前へ進め、お前にはそのがある

>断ち切れ -act08-







「新八君、神楽ちゃんっ!」

「え、さん・・・ッ!?」



まさかのの存在に驚き振り返った新八だが、その隙をついて武市が上段の構えて斬りかかってきた。
僅かの差でそれに気付いた新八は刀で一撃を防ぎ、暫しの鍔迫り合い。弾いて互いに距離をとるがすぐ、出来た間合いをつめて武市が再び斬りかかる。
はそれを見ているしかできず声すらかけられない。なんと、歯痒いのだろう。噛み締めた唇が慄えた。
けして狙われたりなどして邪魔にならぬよう、壁に背をつけ立っている事しかできない。
そんなを護るように背を向け何度も刀を交える新八の背は、いつもより大きく見えた。



「ふむふむ、道場剣術はひとしきりこなしたようですが、真剣での斬り合いは初めてのようですね。
 それにその人を護りながらで、肩に余計な力が入ってしまっている様子・・・ふるえていらっしゃいますよ」



余裕ある武市の指摘に新八は「酔剣だ」と無理のある切り替えしをした。しかし武市もまた、余裕に見えていた姿とは裏腹に確りとその手は震えていた。
新八とは違うが毛色は同じ言い訳をしようとした武市へ新八の鋭いツッコミがはいる。
そもそも参謀的な立ち位置である自分ではなく、実践はまた子に任せているという武市。
しかし名を呼ばず「猪女」と言ったためにまた子からは怒号が飛んでくる。
一方、また子は二丁拳銃を巧みに使いこなし、神楽へと何発も発砲するがそれを身軽な動きで避けていく。
その過程で神楽は飛び上がる。頭上から狙おうとしたのか、しかし空中で自由のきかない神楽を狙い撃つまた子。神楽の身が空中で仰け反った。
聞こえた銃声と目の前の光景に思わずは声を荒げそうになるが、神楽がそう簡単にやられるわけがないと口を一文字に強く引き結び押さえ込む。
仕留めたと確信したようにニヤリと笑うまた子へまるで嘲るように体勢を戻した神楽は、一発も銃弾は当たってはいなかった。
撃ち込まれた弾丸は一発を咥え、残り二発は指で摘むようにして防がれていた。



「なっ!」

「私を殺ろうなんざ百年早いネ小娘ェェェェ!!」



その時、突然大きな音と共に天井が崩れた。様々な物が流れ込んできて部屋には土埃が上がる。
むせ返る神楽に隙を見出し素早くまた子は逃げて銃を持ち直す。武市と新八は互いに落ちてきた物を避ける事で、身の安全を最優先にした。
周りは暫く舞う埃で薄っすらとしか様子が窺えない。
次第に落下物や埃が落ち着いてきた頃、ようやく天井が崩れた原因である「モノ」の全貌が明らかになる。
それは既に人ならざるものと化してしまっているが、似蔵だった。そして腕とは形容しがたい管の集まりのようなものの先端には気を失った銀時。



「銀さん!!」

「そんなっ、嘘!?」



銀時のあまりの有り様に驚く新八たちだったが、似蔵の背後でまた子達もまた似蔵の姿に驚いている。
しかしもうすでに自我は無いのか、突然似蔵は腕を横に振りぬき武市を殴り飛ばした。
壁に強かに体を打ちつけた武市はそのまま意識を失う。
それを見てまた子は何をするのだと似蔵に声を荒げるが、その声が届いていない事を知るや躊躇い無く引き金を引いた。
撃たれる事もモノともしない似蔵はまた子にも攻撃を仕掛け、武市同様また子も意識を失ってしまう。

頭上から荒げるような声が聞こえた。それは似蔵の全てを飲みこんだ紅桜を作った鉄矢の声だった。
自我を失い紅桜に飲みこまれた似蔵は剣そのものだと、まるで誇らしげに口にする。
にはその言葉の意味がわからない。何故こんな事になっているのかもわからない。
目の前で似蔵の腕に刀を突き立て、銀時を助けようとしている人が誰なのかもわからない。



「鉄子ォォ!!」


「死なせない!! コイツは死なせない! これ以上その剣で、人は死なせない!」



今回は最初からわからない事だらけで、考えることすら億劫になる。
ただ一つだけ、分かる事と言えば。



「でーかーぶーつ、そのモジャモジャを」




銀時を助けるということだけだ。




「離せェェェェェェェ!!」



似蔵を足払いで倒しその隙に新八は似蔵の右腕へ、鉄子と同じように刀を突き立てた。
三人からの攻撃に怒り狂う似蔵は雄叫びをあげながら立ち上がり振り払おうとする。
は足元に落ちている棒を掴むと、立ち上がった似蔵へと駆けより力の限りそれを叩きつける。
振動が肩の傷に響く。歯を食いしばって耐えて、何度も何度も叩きつけた。

やがて似蔵の動きは荒々しくなっていき、とうとう四人は投げ出される。
似蔵の正面に投げ飛ばされた鉄子へ、容赦なくその刀は振り下ろされてしまう。
しかしその刀で斬られたのは鉄子ではなく、咄嗟に鉄子を突き飛ばし庇った鉄矢だった。






「あっ・・・
兄者ァァァ!!



「あぶな・・っ!!」






血を流し倒れる鉄矢を抱きかかえ泣き叫ぶ鉄子へと、似蔵は再び刀を振り下ろそうとした。
刹那。
強く、鈍く光る銀色の一閃がそれを遮った。





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