灰愛色 -はい いろ-
>誇り -act 02-
「う、・・・ぐず・・・・っ」
テロを阻止した翌々日。久しぶりの休日を満喫中のは一人、映画館の長椅子に座り涙を拭っていた。
永い間泣いていたのだろう。ハンカチはすでに湿っている。
周りの人の中にも、同じように涙を拭う者もいれば、既に泣いた後だと言うような少し腫れぼったい目蓋をした者もいる。
ひとしきり泣きはらし、今はカウンターで買った温かいお茶を飲んでカラカラの喉を潤しているところ。
漸く落ち着いたのか、深い溜息をつくと先ほどお茶と一緒に買ったパンフレットの中身を少しだけのぞき見た。
先ほど見た映画の内容を思い出し、落ち着いたばかりだというのに涙腺がまた緩み出してしまう。
が見た映画は、最近上映している中でもそこそこの人気がある、所謂純愛系ラブストーリーである。
昔から読み物なり映像ものなり、見るものは大抵がそういったジャンルだった。
どうせ見るならアンハッピーエンドよりも、どんな苦難、困難があろうとハッピーエンドが良い、というのがの考え。
以前、沖田にそれを言った時に、「じゃあの為にドロドロの恋愛小説でも探してきてやりまさァ」と笑顔で言われた事は忘れない。
思い出し、一瞬浮かんだ沖田の黒い笑みを振り払うかのように頭を振ると立ち上がり外へと出た。
朝一で映画を見始めた為今は昼少し前の時間。
近くの定食屋から微かに、魚を焼くような香ばしいかおりが鼻腔を刺激する。
「あー、泣いた泣いた。泣いたらお腹すいてきちゃったなァ」
暫くその場で立ち止まったまま、昼はどこで済ませるかと考えを巡らせる。
久しぶりの休日なのだから、いつもは行かない場所に行ってみようか。
だが巡回中に利用する場所もお気に入りと言えばそうなる。いつもは胃に食べ物を押し込む、といった行為に近い昼食。
これを機に、どうせならじっくりメニューを見て味わって食べてみるのも良いかもしれない。
グルグルと考えながらはなんとなく歩き出した。
途中、いくつもの食べ物屋の看板は目に入るものの、惹かれるものが無く映画館があった大通りから、見慣れた道へと足が向き
周りの景色はそれにあわせてゆっくりと流れていく。
大江戸ストアの前へ差し掛かった所で、中からでてきたのは珍しく三人で買物なのか。銀時を先頭に後ろからはあとの二人が出てきた。
最初にに気付いた新八が挨拶をしようとする言葉よりも先に、へ降り注いだのは神楽の言葉。
「あ、税金ドロボー猫アル」
「なんかとんでもないモノ同士が夢の共演を果たしてるんですけど!?」
「神楽ちゃんダメだよ、そんな事言ったら。いくら普段銀さんが、真選組の人を税金ドロボーって言ってるからって・・・」
新八のフォローになっているようでなっていない、諌めるような言葉に神楽は先ほどと同じような口調で、銀時がそう言っていたのだと告げれば
当然銀時へと二人の何とも言えない、蔑むような視線が向けられるが、当の本人はこれといって気にしている様子はなかった。
「んだよその目は。アレだよ、ただの税金ドロボーじゃ悪ィかなと思って、俺なりの配慮だよ。
猫がオプションでついてくるんだぞ、お得だろーがコラ」
「配慮の欠片も無ェよ。
別にお金貰うだけ貰って何もしてないわけじゃないですよ。市民の安全を護る為に私達は汗水流して働いてるんです。
不本意ながらあなたもその中に入ってるけどね・・・」
「オイコラ、聞えてるぞ。俺はな、甘味の匂いと自分に対しての悪口には鋭いからな。
今の、しっかり覚えておくからなコノヤロー」
ああ言えばこう言う、とはまさにこの事であり、これ以上何を言っても互いに醜い言い争いで終わってしまう。
せっかくの休日をそんな事で潰したくは無いが潔く身を引けば、漸く銀時の喧嘩腰の言葉も途切れた。
万事屋と真選組は水と油のような関係なのに、何故かどこかしらで繋がってしまっている。
妙な縁もあったものだと、以前近藤がしみじみ語っていた事を思い出した事で、そこから別の事を芋づる式で思い出した。
「そう言えば沖田隊長を見ませんでした? またあの人サボってるらしくて・・・」
映画が終ったあと、マナーモードにしていた携帯を取り出せばメールが一件。
近藤からのその内容はやけに簡潔で、沖田を見つけたら屯所へ戻ってくるようにという用件のみだった。
沖田はサボっていてもけして携帯の電源などは切らない。どこかで熟睡しているのか、あえて見ぬフリをしているのか。
どちらにしてもサボっている事には変わりないだろうと、思っただが意外とその行動範囲は広い。
休みを満喫しつつ、街をぶらりと歩いて見つける、などと言ったことで簡単に見つかる人物でもないわけだ。それならここまで苦労はしないだろう。
もし会っているならば場所を教えてもらえればいい。知らなければ、見つかりませんでしたで終わらせられる。
銀時達からの返事はやはり後者であり、特に期待をしていなかったも「そうですか」と淡白な返事で終わる。
「でも、さんも大変ですね。サボり癖のある人が上司だなんて・・・」
「オイ、なんで俺を見た? 俺はサボってるわけじゃねェ、仕事がこねェだけだ」
「威張れる事じゃないアル」
「まあ、もう慣れちゃいましたしね。
あ、それじゃ私、もう行きます。せっかくの休日なんで満喫しなきゃ」
のその言葉を皮切りに、一言二言、憎まれ口を互いに冗談交じりに吐きつつ背を向け歩き出した。
歩きながら何の気なしに周りを見て歩くが、沖田の姿は見当たらない。
本格的に探す気もなく、空を見上げながら歩くは、先ほど言われた新八の言葉を思い出す。
サボり癖は確かにあるし、こうやって探さなければならない時もあるのは少々の難ではある。
それらを差し引いても、一番隊に所属できた喜びに勝るものは無かった。
あの若さで隊長という肩書きは飾りなどではない。戦闘に関しての強さ、勘の鋭さ。度胸に覚悟。
上げればキリの無い沖田の剣術のセンス。それを目の当たりに出来るのだ。それは自分にとって、貴重な経験の一つになる。
幼少の頃から父親に叩き込まれた剣術。
剣で食べていこうと考えたわけではないが、自分の取柄など剣術しかない。
廃刀令が布かれている世の中で、中々に難儀な取柄を持ったものだと自嘲した時もあったが、それも昔の事。
「待て。貴様、真選組のだな」
真選組という場を得たは、命の危険があろうと構わず。それは真選組に入った時点で覚悟を決めていた。
ただ己の信念のもと、その刀を振るうのみ。
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