前へ進め、お前にはそのがある

>色取り取り -act03-







長谷川の作品であった、自らをモデルにした翼の生えた雪像を見事破壊したあとに現れた桂。
指名手配犯だと言うのに、堂々と祭に参加しているのは如何なものなのだろうか、と思うだったがそこをツッこんだら負けだろう。
今までも何度だってそう思う時があったのだから、もう今更の事だ。
あえてそこには一切触れず四人で桂たちの作品を見に行けばエリザベスをモデルにした滑り台。
それも神楽と銀時の手によって破壊され、長谷川や桂の雪像にあった一部を拝借して、万事屋の雪像はわけの分からない物へと変化していった。
もう好きにやればいい、と少し離れた場所で互いの行動も省みずに満足げな銀時達を見ていた所に、さっちゃんがやってきた。


「銀さん来てたの、偶然ね。言っとくけど、私しらなかったから。別に追いかけて来たとかじゃなくて、たまたま」

「誰もきいてませんよ、さっちゃんさん」

「追いかけてなくても偶然でも、もうどっちでもいいですよ。さっちゃんさんが突然なのはいつもの事ですから」

「何よその言い草。さては、危機感があるのね。ふふ、ちゃん。あなたには負けないわよ。そう、いつだって私は銀さんの事を想っているもの・・・!」


最初でこそ、コッソリとではあったが楽しみだった雪像作り。それがどんどんあらぬ方向へと進んでいった事により、のテンションも下がっていった。
素直に思ったままの事を口にするが、皮肉にもとられていない。逆にテンションがあがっている気がするが、それには溜息で返しておく。
もうこれはまずグランプリは無理だろう。そもそもスタートからまず負けていた。それでもウサギと亀というものがあるように、もしかしたらと言う事もある。
そのもしかしたらも、悪い方向への物に変わってしまいテンションどころかやる気すらも落ちていった。
そんなの隣では万事屋が作った雪像に対して、またネオアームストロング砲が云々と、長々と説明をしてくれているさっちゃんだったが
正直その内容は、新八の言う通り無駄に長くどうでもいいものだった。


「・・・・・・ひょっとして、さっちゃんさんもなんか、つくってんですか?」

「いや、別にたいしたものは」

「・・・なんかあそこに、明らかにアンタがつくったとしか思えない代物があるんですけど」

「たいした物じゃないどころか、大層な物を作ってますね・・・」


二人の微妙に呆れた視線をさっちゃんから雪像へと移動させたところで、なんとも言えない気持ちになった。
そこには銀時にそっくりの雪像が立っている。いっそそのまま万事屋の土台へ移動させても、何の違和感も無いほど一部を除いてそっくりである。
異様に足の長い銀時の雪像をみて銀時とさっちゃん以外は皆で「気持ち悪い」と感想を述べた。
しかし作られた本人は意外と気に入っているらしく、珍しくもさっちゃんの作ったものに対して誉めている。


「私としてはもう十五センチ位、足のばしたかったんだけど」

「いや、逆にこれ位おさえてた方が、逆にリアルだろ」

「逆に二回言って元に戻ってますけど」

「つまりこれはやっぱりリアルでは無い、といことですよね。うん。銀さんはこんなに足長くないもの」

「おいおい、。オメーもそんな事言って、実はコッソリどこかに俺の雪像作ってんじゃないの?」


今まで一緒に行動してきてどこにそんな余裕があるか。
そう口にしようとしたが、寸でのところで飲み込んだ。言葉として吐き出したが最後、きっとまためんどくさいぐらいにいじけるだろう。
あなたの心の中に作られてますよ、と適当な返し方をしておけばなんとなく納得したらしい。
何時からこんなにやる気の無さと口の悪さが比例するようになったのだろうか、と軽くは過去の自分を思い出してみた。
結構最初から口が悪かった事を思い出して、軽く凹んだがそんなには気付かず新八がふとした疑問を口にする。
よく見れば雪像の両腕が不自然な位置にあった。まるで荷物を抱えているような、支えているような。
一体このポーズは何なのか。言われた事に対して言葉では無く行動で説明しようと、その両腕の上に乗ったさっちゃん。
所謂それはお姫様抱っこであるが、乗った瞬間に重さに耐えられなかった雪像の腕が雪独特の音をたて、折れてしまう。
転げ落ちるさっちゃんに腕が折れた事に慌てる銀時。早く折れた腕をくっつけろと急かされ、転げた拍子に落ちた眼鏡を探す事を止め、腕を取り付けに走り出す。
向かった方向はまるで雪像とは逆方向。しかし本人は眼鏡が無い為にまったく気付いていない。


「早くつけなきゃ!」

「ちょ、そっちじゃないですさっちゃんさ・・・!」


制止の声は途中で途切れた。さっちゃんが持った腕がぶつかった相手はお妙。
まさかここにいるとは思っていなかったが、その腕が触れた場所にも問題がある。
あろうことかお妙の胸に触れてしまっていた。しかしそれは雪像の腕。持っているのもさっちゃんなのだから、何の問題も無いだろう。
そう思ったは、自分の考えが甘かった事を次の瞬間、思い知らされた。
何をするんだと言ってキレイにアッパーが決まったが、何故かそれは銀時へと繰り出された。避ける間もなく弧を描き倒れる。
一方さっちゃんは、どこかの人が作った雪像に抱きついて銀時の名を叫んでいた。


「アラ変・・・なんだか銀さんにさわられた気がしたから〜。ゴメンナサイ」

「姉上、なんでここに?」

「ええ、私の店も作品を出すっていうからお手伝いに」

「へぇ、そうなんですか。どうせならそっち手伝えばよかった・・・じゃなかったらこんな残念な事にならなかったのに」

さん・・・気持ちはわかりますけどね・・・」


の呟きを聞きながら銀時達のフォローをしようと必死に言葉を探す新八だが、残念ながら同じ事を考えてしまったためフォローのしようが無い。
お妙はそんな二人の様子も気にせず、さっちゃんの作った雪像を見て、いまだアームストロング砲の話題が出てくる。
おかげでアームストロング砲の謎は深まるばかりだった。
結局ここまで引っ張られたアームストロング砲が如何なるものなのか、それを聞きたい二人を余所にお妙は作った雪像を見ていってくれと誘ってきた。
投げ飛ばされた銀時も起きた所で、腕を引っ張って案内されるままに行けば、そこにあったのはあまりにも凄すぎる雪像。
雪像と言うよりも一種の建物に近い。
開いた口が塞がらないとはまさにこの事である。他と比べ物にならない規模。大きさ。細部までの細工など、あげたらキリが無い。
皆は何を作ったのかと問い掛けてきたが、それに答えられるわけもなく、口の中でもごもごとするばかりだ。
言えるわけが無い。あんなものただの猥褻物だ。ここへきて漸く、銀時と神楽が自分たちが作っていた物を、ソレであると認めた。
そう思わせるほどにお妙達の作品は凄いものだったのだ。もうこれは、グランプリ確実だろう。
それに比べ自分たちはどうだ。グランプリどころか、参加賞すらもらえるかどうかも分からない。ここは恥をかく前に帰ってしまおうと思った時である。


「きゃああ!! 何アレ!? 雪像に変なモノが!」

「!!」

「フハハハハハ、なーにがグランプリだァ!! そんなもんなァ、雪像壊しちまえば元も子もなくなっちまうんだよ!」


長谷川のまさかの暴動だった。どうやら銀時に雪像を壊されてやけくそになってしまったらしい。
雪で作った大量の雪玉の変わりであるソレを、お妙達の作品へと容赦なく投げつけていく。
発端を作ってしまっただろう自分たちが止めるべきなのだろうが、あまりの事に呆然とするしかできない。
次いで現れたのは大きな木槌を持った桂。雪像についている滑り台を破壊していく姿は、すっかり荒んでしまっている。
二人の暴動をきっかけに周りも煽られるようにして喧嘩が始まってしまった。これは巻きこまれる前に本当に帰ってしまった方が良いかもしれない。
が銀時の腕を引っ張りながら万事屋へ帰ろうと言い出したとき、一際大きな音が聞こえた。
どうやらお妙がキレて雪像を投げつけたらしいが、その際に叫んだ言葉に銀時が反応して足を止める。
グランプリはハーゲンダッツ百個だという言葉は、流石のも耳を疑った。どうやらまたお登勢の口車に乗せられたらしい。
こうなればもう、本当にあと残された道は帰るだけだ。しかし肝心の銀時がまったく動く様子が無い。


「・・・・・・・・・ハーゲンダッツ」

「ぎ、銀さん? ねぇ銀さん、ちょ、か、帰りましょうよ。ねえ」

「グランプリ? ・・・ハーゲンダッツ?」

「あの、聞いてます? オーイ、銀さーん?」

「オイオイオイ冗談だろ。こっちはお前、賞金がたんまり出るっつーから寒い中あくせく働いてたっつーのに」


だから誰もそんな誇張しては言っていないというのに。
の声などまったく届いていない銀時を見て、掴んでいた腕を放すとまるで解放された獣の如く、神楽と共に走り出した。
喧嘩の渦中へと身を投じると、そのまま敵味方も無しに暴動と言うよりもただの雪合戦大会状態になってしまった。
途中、飛んできた雪玉というよりも雪の塊に近い、流れ弾にあたり倒れた新八はそのまま体の半分が雪に埋もれてしまう。
立ち上がる気力も無くそのままでいれば、横にきたお登勢が暢気に煙草を吹かした。


「お・・・お登勢さん・・・こ・・・これって・・・みんな何やってたんでしたっけ。ゆ・・・雪合戦大会とかでしたっけ?」

「んにゃ、祭りだよ」

「お祭もいいですけれど・・・これ、収拾つくんですか?」


の素朴な疑問だったが、ほとぼりが冷めれば自然と人も引いていくだろう、とお登勢は流石の落ち着きをはらっている。
倒れた新八を助け起こしてお登勢の隣へ座れば、どこからとも無く飛んできた雪玉が顔に当たった。
こうなれば自棄である。そもそも楽しみだった祭りだ。参加しなければ意味が無い。足元の雪で雪玉を作るとは立ち上がった。


「ちょっと、私も行ってきますね。新八君は?」

「いや、僕はいいです・・・。生きて戻ってこれそうに無いので」

「じゃあ、ちょっと行ってくるね」


そう言ってその場から振りかぶって投げた雪玉は真っ直ぐ飛んでいき、見知らぬ人の顔面へと見事ヒットした。





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