前へ進め、お前にはそのがある

>乗り越えろ -act04-







が思わず名を呼べば驚いたお菊はまさに脱兎の如く走り逃げてしまう。
慌てて追いかける銀時達だが、周りは塀ばかりで隠れる場所も無い。複雑に入り組んでいるわけでもなく、見失う事も無いだろう。
お菊の進行方向には突き当たりがある。追い詰めたと思っただが、お菊は見た目とは裏腹に身軽な動きで塀によじ登ると
目の前の住宅の敷地内に入ってしまった。



「なっ! ちょ、えぇ!?」

「おいおい、見た目の大人しさとは裏腹に随分なお転婆じゃねーか」



門を探している暇などありはしない。四人はお菊同様、塀をよじ登って中へと入りこむ。
すぐにお菊の姿を探すがそこから見える場所にはいなかった。ここもどうやら別荘のようで、他に人の気配は感じられない。
くまなく探すしか無いと四人それぞれがバラバラになり探し始めたがやはり見つからない。
庭らしき場所でせっかく見つけたというのに見失ってしまって、これからどうしたらいいかと相談し始めた時
神楽が濡れ縁へ上がり目の前の部屋に入ってしまう。



「銀ちゃん、これ!」

「あ? なんだ、写真立てじゃねぇか」



部屋の奥においてあった写真立てを見つけた神楽。
薄雲に覆われた月明かりの下で、朧気に見えたのはどうやらこの別荘の持ち主だろう家族四人の姿。
両親と思える大人の男女と、子供だろうやはり小さい男女が二人。
少しだけ月に掛かった雲が晴れたところで、微かに見えた写真の人物の顔に銀時は何かに気付き、同時に違和感を感じた。
しかし突然、目の前を何かが横切る気配と風を切る音で違和感の正体を掴む前に意識をそちらへ向けてしまう。




「曲者ォォォォ!!!」




声と共に現れたのは薙刀を携えた老婆が一人。鉢巻とたすき掛けという出で立ちで、持つ薙刀を振り回す。
その老婆が投げたのであろう、先ほどの音の正体は庭に突き刺さったもう一本の薙刀。
深々と刺さったそれを見れば老婆の本気がよくわかる。
どうやら銀時達を泥棒と勘違いしているらしく、気合の声と共に目をギラつかせて薙刀を構えた。



「おのれ賊め! このトメの目の黒いうちは如何なる悪事も容赦せぬ! いざ!」

「ちょ、 ちょっと待ってください! 勝手に入ったのは謝りますからまずは落ち着いて・・・!」

「問答無用ォォォォ!! キエエエエェェェェ!!!!」

「ギャアアァァァァ!!!!」



身長の倍以上はある薙刀を振りかざしながら襲い掛かって来た老婆、トメは、まるで自分の手足のようにそれを振り回して立ち回る。
このまま四人固まっていては薙刀の餌食になるだけだ。一旦散った方が良いと銀時が言えば四人は四方へと走り出した。
トメは慌てることは無く的を一つに絞り、一番近くにいた銀時へと襲い掛かり薙刀を振り下ろせばそれを木刀で防いだ。
リーチのある薙刀と、小回りの効く小柄な体を活かしたトメの休む間の無いような連撃の隙を狙い間合いをとれば、トメも薙刀を構え直す。
相当のやり手だ。ここは一度引くのが懸命だろう。



「ぎ、銀さんとにかく一旦外に出ましょう! お菊さんを追うのはそのあとで・・・!」

「っ!? お主ら、菊お嬢様と知り合いなのかい?」

「いや、知り合いっつーか・・・」

「僕ら、本条さんに依頼されてお菊さんを追っているんですけど・・・」

「っ・・・・・・そうだったのかい・・・賊じゃなかったんだねぇ」



お菊を「お嬢様」と呼んでいる所から察するに、どうやらトメは本条の使用人のようなものらしい。
そのトメがいるのであれば、ここは本条の別荘なのだろう。
他に人の気配も無く、トメ一人がここにいる事は少しだけ不思議だったがそれはそれぞれの家の事情である。
特に聞く事でもない。


漸く落ち着いたトメは先ほどまでの勢いや気迫が嘘のように身を潜め、失礼をしたと頭まで下げ始めた。
しかしこちらもいくら依頼だったからとは言え、他人の家の敷地に無断で入りこんでしまったのだ。トメばかりが謝る事では無い。
先ほどの騒動でもう、お菊を追う事はできないだろう。だが手がかりが無くなったとも言いきれない。
何か、町では知り得なかった情報を掴めるかもしれないと、一旦はお菊を探す事を止めトメに話しを聞くことにした四人へ
今お茶を用意すると言うトメの言葉を遮るかのように鳴り響いたのは四人の腹の虫だった。





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