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前へ進め、お前にはそのがある

>乗り越えろ -act05-







「どうもごちそうさまでした。なんかすいません・・・」

「たまには大勢で食べるのも楽しくていいからかまわんよ、それでお菊お嬢様について聞きたい事ってのはなんだい」



食後のお茶を差し出しながら聞くその言葉に何ら濁りは無い。
それならばと、銀時が単刀直入に今どこで何をしているのかと問えば、静かに目を閉じフッと短く息をついた。
お菊がどこにいるのか、何をしているのか。それを話すには少々時間が掛かるとお茶を啜る。



「まずは、先妻お里様が亡くなられたところから話さなきゃならないねェ」



お里は弥三郎と同じ病院で働いていた医師だった。
結婚後も仕事は続けており、亡くなったその日も往診に出ていたお里は帰りの際、路地裏で隠れるようにしてうずくまる浪人を見つけ
駆け寄れば浪人は見るからに酷い傷を負っていた。
それも応急処置をしてすぐにでも治療を施せば助かる傷であると知り、お里は迷わず処置を施す。
だがその背後に浪人に傷を負わせ、トドメを刺さんと追ってきていた男がいる事にお里は気付かない。

今、瀕死の状態の敵を手当てするものが目の前に居たらどうするだろうか。その人物を何だと思うだろうか。
男はお里を浪人の仲間と思ったのだろう。
浪人の息の根を止め、留まらぬ殺意を纏った切っ先はお里にも向けられた。

後の調べで判ったことは、その男と傷を負った浪人は攘夷浪士だった。
しかしお里はたとえ真実を知っていたとしても、傷の手当てをやめはしなかっただろう。そう言う人物だった事はお里を慕う者は誰もが知っていた。
二人の浪士は今で言えば桂一派と高杉一派のように、指示する者や思想の違いなどで相成れない存在だったようだ。
だが弥三郎にはそんな事実は関係ない。ただ、湧き上がる物は攘夷浪士への憎しみだけ。
妻を亡くし、嘆き悲しむ父の姿を見たお菊は同じように悲しんだが、それでも最後まで医師として生きていたお里を誇りに思うと
遺影を見つめながらトメに漏らしたと言う。

それから、お菊は医師を目指し日々勉強をして様々な事を学んだ。
自分もお里のように強く優しい医師でありたい。そう強く望んでいたお菊が、ある日突然、怪我を負った男をこの家に連れてきた。
怪我を見れば一目で刀傷とわかるもので、トメはその男がただの浪人というにはあまりにも異様な姿だった事を覚えている。
お菊は手当てをしたいと言うが、別宅とはいえ本邸の目がこちらに向かないともいいきれない。
この先にある雑木林の中、撃ち捨てられた廃屋がある事をトメは知っていた。そこならば或いは見つからずにすむかも知れない。
絶対とは言い切れ無いがそれでもここに居るよりまだいいだろうと教えれば、お菊は男をつれその廃屋へと向かった。

男の正体ははっきりとはわからない。お菊も詮索するつもりは無いようで、ただ傷の手当てをしたいと言う一心だった。
負った傷から予想するに、攘夷浪士だろうという答えは拭いきれない。加えて言えば帯刀していた。
たとえそうでなくとも攘夷浪士かもしれない男を治療していると知られれば、弥三郎はどう思うだろう。
もしかすればお里と同じ事が繰り返されるかもしれない。妻の次は娘を、同じように失うかもしれない。
そう考えれば弥三郎がとる行動など目に見えている。それならば黙ったままの方が良いだろうと、何も告げていなかった。



「じゃあ、お菊さんはその人と今も?」

「まあ、あの怪我だし私も長い事医者の家に仕えているせいか、むげにもできないと思ってねぇ」

「・・・で、バーサン。この通帳は何の真似だ?」



トメはタンスから通帳を取り出すと銀時たちの目の前に差し出し、改めて座りなおした。
テーブルの上に置かれたそれを誰の手にとらず見つめていると、突然トメが頭を下げ出す。
name0と新八が慌ててそれを止めようとしたが、それより先にトメの「お嬢様をお願いします」と言う声が静かに響いた。
暫しの間流れた沈黙。銀時は溜息を零して何も受取らずに立ち上がると濡れ縁へと出てしまった。



「銀ちゃん?」

「ったくよぉ、ババアの味付けって奴はどうしてこうも薄かったりしょっぱかったりなんだろうな」

「ちょ、ご馳走になってその言い草!?」

「その上独り言も長ェし、デケーし。やってらんねーぜ。オメーら、もう行くぞ」



言いながらさっさと門へ向かってしまった銀時を目で追えば、三人は苦笑を浮かばせた。
どこまでも素直じゃない人だと、わかりきっている事を思えば溜息もではしない。
差し出されていた通帳をそっとトメの方へ返し、「お菊さんの事は心配しないで下さい」と言う新八の言葉と共に立ち上がった。
元々、お菊の動向を探って欲しいと言う依頼だったのだ。今更の願いである。



「ババアはバアアらしく漬物でも漬けておくネ。次はたくあんが食べたいアル」

「か、神楽ちゃん、それ図々しいから! すいませんトメさん・・・」

「・・・まったく、言いたい放題だねアンタらは。まあいいさ、次来た時にでも出してやるよ」



そこで門前から銀時の呼ぶ声に三人はもう一度挨拶をすると門へ向かい、外へ出た。
夜も更け、薄雲はすっかり晴れて月がその顔をのぞかせている。
お菊の居る場所はトメから聞き、まだ暫くはお菊はそこに居るだろう。一先ず今日の所は帰り、明日そこへ向かう事にした。



「こんばんわ。いい月夜ですね」



万事屋へ帰ろうとした四人の前に突然、江戸の町では不釣合いなスーツを着こなした男が現れた。
薄く張り付いたような微笑みに、name0の体が強張る。





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