前へ進め、お前にはそのがある

>乗り越えろ -act03-







達は通された客間で依頼人を待っていた。
門前から既に豪邸と言う名に恥じぬほどの大きい屋敷は、どうやら名のある医者の家のようだ。
表札に彫られていた「本条」という名を見て、新八が医者としてはかなり有名だと言っていた。
待っている間、手持ち無沙汰なが部屋を見渡せば触れることすら恐ろしいような値段だろう、見事な調度品がさり気に飾られている。
出されたお茶も飲み干し、お茶請けなどはもう最初に無くなってしまった。
本格的に暇を持て余し始めた頃、漸く離れた所からこちらにパタパタと、小走り気味な足音が聞こえてフッと息を漏らす。
お待たせしましたと、穏かな顔つきの男が一人中へと入ると正面へと座る。どうやらこの家の主人らしい。



「こちらからおよびたて申し上げましたのにお待たせして申し訳ありません。私、本条弥三郎と申します」

「どうも、万事屋の坂田です。で、今回の依頼って言うのは?」

「はい、実は娘を探して頂きたく・・・あ、こちらが写真です」



差し出された写真を受取ったのは銀時だが、の所からはちょうど表面が光を反射してよく見えない。
娘はお菊と言うらしい。
ここ五日ほど音信不通で帰ってこないということだった。

最初に家を出た時には友人の家に泊まりに行くと言って出て行ったが、それからまったく連絡もこなければ帰ってくる様子も無い。
おかしいと思った弥三郎が心当たりのある友人宅へと電話をしたところ、どうやらお菊はどの家にも行っていないようだった。
もちろんこういった類は事件に巻き込まれているかもしれない。それならば警察の方が良いのでは、と新八がもっともらしい事を言う。
久しぶりに大きな仕事ではあるが、内容が内容だ。下手をすれば人命に関わる。
だが弥三郎は飽くまで内密に騒ぎ立てずお菊を探したいようで、渋る答えしか返ってこない。



「実は妻は体が弱く、あまり精神的に負担をかけたくはないのです。ですからあまり騒ぎ立てたるわけにも・・・」

「お菊さんが居なくなった事は奥さんには・・・?」

「友人の家に泊まりに行っていると伝えてあります。皆様には娘がどこで何をしているのか、調べて探し出して欲しいのです」



畳に額がつくであろう程に深く頭を下げられては受ける他ない。
結局は写真を預かり普段お菊が行動する場所を聞いてから家を出れば、行動範囲の一番近いところから探す事となった。
改めて写真を受け取り全員で顔を確認すると、が「あ」と間抜けた声を出す。



「どうした?」

「この人・・・昨日うちのお団子買っていった人だ」

「え、そうなんですか!」

「でかしたアル! で、その人どこ行ったネ?」

「いや・・・どこに行ったかまでは・・・」



昨日、まるで逃げるようにして去っていったのは知り合いに見つからない為だったのだろう。
とりあえず自分の笑顔が不審だったわけじゃなかったのかと、は内心胸を撫で下ろした。
先ほど家人の者から聞いた行動範囲よりも蜜月は手前だ。まずはそこから行った方向を見定めて聞き込みをして行った方が早い。
そう判断した銀時達はまずは蜜月へと向かえば店先で竹箒を片手に掃除をしている朔の姿を見つける。
写真を見せ聞いてみたが、接客したのはだった為に朔は知らなかったようだ。
他にも道行く人に聞いて歩くが誰一人、知っていると言う者はいなかった。

日の沈みは早く、気付けば辺りは人口的な光に照らされ始め吹く風もだんだんと冷たくなってきた。
四人はバラバラになって手当たり次第に聞き込みをして行くが、誰もが首を横に振るばかり。
歩き詰めな上に寒さと空腹に次第に疲れが見え始めてきた所で、神楽が何か情報を得たらしい。
話によれば情報提供者は五日ほど前にここから少し離れた住宅街で見かけたらしい。
聞き出した場所へと向かえばそこは閑静な住宅街。それも高級感溢れる佇まいの家ばかりだ。
どうやらここら一帯は金持ちの別荘地と言った所らしい。江戸のど真ん中に別荘とは、また面白い話しである。
ここまできたのならあとはまた聞き込みをしながら徐々に範囲を狭めていけばいいと、やっとゴールが見えたような気がした。
しかしここである一つの問題が生じる。



「人っ子一人いませんね」

「それどころか猫一匹もいないネ」

「おいおい、勘弁してくれよなァ。やっとここまできたってぇのに」

「諦めないで、もう少し歩いてみましょうよ」



住宅街を歩くが、人はおろか神楽の言う通り猫の姿すら見当たらないほど静まり返っている。
大体別荘地とまで言われているほどなのだから、常に人がいるというわけでは無い。聞き込みなど難しいだろう。
だが人が居ないからこそ、身を隠すにはうってつけと言う考えも出来ないわけでは無い。
しかしただでさえ広い住宅街、それも一つの家の敷地はかなり広い。それを一軒ずつ探すのは無理が有り過ぎる。



「もう夜も遅いし、これは明日にでも出直した方がいいかもしれないね」

「銀ちゃん、私お腹すいたヨ」

「そうだなァ。まあ、若い娘が親に内緒で外泊なんてなァ、大抵男だよ、男。そう深く考えることも無ェだろ」

「そのノリで前はとんでもない男に引っかかってたハム子さんも居ましたけどね」

「あれはもう過ぎた事ネ」



日も沈みただでさえ寒いと言うのに、人の気配を殆ど感じない場所にいれば余計に寒さが身に突き刺さる。
やる気もだんだんと無くなってきてしまったのだろう。帰りに屋台でおでんでも食べて、など言いながら来た道を戻ろうとした時
が角を曲がろうとして突然、目の前に飛び出してきた女性とぶつかりそうになった。
お互いに動きを止め謝ろうとしたがは女性の顔を見て驚き、思わず声を上げてしまう。



「お、お菊さん・・・!?」





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