それはとても小さな
>10:空飛ぶチョーク
休み時間。は小さい壇上に上がり黒板消しで一生懸命黒板を綺麗にしていた。
前の授業で坂本が書き起こした数式は白をメインに、大切な部分や付け加えた部分は丸を書いたり黄色いチョークを使ったり。
どこか間抜けている所のある坂本もちゃんと授業をこなせばどうと言う事も無く、むしろ分かりやすい。
しかしはあまり数学が得意ではなかった。数式を見るだけで正直、頭痛がしてくる。
次の授業はこの銀魂高校で珍しく真面目で厳しい全蔵の授業だ。それも踏まえて、ここは念入りに綺麗にしておくべきである。
だがいつもならこれは桂の仕事である。
彼はある種宇宙と交信しているのかと思える発言を繰り出すが、それでも基本は真面目なために学級委員なんかをやっている。
しかし頼みの桂は先ほどの授業で最後に配られたプリントを、今も真面目に職員室へと届けているのだろう。
「、俺はこれを坂本先生の所へ持っていく。すまんが黒板を頼んだ」
「え、ちょ・・・!」
そんなやり取りをしたのはほんの三分前。
消すたびに舞った細かいチョークの粉が指に纏わりつき、カサカサと妙な感触がする。
すぐ後ろでは沖田が土方の携帯を弄くり、またどこか危なげなサイトを徘徊しているようだった。
肝心の持ち主は生憎、先ほどトイレに行くといって出てしまっている。毎度の事ながら妙なところで隙を見せすぎている。
毎回似たような事をされているのに、詰めが甘いと思いながらもそれを助言してやるつもりはまったくなかった。
そんな事を思っていた矢先に土方が戻ってきた。そして机の上に置いておいた携帯がないことに気付く。
「あれ、俺の携帯・・・って総悟! てめ、また人の携帯で何してやがる!!」
「大丈夫ですぜ、ただ単に出会い系にアンタの顔写真と本名さらしてプロフィール登録しただけでさァ」
「どこが大丈夫!? むしろお前の頭が大丈夫!? つーか返しやがれコノヤロォォォ!!」
結局そのあとはいつもの取っ組み合いが始まってしまったが、幸いのいる場所までは教壇と数個の机がある為、こちらまでとばっちりはこなかった。
ガタガタと背後で二人の暴れる音は毎回の事なので、妙に耳が慣れてしまっている。そんな音の合間から聞こえた妙な音。
それはどこかで聞いた覚えがある。そう感じた次にまた聞こえた。どうやら携帯のカメラのシャッター音らしい。
軽快な音を立て続けに鳴らすのは誰なのだろう。いい加減黒板と見つめあっているのも飽きてきたは、ちょっとした好奇心で振り返った。
しかし振り返った瞬間、とてつもなく後悔する。
大きな体を自分の机の影に無理矢理隠しているつもりなのだろう、身をかがめた近藤が少し離れたところにいるお妙を撮っている。
よもやそんな事をされているとは知らないだろう、お妙は何かに気付いたようにこちらにきた。
「あら、ちゃん。手が止まってるわよ?」
「あ・・・うん・・・なんかね、こう、うん。数式見てたら頭痛くなってきちゃってさー、あはははは」
乾いた笑いを浮かべながら、なるべく近藤を視界に入れないように気をつけてはいるが如何せん、一度認識してしまった存在を消去するのは難しい。
の内心の苦労など知らぬお妙は嫌いな物ならなおの事、さっさと消すべきだと言いながらもう一つの黒板消しを手に取った。
だがそれは本来の使い方をされる事は無く、突然振り返ったと思えば勢いよくそれを近藤目掛け投げつける。
避ける間もなく、見事にそれは額にクリーンヒットした。しかしこれぐらいで怯むような近藤では無い。
「あら、消えないわね」
「た、妙ちゃん・・・黒板消しは本来そんな使い方じゃ・・・」
「ぶわっはっはっは!!! お妙さん! こんなもんじゃ俺の愛は消えやしませんよ!!!」
額に黒板消しの痕を残しながらも腰に手を当て片手には携帯を構え、誇らしげに言うが彼の行動を総合して見てみれば、漢らしいとは言いがたい。
対して、浮かべた笑みはいつものものであるが、その目元に落した影がやたらと黒いオーラを感じさせるお妙は突然振りかぶって何かを投げつけた。
目にも留まらぬ速さで飛んでくるそれを近藤が避けられるはずも無く、見事にその額に当たった。それはチョークだった。
当たった所でさほど殺傷力もないものである。仰け反った所を体勢を立て直そうとしたが、それは不可能だった。
間髪入れずに飛んできた数々のチョークが的確に近藤の急所を狙い、見事全弾命中している事を痛々しい声が全てを物語っている。
最後に投げられた赤チョークが見事携帯にヒットしたが、あろうことかそれは携帯を破壊し、勢いも死なずに近藤の眉間にめり込んだ。
それが決め手となったのだろう。派手な音を立てて崩れ去ったその姿はあまりにも哀れだった。
しかしだけでなくこのクラス全体が毎度何かしら問題を起こすために、そんな音にも反応は示さなかった。更なる哀れみがこみ上げてくる。
「・・・チョークって携帯より固かったっけ・・・?」
「ちゃん、覚えておく事ね。爪楊枝でも人は殺せるのよ」
「そんなアドバイス・・・いらない・・・」
結局その騒動のおかげで黒板は半分しか消せず、全蔵に「確り仕事をこなせ」と怒られた。
ついでに近藤の携帯は無惨にもさらに粉々にされ、気付いた近藤が破片をかき集めながら「俺のお妙さんメモリアルがァァ・・・」と嘆いていたが
その姿に誰一人何も声をかける事は出来なかった。
<<BACK /TOP/ NEXT>>