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前へ進め、お前にはその足がある
>色取り取り -act09-
重機は先端に、何本もの鉄骨を括りつけたものでその鉄骨には神楽が縄で括られている。
虚を突いて怯んだ隙に、神楽がおばちゃんをそのまま救出すると言う作戦なのだが、name0と新八は操作レバーの前で動きを止めていた。
そうしている間にも銀時はすでに胴元達の前へと姿を見せてしまっている。後戻りはできない。
「ねえ新八君、これどう動かしたらいいと思う?」
「えっ!? name0さん操作の仕方わからないんですか!?」
「だってこんなのさわった事無いもの。という事で、あとは任せた!!」
「えええ!?」
見事に丸投げだがこういった事はやった者勝ちだ。name0に任せられた新八は慌てふためきながらレバーをガチャガチャと操作する。
でたらめな操作ではあったが、レバーを動かせばどこかは必ず動く。半ばやけになりつつも、なんとか当初の作戦通りに鉄骨は建物へとつっこんだ。
まだ工事中の建物だが、工事担当者には少々申し訳ないと思いつつそんな事を言っていられる場合でもない。
内心で謝罪をしながらも反面、少しだけ楽しいとも思ってしまう。子供が泥だらけになって遊ぶような、そんな心境に似ていた。
「ナイス新八君! 頑張って!」
「人任せだからって気楽ですね!! 僕、機械苦手なんですけどォォ!!」
中では崩れ落ちてくる鉄骨から逃れようと、入り口に駆け寄るヤクザの子分達は銀時によって逃げ道を奪われる。
迫る者達を尽くなぎ倒し、そちらに気を取られている隙に神楽がおばちゃんを抱えて戻ってきた。
だがそこはやられてばかりの胴元では無い。咄嗟の判断で、おばちゃんへしがみつくという驚きの行動に出た。
胴元達にはすでに銀時達の正体はバレているらしい。
お登勢の回し者だと言う彼の言葉には、少々の誤解が含まれているがそこまで顔が割れているのかと驚きもあった。
それに構わず、振り子の原理で迫り来る胴元を狙い、銀時は木刀を振りかざし、叩き落した。
「溝鼠だか二十日鼠だかしらねーけどな。溝ん中でも必死に泥かきわけて生きてる鼠を、邪魔すんじゃねェェ!!」
「兄貴ィィィ!!」
胴元を叩けば終わりだとばかりに、凄む他の子分達は捨て置き、銀時は外に出ようとする。
殴りかからん勢いの子分を止めたのは、胴元だった。
元々、ヤクを使っての商売には乗り気ではなかったらしく、今回の件を口実に手を引くことができるだろうと逆に利用する気らしい。
それならそれで、願ったり叶ったりである。
「わしは借りた恩は必ず返す。七借りたら三返す。ついでに、やられた借りもな。三借りたら七や。覚えとき、兄ちゃん」
無事におばちゃんを救出したその日はごたごたに巻き込まれっぱなしで万事屋で一泊する事になった。
翌日の朝にはまた冷蔵庫の中身を勝手に使われ、朝食を作りああだこうだとお小言を漏らす。
すぐに帰る予定が、何故かそのままズルズルと昼食も済ませ、日も落ちてしまった。
午前と午後、誰も連れずにどこかへ出かけていったようだったが、どこに行ったのかはわからない。
ともかくもうトラブルを持ち込んでこないでほしいと、その一つだけだった。
夜になれば漸く荷物を纏め帰ろうとするおばちゃんを、玄関先で見送るが先ほどから報酬であるかぼちゃの煮付けについてしつこく調理の注意点を言ってくる。
あまりのしつこさにもういいから早く帰れと、銀時が言えばそれで区切りが一応ついたらしい。
扉を閉めようとするおばちゃんを見て、新八は思わず止めてしまった。
「あのっ・・・・・・結局・・・力になれなくて・・・すいませんでした」
「何言ってんのさ、会わしてくれたじゃないのさ」
「・・・え? 会わせてって・・・」
「それじゃあね。体に気をつけるんだよ」
それを最後に、アレほどまでにうるさく、まるで台風のようだったおばちゃんはあっさりと帰っていった。
暫し呆然としながら先ほどのおばちゃんの言葉を考えるが、まさかあそこまで変貌した息子に気づいていたのだろうか。
だがその真意はおばちゃんのみが知るところだ。それ以上玄関先で考えても埒があかない。
誰ともなしにその場から台所へ向かうと、かぼちゃの煮付を作り始めたが、それが本日の万事屋の晩御飯となった。
「ようやくうっとーしーのがいなくなったな。アレだな。母ちゃんなんていても、うっとーしーだけだっつーのが、よくわかったわ」
「そうアルナ」
「そうですね・・・」
それぞれが箸をつけると口に入れて、なんとなくおばちゃんに言われたままに二十回を数えて噛んでから飲み込んだ。
普通に甘いかぼちゃの煮付が、いつもよりも余計に甘く感じたのは銀時が作ったからかのか、かぼちゃ元々の甘味なのか。
それともよく噛んだからなのか。理由はわからないが、自然と笑みが零れた。
「でも・・・」
「ん?」
「思ってくれる親って、やっぱり暖かいですね」
銀時は何も言わず、無言のままにname0の頭を乱雑に撫ぜた。いつまでも止まらない手は、髪をぐしゃぐしゃにする。
髪が乱れると抗議するも、やめない銀時へお返しだとばかりに掴みかかれば二人してソファから転げ落ちてしまった。
意地になって仕返しをしようとするname0と、それを阻止する銀時。その傍らで新八と神楽は止める事もせず、黙々とかぼちゃを平らげていく。
ようやく二人の中で決着がついた頃には、皿の上は食べ貸すだけが残っているという、あまりにも悲惨な状態だった。
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