前へ進め、お前にはその足がある
>Ex..05-02 贈り物
朝のいつもの出勤時間には万事屋を出ようとすれば、新八たちは一言二言と注意を呼びかける。
ここ最近物騒になってきているから仕事が終ったら早く帰って来いだの、何かあったら大声で人を呼べだの。
果ては、知らない人からお菓子を貰うなだのと心配も行き過ぎて、まるで初めてのおつかい状態となっている。
苦笑を漏らしつつ「大丈夫ですよ」と言って外へ出れば、神楽はの姿が見えなくなるまで玄関の前から見送っていた。
が出てからは居間でいつものように仕事の依頼がくるまで各々の時間を過ごすが、口を開けばの事で会話が始まる。
気味の悪い男から渡されたやはり気味の悪い時計。
ローテーションを組んで三人それぞれが時計を持つことになった時計を今日は新八が持っているのだが
いつも気付けばその懐から無くなり、帰って来たが無言のままいつのまにか入っていた時計を取り出して三人へ渡す。
その繰り返しの毎日に、流石に目に見えて笑顔を見せる事が少なくなってきたをもちろん心配しないわけがない。
「最近はさんも少しは自然に笑ってくれるようになりましたね」
「でもやっぱり元気ないアル。前みたいに笑って欲しいヨ。が笑うと、私も楽しいネ。でも悲しそうにしてると私も悲しいアル」
「そうだね。って、なに書いてるの神楽ちゃん?」
以前福引で貰った残念賞の画用紙とマジックのセット。
正直貰った時はただの売れ残りの在庫処分なんじゃないかと思うぐらい使い道が無いと困っていたが、たまに神楽が暇をしている時に何かを描いている。
そのおかげかタンスの肥やしにはならなくて済んだが、今も神楽は机の上にそれを広げマジックで何かを懸命に書いていた。
絵ではなく文字に見えるそれは、一見すれば何だこれはと問う必要もないほどに解りやすいものだった。
「おいおい神楽? 肩叩き券ってお前・・・。今日は母の日か? それともの誕生日か?」
「どっちでもないヨ。でもはマミーみたいなもんネ。これで少しでも元気になって笑ってくれるなら、私いくらだって肩叩いてあげるアル」
「神楽ちゃん・・・。よし、それじゃ僕は大江戸ストアに行ってきますね!」
思い立ったが吉日とばかりに財布を持つと新八は玄関へ行こうとする。
一体なんで今の話しの流れでそうなるのか。
問う銀時へ、自分も何かできることがないか考えた結果らしかった。
「今日確か安売りの日だったんですよ。
ちょうど仕事も入って来た後だし、晩御飯のおかずを一品増やすぐらい、いいじゃないですか」
「お前らなァ・・・揃いも揃ってアイツはお前らの母ちゃんか?」
「似たようなものアル。でも銀ちゃんみたいな息子がいたら流石のもグレるヨ・・・」
「んだとコラァ!!」
神楽の言葉に大人気なく突っかかっていく銀時だが勝てるわけもなく、顎に一発食らって終ってしまう。
痛む顎を擦りながらやっていられるかと立ち上がると、新八の横を通り過ぎて玄関へと向かう。
二人は銀時を特に制止するつもりもないらしく、何故かその表情はニヤニヤと「言わなくてもわかっている」といったような表情。
それに気付くことなくブーツを履いて外に出た銀時は階段を下りると、ちょうど外へ出てきたお登勢とかち合う。
「ああ、ちょうど良かった。ほら、前にアンタに頼まれてた店の場所調べておいたよ。
私からの紹介だっていやァ、ちったァまけてくれるんじゃないんかい?」
「おお、サンキュー」
「それでも着物一着、けっこうすると思うけどね。まあ、若い娘がいつまでも貰いもんの着物ばかりじゃ不憫だものねェ」
「は? 何勘違いしてんだおい。違ェよこりゃァ、仕事だよ仕事。依頼があったんだよ」
勘違いだとばかりに言う銀時だが、対してお登勢は何もかも見透かしているかのような態度を取りつつ
「そりゃ悪かったね」とさして気にしていないような微妙な答えを返した。
溜息とも舌打ちとも取れない微妙な態度を露わにしながら銀時は貰ったメモに一度目を落とし、あらかたの場所を把握したのか歩きだす。
後ろから見つめるお登勢の視線を感じながら、銀時は今度こそ溜息をついた。
「たく、どいつもこいつも考えることは一緒なんだからな・・・」
この後店についた銀時は、一応まけてはくれたものの、それでもかなりの値になる着物一着をまけにまけてもらうのに
口八丁手八丁。果ては一度目の依頼はただで構わないからなどと言った約束までして何とか購入までこぎつけたらしい。
その事はその時になるまで絶対に誰にもばれてはならないと、密かに心に誓った銀時だった。
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