前へ進め、お前にはそのがある

>色取り取り -act04-







バイトの無い日のは、いつもよりちょっとだけ遅く起きる。それでも銀時や神楽よりも早く起きるし、新八が来る頃にはご飯を作り始めている。
だが朝寝坊などはたまにやってしまうもので、今日がそうだった。
目が醒めて最初に感じた事は、なにやら空腹感を刺激する炊き立てのご飯の匂い。
もう新八が来ていて、作ってくれているのだろうか。そう考えながら起きて素早く着替えると、顔を洗いに洗面所へ向かおうとした。
居間のテーブルの上には既に食器が並べられている。やはり新八なのだろう。
何の疑いもなく、そう思っていたが障子を開けたところで暫し思考も動きも停止させた。


「あ、えっと・・・お、おはようございます・・・?」

「あらおはよう。やっと起きたの。ホラホラ、さっさと顔洗ってきな、もうすぐ朝ご飯できるから!」

「は、はい・・・」


首を傾げながら奥の洗面所へ向かい、顔を洗いながら一体誰だったかと必死になって思い出そうをしていた。
どうやっても思い出せず、もしかしたら自分が来る前に銀時達と知り合った人物なのかもしれないと考え、一応それで納得しておく。
女性、というよりもおばちゃんが一番的を得た表現だろう。
おばちゃんの張り上げた声が聞こえてきたところで、は居間へと戻ると足を掴まれて引き摺られる銀時の姿。
思わず口元を引きつらせれば、その声に神楽と定春も起きてきたようで奥から出て来た。まだしっかり目が開いておらず、半分以上眠っている状態だ。
それを見たおばちゃんは突然、唾液を染み込ませたハンカチで神楽の顔を拭き始めたことに、思わず後退る。
確りと準備された朝ご飯を前にしても、銀時も神楽も眠気眼のままだ。加えて言うならば銀時は二日酔いである。
朝からのこのハイなテンションに付き合えるわけもなく、ご飯を盛っているおばちゃんに対してのツッコミも覇気が無い。
銀時達の分が終わり、定春のご飯の準備も終えたところで新八がやってきた。


「お早ようございます」

「あ、おはよう」

「アラ、おはよう」

「わっ!! お・・・おはようございます」

「何やってんの、早くご飯食べなさい」


言われるままにソファに座った新八だが、朝ご飯は食べてきたからと断った。だがそれすらも聞き入れず、有無を言わさずに大盛にご飯を盛っていく。
正直てんこ盛りによそわれたご飯を見て、は万事屋の家計の心配がチラついている。
全員のご飯を終えれば休む間もなくゴミを捨ててくると居間を出て行った。


「まるで台風みたいな人だね・・・」

「誰ですか、アレ」

「アレだろ。母ちゃんだろ」

「え? 銀さんの?」


素朴な疑問だったが、家族はいないからとその一言で切り捨てた。
新八の母親だろうと言われても、物心つく前に死んでしまったから神楽のだろうと矛先は神楽へと向く。
言い方は違ったが神楽も新八と同じ答えだった。では一体誰のだと一瞬だけ、の方へ視線が向けられる。
もちろんそれには無言のまま首を振ることで答えれば、そうだよな、と納得の言葉。居たら居たでそれは恐すぎる。
では一体誰のだと、首を傾げていたら台所でゴミをまとめていたのだろう。
物を噛みながら喋るなと怒りにわざわざ戻ってきたと思えば、ついでに二十回は噛めとまで付け加え、纏めたゴミを捨てに行った。
なんとなく律儀に皆で回数を口にしつつしっかり噛んでご飯を食べ始めた。おばちゃんパワー恐るべし。







「母ちゃんだよ。八郎の母ちゃん」

「八郎って誰だよ。つーか、八郎の母ちゃんが何故ウチで母ちゃんやってんだよ」

「・・・というか、玄関をどうやって・・・」

「鍵、開いてたからね」

「銀さん・・・?」


朝ご飯も終わり、神楽と銀時が漸く着替えた所で改めて八郎の母親だと、正体を明かしたが本人どころか、八郎すら知り合いではなかった。
さり気無く昨夜酔って帰ってきた銀時が、鍵をかけ忘れたことが明るみになり、笑顔のまま銀時の顔を見るがそらされる。
そんな二人のやりとりも気にせず、目の前でおばちゃんは何故か朝ご飯を食べながら、田舎から息子を訪ね迷っていた所で万事屋の看板を見つけたと
ここに来た理由と共に、世話になるのだからせめて朝餉の用意だけでも、と先ほどの行動の意味を明確にした。
それは良いが、一体今日の朝ご飯だけで通常の万事屋の何食分消えてしまったのだろうかと、頭の端で考える。
銀時のおやつにとっておいたプリンすらも、遠慮なくデザートとしてもりもりと食べているおばちゃん。
苛立ちながらも、息子を一緒に探してほしいという言葉に、依頼ならば仕事として受けると答える銀時もやはり大人だ。
問題はお金を持っているかどうかである。聞けばテーブルの上で風呂敷を広げ、息子にあげようと持って来たかぼちゃだと見せつけた。
どうやらそのかぼちゃで手をうってくれという事らしいが、いくら何でもかぼちゃ数個で頷けるわけもなく、誠意とは何かと銀時が問い掛ける。


「・・・成程、そーいう事ですか。つくづく腐ってるねメガロポリス江戸」

「あの、お母さん・・・何故布団の上に横たわるんですか?」

「・・・わかったよ、好きにすればいい。ただ一つだけ言っておく。アンタに、真実の愛なんてつかめやしない

「深読みしてんじゃねェェェ!! 気持ちワリーんだよクソババア!! 金だ、金!!」


どうやら銀時の言葉を妙な方向へと解釈したらしいおばちゃんは、布団の上に横になったがもちろんそんな事を望んでいるわけでは無い。
結局払える報酬は持っていないらしいがせっかくの仕事だ。
それにとしてはこの際、かぼちゃでもいいのでは無いかとも思っていた。もちろん銀時はそれで納得していないが。
結局報酬の件は、探して見つけた八郎から貰えばいいかと、考えを変えてまずは身近な所から聞き込みを始める事にする。


「で、どこへ行くんですか?」

「もちろん、かぶき町にいるっつーならその顔に聞くのが一番だろ」


お登勢の店へと向かえば、扉を開けた瞬間に言われた言葉は家賃を払え、であった事は言うまでもない。





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