それはとても小さな
>05:テスト
「ここにバナナの皮があります」
今はロングホームルームに入る少し前の時間。
何故か土方の机を取り囲むようにして立つや沖田、山崎。神楽に新八の姿は異様である。
が袋に入ったバナナの皮を取り出すと、土方の机の上に置いた。どうやらお昼に食べたらしい。
土方の文句など意に解さず話しを進めるが、以外はバナナの皮が一体どうしたというのだろうという顔である。
「私たちは常日頃なにかと言えば抜き打ちだ、実力だ、小テストだと。
小さいものから大きいものまで様々なテストを受けさせられてます」
それではあまりにも理不尽だと。一体彼女の中で何が起こったのかわからないが、力強く宣言している。
周りの者達はこれといって同意を示す事も無ければ反論する事もなく、前置きはいいから早く本題に入れと沖田が促す。
の言いたいことはとどのつまり、たまにはこちらからも教師をテストしてやろうということらしい。
置いてあるバナナの皮を一体どう対処するか。場合によっては気付かず踏んで転ぶかもしれない。その後は一体どうするのか。
ようは教師のバナナの皮に対する反応をテストしたいらしいが、それはテストではなくただの悪戯である。
馬鹿馬鹿しいと呆れる土方に面白そうだと賛同する神楽。新八と山崎は微妙な顔である。
やりたければ勝手にやれと沖田は突き放すが、止める気は無いようだ。
「とりあえず、これをあそこにセットしようと思うんですがどうでしょう」
「いや、どうでしょうも何も、止めておけと言ったら止めるのか?」
「止めるわけ無いじゃん」
土方の問いにキッパリ真顔で返すに、好きにしろと投げやりな態度で返しておいた。
そうさせてもらおうと早速行動に移しただが早くしなければチャイムが鳴る。そうなると銀八が来てしまう。
迅速に、且つ確実に銀八の目に留まるであろう場所を選び配置しなければならない。
一度やったあとでは後に多少の警戒を残してしまう。一発勝負だ。
は身を低くしながら教室の前扉のあらゆる場所に皮を置いてみては、銀八が踏み込むであろう場所を考える。
その横から神楽ももう少し奥がいいだの、横がいいだのと悪乗りのアドバイスが絶えない。
後ろから見ていればそれはあまりにも異様な光景。
先ほどの土方とのやり取りからもわかるように、止めようとして止まるわけも無いと誰一人やめろと言う者はいなかった。
それどころか沖田までがさり気無いアドバイスをしてくるものだからもうどうしようもない。
この後起こるであろう惨事について、なるべく考えないようにしようと目をそむけている新八は、早々に自分の机へと向かってしまった。
鳴り始めたチャイムに、は色々な意味でドキドキしていた。
顔の前で手を組み、チラチラとドアの方へと視線を向ける。他の生徒達の殆どは我関せずという顔をして知らぬフリをしていた。
カツカツと、サンダル独特の音が聞こえる。張った罠に敵が近づいてきているような緊張感。
思わずは溜まった唾液をごくりと飲み込んだ。
しかし開いたのは視線の先の前扉ではなく、後ろの扉。なんと言うフェイントだろう。
「オメーら、ロングホームル 「何で後ろからなんですか、やり直してください!!」 は、え、何?」
言葉を遮ってのの張り上げた声に思わず目を白黒させる銀八。
まったくもって意味がわからないといった顔だが、がわざわざ席を立ち銀八の体を外に押し出して扉を閉めると、ご丁寧に鍵までかけてしまった。
ここまでくればもう前から入らなければならないだろう。何だというのだと呆れながら前扉に向かった銀八はある物に気付く。
挟まったそれを取り除くと漸く扉を開けた。
「おーい、誰だこんな古典的なトラップしかけたのは。先生はなー、こんな黒板消しに引っかかるような阿呆じゃ、っ!?」
「ヨッシャー!!!」
言いながら中へ入って来た銀八は見事に仕掛けられたバナナを踏んでしまった。
黒板消しは沖田が仕掛けた囮で、そちらに気が向けばバナナに気付かないだろうと二重のトラップだった。
元々のコンセプトから、沖田が加わる事によりその内容は変わっていた。
黒板消しに気付き尚且つバナナにも気付くのか。結果は言わずもがなである。ついでに言えばすべってしまった。
こける事はなかったにしろ、これはかなり恥ずかしい。
しかし何よりもこの後起こるであろう事に、以外の全員は口を噤み黙って銀八を見ていた。
そうとも知らず、なにやら引っかかった事が嬉しいのか、悪戯っ子のようにはしゃぎながら喜ぶ。
内心クラスの全員が、に同情、もしくは呆れの眼差しを向けていた。
「〜・・・・ちょっとお前、あとで生徒指導室な。こなかったら単位やんねーから覚悟しとけ・・・」
「え! そ、そんな!? 酷い先生! 職権乱用!」
「酷いのはどっちだー!! 俺が何をしたって言うわけ!? こんなトラップ、望んでねーんだよ!」
「退屈な日常にピリリとスパイスを効かせてみました!」
「いらんわ!」
結局その後、逃げる事もかなわず確り捕まったは生徒指導室にて説教を食らったらしい。
大体どうして今回突然このような事をしでかしたのか。
理由は先日の国語の抜き打ちテストであまり宜しくない点数だった腹いせだったらしいが
しかしそんな理由であんな悪戯をしたのならば怒られても仕方がない。
聞いた新八はもはや同情など一欠けらもなく、ただ自業自得だという呆れの思いしかなかった。
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