前へ進め、お前にはそのがある

>異色同士 -act01-







高らかに鳴り響いた万事屋の電話の相手から告げられたのは、久しぶりに高収入の仕事の依頼だった。
料亭の屋根の修理と、内容もさほど難しいものでは無い。だが仕事の依頼が入ったからといって、浮かれるわけにも行かない。
仕事は前準備から既に仕事の一つなのだ。はそう自分に言い聞かせながら、和室で四人分の繕い物をしている。
手先は不器用というわけではないが、先ほどから軽く針で自分の指を刺してしまっている。


「・・・痛っ! ・・・あーあ、また刺しちゃった・・・でも、これで最後だからね、頑張らないとね!」


出かけ前に、繕い物を頼んだぞと言い残して買物に行った銀時の言葉を思い出す。加えて言うなら、お土産を買ってくると言っていたのだ。
お土産の内容にあまり期待はしていないが、それでも頑張った報酬があるというならば気合の入り方は違う。
現金な奴と言うなかれ、人はそういうものである。
黙々と縫い続け、漸く終わりが見えた頃に銀時がタイミングよく帰ってきた。


「たでーま」

「おかえりなさい、銀さん。こっちもちょうど終りましたよ」

「おお、さすがだ。銀さん信じてたよ、お前はやればできる子だ」

「でしょう! だから、はやく、はやく!」


繕い物を終えたを誉める傍ら、子供のように早くお土産を寄越せと催促してくる姿に内心苦笑を漏らす。
表情には出さずに慌てるなと言いながら、袋に手を突っ込んで何かを取り出してへと渡した。
受取ったは、期待はしてなかったのは本音だ。しかし貰ったものを見て、その笑顔は段々とかたまっていく。


「・・・銀さん、これ・・・」

「ちょうど見切り品にあってな、お前好きだろアンパン」

「いや、まあ・・・好きですけれど・・・・・・いえ、何でもありません、ありがとうございます」


今の経済状況をよく知っているからこそ、過度な期待は最初からしてはいない。それでも、まさかアンパンとは思っていなかった。
だが文句は全て喉元で押し留め飲み込んだ。
袋の中身はこれ以外は全部豆パンだと思えば、手の内にあるアンパンにも少しばかり特別な意味が出てくる。
連日、睡眠時間を削ってまでやり遂げた繕いものだ。疲れている時には甘い物だという、銀時なりの思いやりでもあるだろう。
けして見切り品の中にあった物を適当に見繕ってきたわけでは無い。お土産を買ってくるという言葉を守って、買ってきてくれたのだ。
必死になっては自分にそう言い聞かせながら、アンパンを一齧りした。









「神楽ちゃん、そこの釘とってくれる?」

「私もやってみたいヨ。私も釘、打ってみたいアル」

「あ、あんまり力入れないでね・・・」


立派な料亭の屋根の上で、雨漏りの修理をする四人は朝から釘と板と瓦に囲まれていた。
が頑張って作った仕事着を着ながら、板を新しくして釘を打ち込む。
万事屋に居ると本当に色々な仕事をするものだと思いながら、おかげで手先が器用になったものだと改めて、作った作業服を見る。
多少指を針で刺しはしたが、バンソウコウのお世話になるほど深く刺したわけでもない。
人間器用すぎず、不器用すぎずが一番だと思う傍ら、神楽が金槌を握り締めて大きく振りかぶる姿を見なかったことにした。
打ってみたい、と言った辺りでその板の末路など目に見えている。しかし神楽も仕事をこなそうと頑張っているのだ。その気持ちを無駄にはしたくない。
結果、せっかく新しくした板は真っ二つに折られてしまう。諦める事をしない神楽は二枚目、三枚目と挑むがどれも結果は同じだった。
が呆然とする隣では、新八が今朝、お妙が仕事から帰ってきてからすぐにまた出かけた事を銀時に相談している。
いつもと違う行動に心配しているらしいが、相談された銀時はそう言う時は赤飯を炊いておけと、一言で終わらせた。
納得行かない新八は声を荒げ、赤飯を炊くような事では無いと抗議する。現実から目を逸らしたいらしい。
だが銀時は淡々とシスコンも大概にておけと、たしなめる。


「そう言うとき弟は、もう黙って赤飯製造マシーンになるしかねーだろ。泣きながら赤飯製造マシーンだよ、お前」

「銀ちゃん! 私も大人になれば赤飯食べれるアルか!?」

「お前は泣きながら豆パンでも食ってろクソガキ」

「神楽ちゃん、赤飯は別に子どもでも食べれるから。お弁当屋さんでも売ってるから。今度作ってあげるから」

「何、お前。赤飯食べたいの? 炊くような事がしたいの? だったら言ってくれれば銀さんいつだって協力するよ」

「え、遠慮します!!」


昼間から何を言っているんだと抗議したかったが、昼間じゃなきゃいいのかと返されて終わりだろうと、口を閉ざした。
誤魔化すためにお昼ご飯用に持ってきた豆パンを入れた袋を取り出すと、端っこですねている新八へと一つ渡しても口にする。
神楽はさすがに三日三食豆パンと言う食生活に、銀時が言ったように泣きながらかじりついた。
今日の報酬が入ればお米が買える。その前にお登勢にたまった家賃を払わなければならない。
先々月分はすでに完済しているが、先月分がまだだ。きっちりはらう事ができればいいのだが、収入によって左右される。
とりあえず半分でも支払う事ができればいいのだが、と考えるの隣では新八が
お妙の行動の要因と、赤飯を炊く事になるかもしれない相手が近藤なのではないかと思い至り、声を荒げていた。


「いや、近藤さんはまず無いよね。赤飯は赤飯でも近藤さんの血で染まった赤いお米になるだけだよね」

「そんな飯を粗末にするような事、銀さんは許しません」

「この際赤い米じゃなくても、緑色でもいいアル。お米が食べたいネ」

「神楽ちゃーん、緑色の米なんて食べるなよ。もれなく食中毒だぞ。腐った米だぞ。病院行きになるぞ」

「いっそ入院してしまえばご飯が食べられるアル」

「入院費の方が高くつくだろーが」


段々と話しがそれていく達の横で、いまだ新八は頭を抱えて唸っていた。





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