それはとても小さな
>07:昼食
お昼の時間、達はたまには健康的に青空の下でお弁当を食べようと屋上にきていた。
しかし少しだけ冷たい風が吹いている中、ちょっとその判断を後悔したがそれも一瞬の事。
きてしまったものはしかたがないと、それぞれがお弁当や売店で買ってきたパンなど多種多様のお弁当を広げつつ
学生らしい昼休みを堪能する事となった。
「マヨ方君、ちと君のマヨネーズをサラダにかけたいんだけど借りていい?」
「誰がマヨ方だ。なんだ。ドレッシング忘れたのか」
「うん。つけるの忘れた」
言いながら差し出されたマヨネーズを受取ろうとしたがそれを阻止したのは沖田だった。
横からマヨネーズを掠め取れば何をするんだという抗議の眼差しを向ける土方。
はまた何をやらかすつもりなのだろうといった顔だ。
「駄目ですぜ。このマヨネーズはマヨネーズにマヨネーズを注ぎ足し、さらにその上にマヨネーズを混ぜ合わせたマヨネーズでさァ。
こんなもん、口にしたら一発で昇天だ。たく、マジでウゼェよ土方、マヨネーズと添い遂げてマヨネーズの海に溺れやがれ」
「テメー、いい度胸してんじゃねぇか! 俺のマヨネーズを毒物みてぇな言い方してんじゃねェェェ!」
「え・・・・」
「何その顔。そんなことも気付いていなかったのか的なその驚き顔、マジむかつくんですけど」
目の前で繰り広げられるいつものやり取りに、はマヨネーズを諦めて他の者は何か持っていないだろうかと辺りを見回す。
すると何故か一人だけ雷雲を背負ったような、まるで台風に上陸されている真っ只中のような。
そんな負のオーラ満載の新八を目にとめ、一瞬の迷いのあと声をかけると地を這うような声が聞こえた。
原因は広げられたお弁当。どうやらまたお妙に卵焼きを仕込まれたらしい。
しかもどういうわけか他のおかずまでが黒焦げ、と言うかそれ以上の物体へと見事ジョブチェンジを果たしてしまっている。
「・・・なにこれ、暗黒騎士?」
「騎士なんて高等なものじゃありませんよ。むしろ忍者ですよ、コレ。知らぬ間に中身が摩り替わっていたんですからね・・・フフフフフフ」
「・・・・・・強く生きなよ、新八君」
あまりのも不憫すぎたために、とりあえず自分のおかずを一つ分けてあげようとしたが、それは断られた。
この時のためにと、売店で抜かりなくパンも買っているらしい。
しかしではこのお弁当の中身は一体どうするのか。やはり捨てるしか道は残されていないのではと思ったが
新八はたとえ自分に食べられないものでも、食べてくれる人もいるからと言って立ち上がる。
一体どうするのかと、もうドレッシングは諦めて生野菜をバリバリと食べながら見ていれば、向かった先は今だ喧嘩をする土方と沖田を止めようとする近藤の元。
それだけで何をしようとしているのかがわかってしまう。
案の定、お弁当の中身と近藤のお弁当であるパンを交換し、戻ってきた新八は遠慮も何もなくいただきますとかぶりつく。
たまに昼食後、五時間目の授業に近藤の姿が見当たらない事があったがこう言うことだったのかと、漸く理解をしたは
強かな新八の行動に思わず冷や汗を引きつり笑顔を浮かべてしまった。
しかしさらに驚くべきは毎回痛い目を見ていると言うのに、それでも交換して食べてしまう近藤のある種執念にも似た一途さだろう。
ストーカー行為さえなければ、一途でいい奴なのに、と思いながらは口元を引きつらせる。
泡を吹き倒れた近藤を尻目に新八は無事に昼を終えていた。
「あれ、神楽ちゃんまだ食べてるの?」
もう昼は十五分も経っている。
神楽ならば十分もあればお弁当を二つは平らげるだろう。しかし今日の神楽はどういうわけかまだ一つ目を食べている最中だった。
もしやどこか具合でも悪いのではと思いながら声をかけてみただが、返ってきた言葉はおよそ予想していたものと大きく外れていた。
「実は今日は二つしかお弁当持ってきてなかったアル」
「え、いつもは早弁用、お昼用、おやつ用でもってくるのに?」
「オカズが足りなかったネ。それにたまには節約もしなきゃいけないと思って、お弁当は一つにしたアル」
「そう言えば今日は早弁もしてなかったね」
「おかげでごっさお腹空いたネ! よく噛んで食べると満腹感が得られるって聞いた事あるから試してるアル!」
もっさもっさと口一杯にご飯をかきこんで食べる神楽は本当においしそうに食べている。
しかしまるで頬袋のように一杯詰め込んでは、きちんと噛んで食べるのもかなり大変だろう。
そう思いながらも神楽の努力を無駄にしてはいけないと生温かく見守りながら卵焼きを口にしていれば、突然後ろから何かが飛んできた。
飛んできた物体に気付かないは後頭部にぶち当たったそれを拾いあげると、それは空の弁当箱。
見れば沖田がこちらに投げたらしい。元々を狙ったわけではなく土方を狙ったようだが、避けられてしまいこちらまで飛んできたようだ。
「もう、なんだって・・・・あー!!! ちょ、私のお弁当がっ・・・! 総悟ォォォォ!!!!」
弁当箱が当たった衝撃でまだ食べ途中だったお弁当は見事にひっくり返り、中身は綺麗にぶちまけられていた。
別に飛んできたものが当たったことには怒らないが、流石に中身が駄目になっては怒るだろう。
は必死に止めようとする山崎を振り払い、沖田と土方の取っ組み合いへと参戦してしまった。もうこうなってしまっては手のつけようが無い。
止められるわけも無いだろうし、止まるわけも無いと我関せずを徹していた新八たちだったが、突然何かを頭から引っ被ってしまった。
やたらとベタベタするし、油っぽい。さらに言うなら少し酸味が効いている。
どうやら取っ組み合いをしていた三人の誰かが土方のマヨネーズのボトルを強く握ってしまったらしい。
中身が見事にぶちまけられ、運悪くそれを被ってしまったと言うわけだ。量の違いこそあれ、この場にいる全員にかかってしまっている。
神楽は怒り沖田へ突っかかっていけばそこからさらに喧嘩が格闘技へと発展した。
それを何とか止めようと必死になる新八と山崎。と土方はただ深い溜息をつきながら、ベタつく制服をどうしたものかと考えていた。
結局喧嘩が完全に収まったのは五時間目の途中。そのまま教室に戻ってもどうしようも無いからと屋上で時間を潰した。
しかしいつまでもマヨネーズ臭い制服を着ているわけにもいかない。
結局手段など一つしかなく、放課後、揃ってジャージを着て帰る七人の姿が見られた。
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