それはとても小さな

>09:昼寝







お昼を食べ終わったあと、は残りの時間をお昼寝に使おう、などと思い屋上へ向かった。
扉を開けて屋上に出れば既に先客がそこに寝転がっている。



「あれま、杉君こんな所にいたの?」

「いちゃ悪いのか?」

「いや別に」



言いながら寝転がる高杉の横に座ると同時に聞こえたのは、高杉の腹の虫の音。
暫しの沈黙のあとが視線だけを向けると、高杉は顔を背けた。
若干、その耳が赤いような気もするが、そこに触れると確実に不貞腐れるので見なかったことにしておく。



「・・・お昼は?」

「忘れた」

「買えばいいじゃん」

「財布も忘れた」



なんて不憫なのだろう、と目尻を拭う仕草をすると、スンスンと鼻を引くつかせるような音が聞こえる。
どうやらいつもがおやつ用に、と持ってきているものの匂いをかぎつけたのだろう。
体を起こすと無言のままに手を差し出してくる。その意味を一瞬で理解したは、おやつを入れている鞄を背後に隠すが
寄越せよ。とそのあまりの目力で見つめられ、最後には差し出すこととなってしまった。



「杉君・・・あの、ハムサンドは残しておいてください・・・お願いします」

「じゃあハムだけ残しておいてやるよ」



高杉の冗談に半ば本気で食って掛かったに、少し煩わしそうな顔をするとハムサンドは残して他は綺麗に食べてしまった。
ほんのりとたまごサンド辺りも残してくれるのでは無いだろうか、と淡い期待をしていたは、返された容器の中身の惨状に溜息をつく。
しかしハムサンドは残しておいてくれたのだから文句は言わないでおこうと、容器を仕舞うとまた高杉が寝転がる気配に振り返った。
空腹を癒したためか、若干幸せそうに見えるのは気のせいでは無いだろう。口元にパンくずがついている。



「すぐ寝ると牛になるぞー」

「うるせぇよ。だって寝に来たんだろーが」

「あ、バレてた?」



横に寝転がるとちょうど良い日差しに温かさも相まってか、すぐにウトウトと舟をこぎ始める。
重くなる目蓋にも何ら抵抗せず、そのまま眠れば暫くして聞こえた鐘も、どこか遠くで鳴っているようだった。



二人が寝転がる屋上の扉が、少しだけ耳ざわりな音を立てた。
扉を開けてすぐ見える位置で寝ていると高杉の姿を見て、盛大な溜息をついたのは土方。
つい先ほどホームルームも終わり、今は掃除の時間。
最後の出欠を取った際にいなかった二人をなんだかんだで土方が探す事になったわけだが、二人がいる場所など分かるわけも無い。
適当な場所を選んできたら当の探し人は暢気に昼寝では、溜息だってつきたくなる。



「おいテメーら起きろ」

「・・・・んあ? あ、あー・・・・、あ? ああ・・・マヨ方じゃんか・・・あれ?」

「もうめんどくせーから訂正しねーけどな。もう放課後だぞ、さっさと起きろ」

「・・・マヨネーズが俺の獣の眠りを覚まさせんじゃねぇ・・・油塗れになるだろうが・・・」

「わけわかんねぇ寝ぼけ方してんじゃねーよ!」



いまだに寝ぼけた様子の高杉の頭を軽く叩けば、何をするんだと文句を吐き出しながら起き上がる。
それをまったく気にも止めずもう一度、さっさと起きろ、と言えば渋々立ち上がった。
大きな欠伸をしながらの上にあった物を奪うとそのまま扉に向かって歩いていく。



「あ、あれ? 今・・・」

「おい、。次昼寝する時はジャージかなんか持ってくんだな。じゃねぇと風邪引くぞ」



の上にかけられていたのは高杉の学ランだった。
そう言えばやたらと温かくて、少し眠りが浅くなった時もそのまま眠ってしまったような気がする。
頭を軽く掻きながら、さり気無く優しいんだよな、と去っていった扉の方を見つめていれば土方が鞄を差し出してきた。
受け取って立ち上がると制服についた小石や埃などを軽く叩き落とす。



「杉君ってさ、見た目と目つきの悪さで相当損してる気がする」

「だろうな。そう言えばこの間、捨て猫拾たって聞いたぞ。名前の相談された」

「なにその王道パターン。つか名前何にしたんだろう」



激しく気になると言いながら二人は今も開け放たれた扉を見つめ立ち尽くしていた。
一方、二人の会話などまったく知らない高杉は、教室へ向かう途中で盛大なくしゃみをしていた姿を数名が目撃したと言う。





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