前へ進め、お前にはそのがある

>乗り越えろ -act06-







突然銀時達の目の前に現れたのはに時計を渡した男だった。
微笑みを浮かべる男の顔は会うたびに顔を隠すよう被っていたシルクハットが無いため、逆光の中でもはっきりと認識できる。
驚き目を見開いて見据えるの体は強張り、新八と神楽は警戒を露わにした。
三人の様子の変化に銀時は男が何者であるか気付けば僅かに睨み据えるよう、男を真っ直ぐ視線で射抜く。



「テメェか? うちのに舐めた真似してくれたのはよォ」

「貴方は・・・・」



一歩前に出た銀時を見た男はほんの一瞬だけ驚いたような顔をするがそれもすぐに消え去り笑みを浮かべれば
纏う気配に微かな敵意を含ませ、男の癖なのか手元でステッキを弄ぶように回し始めた。



「あの銀白色は貴方でしたか・・・」

「何の事だ? 俺ァ、テメーなんぞと会った事は無ェはずだ」

「ええ、直にお会いするのは私も初めてです。ですが、その色は良く知っています」

「そりゃどういう意 」



それは突然の事だった。
銀時の言葉も途中で途切れ忽然との目の前から三人の姿が消えてしまった。
強く男を睨み据えていたの目は今までに無いほどに大きく見開くと、男をただ見つめる事しかできない。
あまりにも不可解な出来事に、一層男の不気味さが増す。
息をつめ立ち尽くすの目の前まで来れば男は紳士のように恭しく礼をした。



「改めまして、私は雨月と申します」



名乗りはしたがそれで正体がわかるわけも無いが、にとって雨月の正体がなんであろうと関係なかった。
今は消えてしまった銀時たちの行方が知りたいは、原因は深く考えずとも雨月にあるだろうと聞こうとするが
緊張によって生じた喉の渇きが言葉を喉元で突っ返させて上手く言葉が出ない。
銀時たちは何処へ行ったのかと、漸く出た言葉は自分でも驚くほどに掠れていた。



「彼らの事はご心配無く。それよりも、あなたにお伝えしなければならない事があります」












ほんの瞬き程度の暗転。次いで体に走った軽い衝撃。
強かに打ちつけた場所を擦りながら起き上がった銀時は驚愕するよりも、呆けてしまった。
先ほどまで暗い夜道のど真ん中にいたと言うのに、目の前には見慣れた「糖分」とかかれた額の文字。
後ろで痛みに顔をしかめて起き上がった新八と神楽も、ただ驚いて声を失うばかり。



「あの野郎、どんな手品使いやがったんだ・・・?」

「銀ちゃん、が居ないアル!」

「きっとさっきの場所ですよ!」



今はグダグダ考えている暇は無いと、戻る為バイクのキーを掴んで外に出てエンジンをかける。
後ろに新八を乗せてすぐに走り出せば、やや遅れて神楽が定春の背に跨り追ってきた。
見慣れて賑やかな繁華街を抜ければ途端、静かな住宅街へと入りその静寂を切り裂くようなエンジン音と
走り抜ける速さでどれほどのスピードを出しているのかが伺える。
万事屋から多少の距離はあるがバイクと定春の足でならすぐだ。暫く走りつづけていれば、暗い道の真ん中にの背中が見えた。
地面に座り込み呆然とした様子の。雨月の姿は見えない。
耳障りなブレーキの音を立てて止まりすぐにへ駆け寄っていくが、その目はどこか焦点があっていなかった。



「おい、!」

「・・・ぎ・・・さ・・・・」



震える唇から微かに銀時の名を呼んで反応を示すが、それ以上なにも言葉が出なかった。
尋常では無い様子に沈黙が落ちる。
その中、ただ静かに聞こえるのはの掌の上で細い音を立てて砂が下から上へと流れる奇妙な砂時計の音だけだった。





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