前へ進め、お前にはその足がある
>異色同士 -act02-
屋根の修理も無事に終え、新八は早々に降りていき依頼人へとその旨を伝えに行った。報酬もその場で受取る事になっている。
その間に銀時たちは道具や古い瓦などを片付けていたのだが、手が滑って瓦を一枚落としてしまった。
慌てるとは対照的に銀時と神楽は平常通りだ。もう少し慌ててもいいだろうと思うが、言っても無駄だと知っているからか口にはしない。
「王女ォォォォォ!! なんでェェ!? 上から瓦がァァァァ!!」
運悪く脳天直撃した者がいるらしく、銀時が軽い口調で謝っている。
聞こえてきた声がどこかで聞いたことのある声だと、一瞬思ったが今はそんな事は関係無い。
このまま任せていれば喧嘩に発展するかもしれない。下手をすれば、この騒ぎが依頼人の耳に入って減額なんて事も充分考えうることだ。
それはなんとしても阻止せねばと、は梯子を降りて現場へ駆けつけた。しかし謝罪の言葉を口にする前に、目の前の人物に動きを止める。
「こ、近藤さん・・・こんな所で何を・・・?」
「い、いや、これは違うんだよ! 断じて違うんだ!」
「何がですか。それより、そのゴリラは一体・・・あれ、タンコブが・・・あ、まさか」
そのまさかだろうと、自分の呟きに対して脳内で別の何かが答えを返してきた。
身の丈が近藤の三倍はあるであろう、着物を纏ったゴリラが見事なまでのタンコブを脳天に作り、起き上がった。
見れば不機嫌に見える様子だ。それもそうだろう。なにせ頭上からの突然の攻撃だ。それが故意であろうとなかろうと、攻撃された者には関係ない。
ここは下手な事はできない。選択を誤ったらもれなく死が訪れるのでは無いだろうか。
そう思わずにはいられないが、が謝罪の言葉を述べる前に、屋根から下りてきた銀時達が二人の元へとやってきた。
「オイオイ、何やってんだお前、こんな所で」
「女にモテないからって、ついにゴリラと交際スタートアルか」
「いいすぎだぞ神楽。冗談でもいっていい事と悪い事があんだろ。弟さんかなんかだよ」
「銀さんも大概失礼ですよ。親戚ですって絶対」
「オ・・・オイオイ冗談よしてくれよ〜。コレ、ペットだよペットォ」
銀時を諌めるも充分に失礼なのだが、少々気が動転している節もある為自らの発言にあまり責任が持てていない。
三人の言葉へ、いつもなら激しく否定してくる所だが、近藤は冷や汗を滲ませながらやんわりと否定する。
誰一人として近藤の言葉に違和感など感じる事もなく納得した様子に、近藤はいまだ冷や汗を拭う事もできずにいた。
ペットと知り神楽の行動はエスカレートしていき、よじ登ったと思えば先ほどの豆パンの豆を食べさせようとしている。
必死になってそれを止めようとする近藤だが、銀時達が素直にやめるはずもない。
口に放り込んだ豆を吐き出したゴリラに、銀時は食べ物を粗末にするなと容赦なく平手打ちをかます。
「ちょっと、もうホントやめてっ!」
「ダメだよ〜、お前。幾らかわいくても怒る時には怒らにゃ」
「着物着せるぐらいですから、これは猫可愛がりならぬゴリラ可愛がりしてるんでしょう。ダメですよ」
「わかったから! ちゃんと躾するから! もう離して!!」
ペットだなんだと言っているが、実はこのゴリラが猩猩星の王女で、近藤と見合いをしている途中などと知らない銀時達は
近藤の慌てる理由も内情も気にとめず好き放題に言っている。
このまま銀時達の相手をしているわけにもいかないと、適当な理由をつけてその場を去ろうとした。
その時、近藤の袴の裾から何かが転がり出て更には蹴ってしまった。それを銀時と神楽が見逃すはずがない。
はさすがにそこに口を出す気にはなれず、見てみぬフリをしているが状況は変わらず、慌てる近藤に二人は更に追い討ちをかけて行った。
「今、お前の袴の裾から転がり出てこなかった?」
「一回蹴ったよ。ワントラップいれたアル」
「オージョォォ!! どこでもウンコすんじゃねーって言っただろーが!!」
「ええぇぇ!?」
王女を手近にあった池へと蹴り飛ばし、必死になって言い訳をしている。しかし銀時はまったく取り合わない。
それどころかその言い訳が更にどんどんと、ドツボにはまっていく要因となっている。
池に逆さに刺さったままの王女はいいのかと、がいつ、その事を切り出すか悩んでいた所で、突然王女が怒りの復活を遂げた。
すっかり頭に血が上ったのだろう。池から這い出ると同時に銀時達を敵とみなしたのか、攻撃を仕掛けてきた。
「ぎゃぁぁぁぁ!! ちょっと、なんで私たちまで!?」
「お前らアレだろ! 王女に豆なんか食わしただろ! そもそもあのときから機嫌悪かったんだからなァ!」
「違ェよ! お前がちゃんと躾て無ェからこういう事になったんだろうが!」
「よし、ここは私に任せるアル! こんなゴリラひとひねりネ!」
「「ひねっちゃダメェェ!!」」
神楽の台詞に、近藤との言葉がかさなったがしかし、意味合いはまったく違う所にあった。
近藤にとっては政略結婚だなんだの相手で王女だ。下手をすれば首が飛ぶ。
はその衝撃で屋敷がボロボロにでもなったら、せっかくの報酬から修理代云々で天引きされる。
どこまで行ってもは頭の中には今日の報酬額がちらついていたが、仕方がない。
この騒ぎの中、新八はどこへ行ったのか。修理が終った事を告げるついでに報酬を貰ったはずだと言うのに、一向に姿を見せない。
考えている隙に、王女の一撃が繰り出された。それを避ける為に、四人でかたまって飛び込んだ先は目の前の客室。
そこには見慣れない眼帯をした者と、お妙の姿があった。
「アレ!? お妙さん!」
「アレ、何コレ。なんかマズイトコ入ってきた?」
「アネゴ!! こんな所で何やってるアルか!?」
「あれ、どこに行ってたのかと思ったら新八君まで!? え、一体何が!?」
何か不味い現場に居合わせたのでは無いだろうかと思ったが、よくよく見ればその奥には新八もいる。
一瞬、昼ドラのようなやり取りをその三人で繰り広げている姿を想像したあたり、まだは余裕だ。
だがその余裕もそこまでで、慌てる四人が見たのは、いつものように笑みを浮かべたお妙の姿ではなかった。
「・・・みんな、さようなら」
常なら見る事もないお妙の泣き顔と、突然のさようならの言葉に一瞬静寂が辺りを包む。
背を向け去ろうとしたお妙を銀時が止めようとしたが、いまだに怒り来るった王女が部屋へと押し入って来た事でそれも叶わず。
近藤は慌てて王女にとにかく謝ってと言うがゴリラ相手にどう謝ればいいのか。
それどころかお妙は眼帯をした者に抱えられその場を去ってしまった。
この非常時にそれにいち早く気付いた新八だったが、止める事もできず二人は姿をくらました。
王女の容赦無い一撃によって部屋は半壊。結局報酬はなかった物とされ、あとに残ったのは半壊状態の料亭と
手加減はしたものの、神楽の手によって気を失った王女。
そして、お妙が姿を消して呆然とする新八の姿だった。
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