それはとても小さな

>03:2時間目







今は二時間目。にとって二時間目とは授業ではなくお昼への繋ぎのおやつ時間であった。
もちろん今は授業中。黒板に向かい慣用句や接続詞がどうのと書き連ねているのは、国語担当である担任の銀八。
しかし授業態度が云々、成績評価がどうのなどと細かい事は一切気にせず、はまるで自宅で寛いでいるかのようにもりもりと食べていた。
最後の線を引いた所でカツッと、チョーク独特の音が立つ。



「おーい、。先生珍しく真面目にやってんだからよォ、もうちょっと真面目にしてくんない?
 やる気落ちるから。なくなるから。先生の今月の給料はお前のやる気に掛かってんだよ?」

「先生の給料は先生のやる気次第だと思いますよ?
 それに腹が減っては授業が受けられぬってかの有名なホニャララさんも言ってたじゃないですか」

「授業中に食ってて受けられぬもクソもねーだろーが! しかもホニャララさんって誰だ!」



ビシッと飛んできたチョークをは意外と運動神経がいいらしく、ひょいと体を横に傾けて避けてしまった。
そしてそれは真後ろの席にいた桂へと直撃してしまう。



「先生! チョークの粉が髪につきました。セクハラで訴えますよ!」

「ウルセーよお前は! つーか髪にチョークでなんでセクハラ!? 意味わかんねーし!」

「先生、それはそうと授業はどうしたんですかー?」



ニヤニヤと笑いながら問うもなかなかいい性格をしている。
口元を引きつらせた銀八はこれ以上つっかかっていっても授業も進まないし、の思う壺だ。
あれ、教師なのに生徒に思う壺にされてるってまずくね?大人の威厳とか色々がヤバクね?
そう思いながらもこれ以上まともに相手をするなと自分自身に言い聞かせ黒板へと向き直った。



「とりあえずさっさと黒板のやつノートに写せよー」

「・・・先生。写せと言いながら早速消していってますけど、どう写せっていうんですか?」

「そりゃあれだ。心の目で見るんだよ。そうじゃなかったら、誰か他の奴に見せてもらえ。メガネとかツッコミとかメガネがちゃんとノートとってるから」

「それって僕の事かァァァァ!!! つーか本当にやる気ねーな!」

「だから言っただろー。のせいでやる気が落ちたって。本当もう勘弁してくれよなァ」



勘弁して欲しいのはこっちだと言いたいが、それはグッと我慢する。ここで突っ込みを入れればそれこそ思う壺だ。
あれ、でも思う壺って先生は別に何かを企んでるわけじゃないじゃん。いや、でも真面目に授業しようとしてるのには企みがあるのか?
新八は先ほど銀八が考えていた事と似たような事を考えつつ、こちらに向けられた背を見ていたがいつも何を考えているのかわからないのがこの教師だ。
深く考えるのはよそうと頭を振り、気を紛らわせる為に時計をみれば授業はあと二十分も残っている。
一応教科書を片手に一文を読み上げ、それを黒板に白チョークで書いていく。傍から見ていれば真面目な教師だ。
しかし一つ問題がある。



「先生」

「ん、なんだ?」

「いくら先生が真面目にやっても、殆ど誰も聞いていないんですけれど・・・」



それもそのはず。
いつも以上にだらけきり無法地帯状態のZ組は、授業中にも関わらず携帯を弄るものから堂々とおやつ、早弁を貪り食す者。
アルバイト情報雑誌を端から端まで入念にチェックする者。
化粧道具を出して一体それ以上どう化けるんだというような化粧を施す者と、好き勝手やりたい放題。
とは言っても一応真面目に聞いているものも居る。主に新八に土方、九兵衛に山崎に屁怒呂辺りがそうだろう。
近藤は最初こそ真面目だったが、途中何があったのかわからないがお妙に殴り飛ばされたぶん今意識は川縁に座っている所かもしれない。



「いいんだよ。俺さえ真面目にやってりゃとりあえず給料はもらえんだから。後はどうなっても自己責任。お前ら自身でどうにかしなさい」

「アンタ、最低な大人だな」

「こうして大人というものを学んでいくんだぞ、志村弟」

「駄目な大人代表のような先生に言われたくないんですけど」



のツッコミに細かい事は気にするなと、結局Z組は静かに思い思いの時間を過ごしつつ二時間目を終えたのだった。





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