前へ進め、お前にはその足がある
>色取り取り -act08-
着替える事もせず、おばちゃんを探しに町を出たが見つからない。八郎を始め、他のホスト達も探し回っているが、結果は同じだった。
それどころかおばちゃんを追って出て行ってしまった狂死郎も行方がわからなくなってしまった。
まさか狂死郎が本来探していた「黒板八郎」だったとは、誰が考えるだろうか。
元の顔の面影などまったくないのだから、気付かなかった事も頷ける。
加えて言うなら、落書きにも近い書き足した写真が、目の前にいる八郎そっくりになったのも原因の一つだ。
ある意味悪ノリしてしまったものだったが、まさかそっくりさんに会うなどとは誰も予想して居なかっただろう。
お前が紛らわしい格好をしているからだと言いがかりをつけている神楽に対し、八郎は正論で返した。
「銀さん、どうします? このまま闇雲に探しても見つからない気がするんですけど・・・」
「そうだな・・・一旦戻るか」
「何言ってるネ。あいつらに攫われたらあいつらの所にいるはずアル。だったら殴り込みしかないネ!」
「いや、駄目だから!! 大体相手を考えなよ! 下手な事してお母さんに怪我させたらどうすの!?」
「その時は奴らになすりつけるに決まってるアル。もっと臨機応変にいけよ新八。だからダメガネアル」
狂死郎にしろおばちゃんにしろ、探すには情報が少なすぎる。胴元達に攫われたと言うのは憶測に過ぎない。
人に聞いて探し回っても、ただでさえ沢山の人が溢れる夜のかぶき町だ。おばちゃん一人を気にとめる者が、どれほどいるか。
八郎の携帯がそのアフロの中から着信を知らせた。真剣な面持ちで取り出すが、如何せん取り出す場所が場所である。正直気が抜けてしまう。
会話もそこそこに切ると、狂死郎が見つかったと告げた事で、一度緩んだ気が引き締まった。
まだ狂死郎を探し走り回っているホストからの連絡だったらしく、慌てた様子でどこかへ向かう狂死郎を見かけたらしい。
途中まで追ったものの、人込みに紛れてしまい見失ってしまったというが、そこまで分かればあとは簡単だ。
狂死郎が今慌てることと言えばおばちゃんの事だろう。ならばその見かけた場所から聞いて探せばすぐである。
おばちゃんはともかくとして、狂死郎は名の知れた男だ。慌てた様子で走る姿ならば、尚の事目に止まりやすい。
八郎から場所を聞きすぐに向かおうとしたその背に声がかかる。
「オラ達も一緒に行きます」
「邪魔だ。大体アンタは、さっきボコられたばかりだろうが。敵うとでも思ってんのか?」
「だとしても、狂死郎さんを放っておくわけにはいきません!」
「でも八郎さん、お店ボロボロでしょ? あれ、片付けなきゃいけないじゃないですか」
「店はあとでも・・・!」
「だから足手纏いだっつってんだろ。慣れねェ喧嘩なんざしようとしないで、大人しく店をキレイにして留守番してろって言ってんだよ」
尚も食い下がる八郎達を邪険に扱い、まるで纏わりつく犬を引き離すかのような態度で接する。
銀時のこの態度に引き下がらないその決意だけは立派なものだが、ここで全員で行った所でどうなるというのか。
聞き分けのない子供を言い聞かせる親のような気分だと言いたげな顔をして、深く溜息を漏らす。
「元はと言えばオメーが店の前であいつら食い止められなかったから、グチャグチャになっちまっただろうが」
「それは、認めますが・・・でも」
「テメーのケツぐらいテメーで拭けや。で、キレイになった店でアイツを笑顔で向かえてやりゃいいじゃねぇか」
「坂田さん・・・」
何も言わず歩き出すことで暗にこれ以上話す事は無いと示せば、静止の声はなかった。
漸く聞き分けたのかと、言葉にはせずに溜息と共に呆れた思いを吐き出すと、めんどくさい奴だと呟いた。
銀時の呟きに三人は一瞬顔を見合わせて、一番めんどくさい性格の奴が何言っているんだと言えば、そんな事は無いとすかさず反論してくる。
自覚があるのか無いのかはともかくとして、その素早さにもう一度笑った。
やはり狂死郎の姿はいろいろな意味で目立つらしく、聞き込みをしていけばすんなりと行方が判った。
天人製のビルを建てようとしている工事中の現場。まだ骨組み段階のものをシートで覆ってある。重機もそのままだ。
物陰から中の様子を窺えば、捕まったおばちゃんとその周りには胴元達の姿。胴元達には八郎の正体がバレているらしい。
狂死郎一人を助けるならばこのまま殴り込めばいい。しかしおばちゃんが人質になっているため、下手には動けない。
何かないかと辺りを窺ったは、近くにあった重機を目に留め近づき見れば、幸いな事にものぐさな使用者なのか、キーがそのままだった。
「なら話は早ェな。オメーら、やる事わかってんだろうな」
「うおお! やってやるアル!」
「銀さん、新八君。やる時はガツンと派手に行きましょうね!」
「な、なんで二人ともそんなやる気満々なんですか・・・?」
神楽との様子に引きつり笑顔の新八だが、やられたら三倍返しだからと二人声をそろえて言われては反論もできない。
チラと銀時を見るがまったくもって気にしている様子も無い。
溜息を漏らしたい所をグッと堪え、重機に向かうと腹をくくってエンジンをかけた。
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