前へ進め、お前にはその足がある
>乗り越えろ -act10-
廃屋での攻防とほぼ同時刻。雑木林を少し進んだ所で銀時達は浪士達に囲まれていた。
どうやら善次郎の仲間だと思われていることは、誰かが口にした言葉ではっきりと判ったがとんだ勘違いだ。
それを訂正しても無駄だとわかっているが一応違うと言っても、もちろん聞く耳も持たない。
こうしている間にもお菊達が危険な目にあっていると思えばグズグズしているわけにも行かないと、銀時は木刀を引き抜くと構えた。
やり合う意思を見せた事で、浪士達も刀を抜き構えるとジリッと少しだけ地面を強く踏み込んだ。
「銀さん、ここは僕らで防ぎますから先に行って下さい」
「そうアル。こんな所で足止めされてる場合じゃないネ」
「・・・わかった。おい、行くぞ」
「はい」
浪士達の中心へ向かって走り出した銀時。離れぬようにと手を掴まれたも走れば浪士は素早くそれを止めようと斬りかかってくる。
神楽と新八がそれを防いだ事で一気に走りぬけようとしたが、突然尋常では無い殺気が立ち込めた。
咄嗟の動きでを突き飛ばすと二人の間に振り下ろされた容赦無い一撃。流れるようにそれは倒れそうになっているへ向けられる。
浪士を数人突き飛ばした神楽が飛び出し傘で男の一撃防ぐと、背後から別の浪士が斬りかかってきた。
倒れたが手元に落ちていた棒を拾い浪士の顔へと投げつけ、怯んだところで横を駆け抜けた。
と神楽が入れ替わる形となり、間に立ち塞がる浪士達のせいで二分されてしまう。斬りかかって来た男は微かに笑みを浮かべる。
その顔には見覚えがあった。徐々に記憶は薄れていっているが、まだその記憶は残っていた。
以前、路地裏で浪士達の密談に出くわした際、山と呼ばれていた男だ。
だがおかしい。あの時確かに原田と土方の手によって捕まったはずだ。その男が何故目の前にいるのか。の疑問は尽きない。
周りに立つ浪士達へ善次郎の元へ向かえと一言発すれば、それに従い雑木林の奥へと向かった。
浪士達を束ねる、もしくはそれに近しい地位なのだろう事はそれだけで推測できる。
追うにしても山は新八との行く手を遮るかのように立つ為に行くことができない。だからと言っていつまでもここで留まっているわけにも行かない。
「・・・銀さん、行って下さい」
「このままじゃ、ここに来た意味がありませんから。それに私たちなら大丈夫です」
二人の言葉に強い意思を感じ取った銀時は神楽と共に走り出す。
追う様子もない山は次第に小さくなっていく銀時達の背を見ているだけだった。逆にその落ち着きが不気味である。
やがてその背も見えなくなった頃に漸く、山はこちらに振り向いた。
新八は少し強く睨み据えるようにして見ると、木刀の握りの感触を確かめるように一度、手に力を込める。
「・・・何故、あなたがここに居るんですか?」
「ん? ・・・ああアンタ、あの時の娘か。なんだ、桂の仲間じゃなかったのか」
「さん、この男を知ってるんですか」
「前に一度」
ここで多くを語る暇は無いと、その一言だけ言えば新八は納得した顔を見せる。
の問いに答える気はないのかと思われたが、そうではなかったらしい。
気絶したフリをして機を窺っていれば土方の姿が見えなくなった。その隙をつき逃げ出したのだと、わかりやすく答えた。
捉えどころのない男である。しかし達をこの先に行かせる気は無いようで隙がまったく見えない。
新八が一歩前に出れば山も刀を握りなおして構えた。
「坊主、この俺とやりあおうってのか。まさか勝てる気でいるのか?」
「僕らはお前に勝つ為にここに留まったんじゃない。足止めするために留まったんだ」
「ハッ、言ってくれるね。じゃあ、やってみな!」
新八とが山と対峙している頃、浪士達を追って走る銀時たちは廃屋へとたどり着いていた。
廃屋の裏手に集まった浪士はまるで円を描くように立ち、誰もが刀を構え警戒しているようだった。
円の中心には刀を構える善次郎と、その背後に護られるようにして立つお菊の姿。
一人が善次郎へ斬りかかるがそれを防ぎ鍔迫り合いの後、刀を弾き仰け反った相手のがら空きの腹を狙い定め刀を横薙ぐ。
しかしけして全快では無い善次郎の体では、一人の攻撃を防ぐだけでも息が上がる。それもお菊を護りながらでは負担は大きい。
隙を見せる瞬間を狙っているのか、周りの浪士達は間合いを取りつつ様子を窺っている。
浪士達は善次郎へ神経を集中させていた。故に、背後からの突然の攻撃に対応し切れなかった。
「ぐっ!!」
「どうしっ、グアッ!!」
仲間の異変に背後へ振り返れば木刀を構えた銀時と神楽の姿。やはり善次郎の仲間だったかと言われた事へ、何も返さず銀時は前に出た。
かまわず殺してしまえと、誰かの声を合図に一斉に斬りかかる。しかし銀時の元へたどり着く前に神楽が数人を傘で薙ぎ飛ばした。
反撃に逆上した数人が背後から銀時へと襲い掛かった。素早く体を反転させ攻撃を防ぎ弾いたところで木刀を叩きつければ、短い呻き声と共に意識を失う。
次々なぎ倒されていく仲間の姿に、平静で居た者達も次第に焦りを見せ始める。
一人が善次郎へ斬りかかりそれを刀で防ぐが、とうとう膝が折れてしまった。
負った傷に痛みが走る。歯を食いしばって耐えるが、異変は相手にも気付かれてしまった。
交わらせていた刀を弾き仰け反った善次郎へ、容赦のない蹴りが入る。倒れた善次郎へ、刀を振りかざす。
思わず駆け寄ろうとしてしまったお菊を、別の浪士が狙い定め斬りかかる。気付いた時には、思わず目を瞑ってしまった。
「っ!! ・・・・・・ぇ?」
いつまでもこない衝撃に薄く目を開けてみれば、襲い掛かって来た浪士は足元に倒れ目の前には神楽が立っていた。
それだけを見れば神楽が浪士を倒したのだろうと理解できる。しかし安心する間もなく善次郎の方へと振り返れば、浪士は刀を翳した体制のまま固まっていた。
背後から首元に据えられた銀時の木刀はけして刃がついているわけでもない。気迫か、別のものか。なにかが浪士の動きを止めている。
周りの倒れた仲間の姿に、今回の策は失敗に終わり目的は達成できない事を悟ってはいる。だからと言ってここで大人しく身を引けるものでもない。
「もうテメェで終ェだ。諦めろ」
「・・・ふっ、馬鹿な事を。このような事で屈するわけがあるまい!!」
「そうかい」
言葉を発すると同時に体を反転させ銀時目掛け刀を振り上げた。
それが振り下ろされる事はなく、重い一撃を相手へ打ち込めば刀は手から落ち、少し遅れて浪士が倒れる。
重い音のあとに訪れたのは静寂。浪士の襲撃はそれによって終わりを告げた。
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