それはとても小さな

>11:没収!!







「よォし、オメーら。とりあえず持ち物検査だ。机と鞄の中身出せー」


教室に入って来た銀八が突然言い出した事に、全員がまるで打ち合わせでもしていたかのように不満の声を漏らす。
異口同音に発せられた言葉に聞く耳持たないといったような態度で、いいから早く出せと促した。
言って素直に聞く3Zの生徒では無い。最初に挙手をしたのは桂だった。


「先生! 突然なんですか。今は国語の授業、つまりは先生の授業です!」

「そうだ、俺の授業だ。つまりは俺がルール。だからオメーはヅラ王国へ強制帰国だ」

「先生を裁ける準備は、こちらは整っているんですよ」

「よォし、オメーらとりあえず全部出せ。文句言ってる奴は職権乱用で欠席扱いだ」


桂の言葉を一つも拾わず、とんでもない事を言いながら出席簿と国語の教科書を教壇の上に置く。
このまま反抗しても一向に授業が進まない。むしろ授業すらしていない状態だ。
一応言葉に従って皆が机の上に、鞄の中身と机の中の物を出せるだけ出したところで、教室内を見渡した。
それでもいまだに出していない性とが数名いる。どうやらまだ納得していないらしい。


「先生。あの、一体何をするつもりなんですか?」

「言ったろ、持ち物検査だって。は先生の話しをちゃんと聞いてたのか?」

「いや、そう言う事を聞いているのではなくてですね、何で突然こんな事をしてるのかと」


の問いに銀八はレロレロキャンディを咥えたまま深い溜息をついた。
その瞬間、口から出る煙も増したような気がするが、そこをツッこんでも今までと同じ切り返しがくるだろう事はわかっている。
あえて無視をして銀八が何を言うのか、それだけを待った。


「いいか、今は俺の授業。つまりは国語だ。でも先生は今日は国語な気分じゃ無いので、持ち物検査して何とか授業を進めようと思ったわけだ」

「それ進んでません。というか教師がなに職務放棄してんですか。本当に訴えられますよ」

「いいんだよ。それに職務は放棄してねェ。職権を乱用して立派に職務を全うしている」

「威張って言う事じゃねぇよ!!」


新八のツッコミも最もである。相変わらず切り替えしに一分の隙も無いツッコミだ。
しかし銀八はやる気の無さげな態度で、いいから早く机の上に出せと再度口にすれば、皆は渋々とそれに従う。
全員が出し終えたのを黒板の前に立ったまま教室を見渡すと、内心でよくこれだけ色々なものを持ってこれるものだと呆れた。
それを口にしないのは、言えば職員室の机の上に置いてあるジャンプの山だなんだをまたツッこまれる事を知っているからだ。
自分の事をまさに棚上げにして、最初に目に入った神楽のものに注目した。


「オメーのそれ、何だ?」

「これはお弁当アル!」

「弁当ねぇ・・・で、その弁当が何で重箱みたいにいくつも重ねられてるんですか、神楽さん?」

「先生、それは簡単な事ヨ。これが一時間目。これが二時間目。これが三時間目・・・」

「つまりは一時間ごとの弁当を持ってきてるってわけか。とりあえずオメーは食いすぎです。昼飯以外は没収します」

「ヤーヨ! これ取られたら、私生きていけない! 先生は可愛い生徒を腹減りで一日過ごせと言うつもりアルカ!?」


机の上に山積みされたお弁当箱を護るように抱え込むと、必死に抗議する。
だが周りから見ても確かに食べすぎなそれに、ただただ呆然とするばかりだった。
よく授業中にもお弁当を広げているが、そう言うことだったのかとはここで漸く、神楽の無くならない弁当の謎が解決して、ちょっとだけすっきりした。
容赦なく没収されそうになった弁当。しかし神楽も本気の抵抗を見せ、一発蹴り上げられて死守された。


「おいチャイナ。暴れるんじゃねーよ。埃が立つじゃねェか」

「そんなもの知らないネ。いっそお前は、そのまま埃でも吸ってればいいアル」


一触即発のような雰囲気が漂ったが、そんな事は意に解さず沖田の机の上に置かれた物を一つ手にとった。
それはどう見ても藁人形(使用済み)。顔であろう部分には土方の写真。
もう一つ隣にあったのは電動ドリル。工具などで使われるやつだ。何故それが一緒に置かれているのか。
隣の席であるも、それは気になった。そして神楽と睨みあう沖田へその用途を聞くのには勇気がいる。
銀八とは互いに視線のみで「お前が聞け」と押し付け合いを始めた。その二人のすぐ脇では睨みあう神楽と沖田。

「おい、ここはお前が聞け。じゃなきゃ単位やらねぞ。国語評価を容赦なく一にするぞ」

「清々しいほどにむかつくな! 嫌ですよ、聞きに行くのも評価が不正に一にされるのも!」

「わがまま言うな! 二つに一つ。選べる答えは一つだけだ。ファイナルアンサー?」


ファイナルも何もあったものでは無い。職権乱用の脅しをかけてきた銀八へ一睨みするが、やっても意味をなさない。
は腹をくくって、恐る恐る沖田へと問い掛けた。


「ね、ねえ、総悟・・・なんでアンタ電動ドリルなんて物もってるわけ?」


日曜大工などでもあまり使わないであろう電動ドリル。
それに単品であってもかなりの重量があるそれを、いったい何故わざわざ学校に持ってきているのか。
の問いに何かを思い出したかのように、それと一緒に藁人形を掴むと突然土方の机の上に藁人形を置いた。
抗議の声を土方が上げる前に、電動ドリルは独特のモーター音を上げながら藁人形を貫く。
一緒に土方の机にも見事な穴をあけた所で、満足げな顔をして藁人形が突き刺さったままのドリルを持つと
得意げな顔もせず、こうやって使うんだと当然の事のように言ってのけた。


「いやいやいや!! ありえないからァァァァ!! つーかどんだけマヨ方の事を抹殺しようとしてるわけェェェ!?」

「ふざけんなよテメェ!! 机に穴開いたし俺の心にもでっかい風穴が開いたわァ!」

「その調子で胸にでっかい風穴開けて死ね土方コノヤロー」


沖田のいつもの憎まれ口を皮切りに、とうとう二人の取っ組み合いが始まってしまった。
本来止めるべきである立場の銀八だが、めんどくさそうに溜息をついただけで終ってしまう。
周りの者達はさり気無く喧嘩の中心から円を描くよう、避難したところで足元に落ちていた電動ドリルを銀八が拾った。


「とりあえず、これも没収しとくか」

「いや、没収する前に喧嘩をなんとかしてくださいよ・・・」


溜息雑じりのの言葉にただ一言「しょうがねェなぁ」と、やはりめんどくさげに答えた銀八だった。





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