないとか思った自分に腹が立つ!!」
「冗談、冗談だから! ちょ、ファイル投げんな! 結構それ当たると痛いっつーか、よく片手で投げられるな!?」
冗談といっているが、先ほどの残念っぷりには本気の色が見えたように感じられた。
真実はどうかわからないが、腹を立てたは容赦なく近くに山積にされたファイルを埃のおまけ付きで銀八へと投げつける。
バサバサと音をたてて投げられたファイルは、風に飛ばされず無事だった書類を容赦なく崩していった。
が我に返ったときには、投げつけたファイルと崩れた書類に紛れて、ジャンプもいくつか散乱している。
片づけをしていたはずなのに、何時の間にか散らかしてしまった。その原因は何だったのか、思い出そうとしても思い出せない。
乾いた笑いを浮かべるへどうすんだこれ、と心底うんざりしたような顔の銀八の溜息が突き刺さる。
「掃除、しますか・・・」
「そうだな。もうめんどくせーから適当に纏めるか」
結局散乱した書類は銀八の言う通り仕分けもせず適当に纏められ、適当なファイルに入れられた。
が投げつけたファイルも元々あった場所など分からない有り様だ。開いた所に無理矢理入れるほか無い。
そんなアバウト且つ、適当な片づけをした次の日。銀八が例の如く校長に呼び出されたのは言うまでもない。
<<BACK /TOP/ NEXT>>