前へ進め、お前にはそのがある

>断ち切れ -act09-







似蔵の拘束から放たれた銀時へと駆け寄る三人。上体を起こした銀時ががいる事に驚いた顔をしたのは当然だろう。
何故ここにいるのかと言葉にはしないが、表情で訴えてくる。



「後でちゃんと話します、今は・・・」



言葉を切り視線を鉄子へ向けた。
抱きかかえられた鉄矢は咳き込むとそれは血を混じらせたもの。
鉄子の呼ぶ声に答えるように薄く目を開ければ、細々と言葉を紡いだ。



「剣以外の、余計なものは捨ててきたつもりだった。人としてよりも刀工として、剣をつくることだけに生きるつもりだった」



―― だが、最後の最後で お前だけは・・・・・・・・・捨てられなんだか




鉄矢の言葉に銀時は余計なものなど無いと否定の言葉をぶつけた。
刀を支えに立ち上がった銀時と、その見据えた先には似蔵が起き上がる。
地鳴りにも似た音を立て歩き出した似蔵はやがて走り出した。



「見とけ。てめーのいう余計なモンがどれだけの力を持ってるか」



荒くなった息を整えながらふらつく足に力を入れ、確りと地につけ似蔵を真っ直ぐ睨み据え刀を構えた。



「てめーの妹が魂こめて打ちこんだ刀の斬れ味。しかとその目ん玉に焼きつけな」






静止の声を上げる鉄子。名を呼ぶ新八と神楽。斬りかかってくる似蔵。刀を横薙ぎに振りぬく銀時。
その全てがまるでスローモーションのように見えた。
銀時の刀は折れ、その先端は回転しやがて地面に突き刺さった。細く短い音を立てたそれに、一瞬は肩を強張らせる。
数瞬の遅れの後、まるで何かが割れるような音と共に似蔵の腕にあった紅桜は砕け散り、似蔵もそのまま崩れ落ちた。
結果は銀時の勝ちであり、鉄子の刀が勝ったのだ。しかし、このやるせない気持ちはなんだと言うのか。

は振り向く事もできず背後で小さく、次第に細くなっていく鉄矢の最後の言葉を聞いていることしかできない。
鉄矢は最後に伝えるべき事は伝えられたのか。そんな事はわかりはしない。泣き崩れる鉄子にかけられる言葉すらなかった。
まるで外の喧騒など夢のような静けさがその場に流れる。
そこに突然、空気が重く揺れる奇妙な音が聞こえ、ビリビリと船体が振るえた。元々崩れ始めている内部。少しの振動ですら亀裂が入った。



「・・・あんまりここに留まってるわけにはいかねーな・・・っ、」

「銀さん!」



元々無理をしてここに来たのだ。多少の揺れで体がふらついた銀時へ、が駆け寄り肩を貸そうとするが重みで痛みが走った。
顔を一瞬しかめた事に気付きどうしたのか問う前に肩の傷に目が行く。傷はそんな深くないと、無理をして笑顔で言うが銀時の顔が微かに曇った。
突然銀時の体がグイッと浮き上がる。鉄子が右肩を支え立ち上がったためだ。



「っ、・・・もう、いいのか?」

「・・・ああ。兄者が残してくれたものを、無駄にするわけにはいかない」



グッと力を入れて前を見据える鉄子は確かな足取りで歩き出す。
銀時にあわせてゆっくりと歩く鉄子の背を見据え、は後ろを振り返ってしまいそうだった。が、それは寸でのところで留まる。
ほんの数秒思案するように目を瞑ると、胸元で手を強く握り駆け足で銀時達の元へ行くと、共に歩き出した。
だが目指した出口はあいにく周りに散乱している瓦礫などで埋めつくされ、とてもではないが通れる状態ではない。
そのすぐ横の薄く崩れている壁を、神楽は躊躇い無く打ち破ると見事に大穴が空いた。
この手段を使っていけばあっと言う間に外に出ることができるとばかりに、遠慮無く穴をあけていく神楽。
次第に出口が近くなってきたのだろう、鬼兵隊であろう攘夷浪士達が銀時達の姿を目にすると容赦なく斬りかかってきた。
新八と神楽がそれに応戦する。今は銀時は動けないのだからともそれに参戦しようとしたところで、グイと袖を引っ張られた。
無言のままに銀時が大人しくしてろと目線で訴えてくる。そもそも肩を怪我しているのというのに、も大概無茶をするものだ。
もう少し自分の状態を顧みろと言われてしまえば大人しくするしかない。



「おーう、邪魔だ、邪魔だァァ!!」

「万事屋銀ちゃんがお通りでェェェェ!!」



外に出た所で攘夷浪士に混じって天人までもが武器を持ち応戦していた。
それは宇宙海賊春雨の者だった。それを銀時達が知るのは一件が落ち着いた後の話であるが。
銀時の姿を見た天人の一人が「あの時の侍」と称し驚愕の表情を浮かべたが、突然上から斬られた天人が降ってくる。
高杉との対話中に襲い掛かって来た天人を斬り捨て、ここまで逃げてきたのだろう桂だった。



「どけ。俺は今、虫の居所が悪いんだ」

「桂さん!!」



皆が背を互いに向け円を描くようにして立てば、周りを取り囲む天人や鬼兵隊の浪士達。
桂の仲間は指示を仰ぐがただ一言、退くと言われた事に驚きの声を発した。
元々の目的は紅桜の殲滅。これ以上の長居は無用だと、助けにきた船へ急げと指示を出す。
もちろん、倒すべき相手が目の前で逃げようとしているのを逃そうとする間抜けなど居はしない。だが斬りかかってきた天人達は銀時と桂の二人に返り討ちにあってしまう。
殿は自分たちがつとめると、刀を構えた二人。もちろん新八達は銀時の事を心配し声を荒げるが、今は言い合っている場合ではない。
エリザベスがまだ何か言おうとしている新八と神楽を両脇に抱えると、逃走用の船へと走っていく。
一瞬の躊躇い。は走り去るエリザベスを見た後、銀時へと一瞥をくれたが今は言葉を紡ぐほんの少しの間すらない。
今ここで自分ができることは邪魔にならぬよう、逃げる事だけだと思えば唇を強く噛み締め、エリザベスを追うようにしても走った。
ちゃんと戻ってきて下さいと強く思いながら。





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