前へ進め、お前にはその足がある
>色取り取り -act06-
人込みの合間を縫うように走った達の足が止まる。肝心の八郎がどこにも居ない。
あの目立つ髪形だが探すとなると案外、見つからないものだ。
一体どこに行ったのかと、辺りを見渡してみるがやはり見つからない。
「あの髪型だから見つかると思ったのに・・・。砂漠の真ん中にあるサボテン並に目に付くと思うのになぁ」
「そうですよね。でも、この人込みですから或いは・・・・」
「何言ってるネ、あんなの見落としたらそれこそお終いヨ。だから新八はダメガネアル、もっと確り探せよ」
言いながら三人は目を凝らして人込みを見るが、それらしいものは視界に掠りもしない。
一体どこへ消えてしまったのか。もしかしたら建物に入ってしまったのかもしれない。
どちらにしても、ここは人に聞いてみるのが一番だと判断し、聞き込みをしてみれば意外と周りの人々は八郎の事を知っていたようだ。
特徴を話せば「ああ、八郎さんか」と、当然の如く名前を言って居場所を指し示してくれた。
あの髪形だから知らず有名になっても仕方ないだろうと、さして不思議には思わなかった達は、男の指し示した場所に目を疑った。
「あの人なら、ホラ、あの店にいるよ」
「・・・え?」
「おい、嘘言ってんじゃねェぞ親父。あんなのがあんな所にいるわけないネ」
「そ、そうですよ。僕らはそんな事じゃ騙されませんよ!」
本当の事を言えと掴みかかる神楽を宥めながらも、も新八もありえないだろうと何度も思った。
男が言った場所は、ホストクラブ高天原。ここらでは有名な店だ。
いくら興味ないとは言っても、何度かテレビでも見たような覚えがあり、も店名だけは知っている。
まさかそんな所に八郎がいるわけが無い。百歩譲って八郎が店員としても、ホストはまずないだろう。何せあの髪型だ。お世辞でも素敵だと言えそうに無い。
しかし男は本当にあの店に居るんだと一点張り。神楽が掴んだ胸倉を揺らしいい加減にしろと凄んだ時、信じられない光景を目にする。
「行くぞ八郎」
「はい、狂死郎さん」
店内から現れたのは八郎だった。もう一人、八郎の前を歩く人物の姿を見て、周りにいた女性が数人黄色い声を上げた。
そちらに耳を傾ければ、叫びに混じり聞こえた言葉に納得する。どうやらその人、狂死郎はホストらしい。
狂死郎がホストなのは納得する。しかし八郎はやはり納得できない。だがおかしいほどに周りの者は、八郎にも黄色い声を上げているような気がする。
わが目を疑うばかりか耳まで疑う。困惑していた三人に、男は「だから言っただろう」と、漸く解放されて一息ついていた。
達が八郎を追ったあと、銀時はギャルを相手にしている暇の無いと、おばちゃんと早々に去ろうとしていた。
そこでギャルの知り合いである勘吉と言う男が現れ、どうやら両者の間で揉め事があったらしい。
勘吉は元々高天原で下っ端として働いていたため、その騒ぎはすぐさま八郎の耳に入る。狂死郎と店を出たのはそれを治めに行く為だったようだ。
店の者が迷惑をかけたお詫びをすると、連れてこられたのは高天原。
その場に居たなかったはあまり詳しい事はわからないが、あれはどう見ても銀時が、勘吉を投げ飛ばしているようにしか見えなかった。
故にこんなお詫びをされるのは、どうにも申し訳ない気持ちがあって素直に喜べない。
そればかりかお酒も飲めるわけもなく、ただ黙って座っていることしかできなかった。
目の前ではおばちゃんが酌をしようとしていたホストへ、セクハラだなんだと妙な言いがかりをつけている。
「ちょ、もういやーよ銀さん! 何ココ!! 私たち八郎を探しにきたんでしょ! こんな所にいるっていうの!?」
「まーまー、おちつけよ。アンタらもういいから、俺たち勝手に飲むから」
「銀さん一応二日酔いしてるんですから、控えてくださいよ」
「わーってるって。あ、なら酌してくれね? じゃなきゃ俺、どんどん飲むよ? じゃんじゃん飲むよ?」
「はいはい、わかりましたよ」
呆れながら銀時のコップにほんの少しだけお酒を注げば文句が聞こえてくる。聞こえないフリをしていれば、もう自分でやるとの手から酒瓶を奪ってしまった。
二人のやりとりも気にせず、新八はどうやらおばちゃんは八郎の事に気付いていないようだと耳打ちしてくる。
八郎の方も名乗り出るつもりが無いにしても、何故接触してきたのかと不思議がっているが、銀時は理屈では無いと答える。
「うっとーしい母ちゃんでも、目の前で暴漢に襲われてりゃ、助けちまうのが息子ってもんだろ」
「襲われたっていうか、襲ってましたよねアンタら」
「銀さんがあの人を投げ飛ばしたもんだから、薬局が大変な事になってましたよ」
「俺は過去を振り返らない男だ」
堂々と仰け反って言い放つ銀時に呆れた視線を向けるが、気にせずコップを傾ける。
諦めても水を一気に煽り飲めば、狂死郎が楽しんでいるかと様子を見にきた。
男に酌をしてもらってもと零した銀時の言葉にも、物腰やわらかく対応する姿はさすがかぶき町ナンバーワンホストと言われるだけの事はある。
無駄の無い所作に、銀時達に一ミリほどでもこの落ち着きがあれば、もう少し楽なのだがと、まさかがそんな事を考えているなどと気付くわけも無い。
好きなだけ食べて言ってくれという言葉に遠慮なく何かを注文しようとすれば、おばちゃんは煮豆を持ってきたからとそれを断る。
まさか持ち込んでいるは思っていなかった。元々貧乏だが、それでもこんな場所で、そんな貧乏臭いことはしてほしくは無い。
変に悪目立ちをするし、何より恥ずかしい。結局はおばちゃんのしつこいぐらいまでの進めに折れて、箸をつけることになってしまうのだが。
新八の隣に座った狂死郎に、八郎の事を差し障りない程度に聞き出せばどうやら長い間一緒にやってきているらしいことが判った。
元々ホストだったらしいが、どうやら整形手術に失敗して今に至るようだ。どこをどうすれば、爆発的な巨大アフロヘアーになるのか。
問い詰めたいところだったがそこは新八のキレの良いツッコミが入った事で納得しておく。
今では八郎は裏方の仕事や、用心棒的な事をしている。それが先ほどの勘吉への制裁とも言える、蹴り一発にも繋がる。
物騒な街に加えて、キレイ事だけではやっていけないと言う狂死郎の言葉には否定も肯定も出ず、新八ももただ黙って聞くばかりだった。
「恥ずかしい話・・・親に顔向けできない連中ばかりですよ」
それはここにいるホストだけでなく八郎や、自分も含めたような言い方だった。
八郎について他に何か聞くことはあったか、聞けることはあるか。
の考えをまるで遮るかのようなタイミングで店内に響いたのは、テーブルの倒れる音とガラスの割れる音。
驚き音のしたほうへ振り返れば、入り口付近でヤクザのような男達が数人と、倒された八郎の姿があった。
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