前へ進め、お前にはその足がある
>断ち切れ -act01-
退院してから数日。銀時は源外の所へと来ていた。相変わらず油汚れに塗れながら機械をいじっているが、その憎まれ口も休まる事はない。
互いにバイクの修理代を払えだ、勝手に改造したのだから無効だ。そんな言い合いばかりである。
支払いをしにきたのではないのならばいったい何の用だと、溜息混じりに源外は問う。
「ちぃと見て欲しいもんがあってよォ。
つーか誰が払うかあんな妙な改造施したあげく、爆発までしちまって木っ端微塵だぞ。どーしてくれんだ」
「いいじゃねーか。この際あんなオンボロバイクは捨てて新しいのでも買えば。
だいたいあんなもん、リサイクルにもなりゃしねーよ。塵と化した方がエコでいいじゃねーか」
「俺まで危うく塵と化すところだったわ! だいたい、新しいの買う金もねーよ!
あんな事があったって言うのに慰謝料請求しねーあたり、良心的だと思わね?
ということでこの時計、タダで見てくれ」
「帰れ。金が払えねー奴がなに抜かしてやがる。だいたい何が良心的だ。ただの脅迫じゃねーか」
「脅迫と自分で思う時点でテメーのやった事が如何なる事かわかってんじゃねーか、このクソジジィ」
互いの憎まれ口は収まる事はなく、それから暫くの間も店先で不毛な言い争いは続いた。
言いながらも源外の手は渡された時計の蓋を開けたり、色々と弄くり始めるのはもはや癖の一種だろう。
分解してもいいのかと一応の確認をとって了承を得れば、淡々とした動きで精密ドライバーをまるで自分の指先と同じように器用に使いこなす。
時計特有の細々とした歯車やネジなど、様々な部品が裏蓋の内から姿を覗かせ、小さな秒針の音は少しだけ大きく聞こえる。
マジマジと中を見たり、あれやこれやつついてみたりばらしてみたり。様々な事をしてみたが、とくに問題はなく源外は頭を掻きながら
一体どのあたりがおかしいのかと背後に立つ銀時へ問えばかすかな唸り声が聞こえる。
「あ〜、そうじゃなくてよ、なんつーかこう・・・コイツが原因で気分が悪くなるとかよォ。
なんかそんな事が起こるような妙なもんでも詰まってんじゃねーかと思ったんだけどな」
「なんだそりゃ? パンドラの箱みてーなもんでも探してるってのか?」
からかうような源外の言葉に違うと答えたがそれ以上銀時が反論する事はなく、とにかくもう少し調べてくれと言い残し、背を向けて歩き出した。
最初に文句などを言って時計の代金を支払う気はないという意志を見せていた銀時だが
源外も銀時の性格を把握している為、強く請求するつもりもない。それこそ無駄な努力というものだ。
しかし元々のバイクの修理代はその後の銀時の入院費などで、珍しい万事屋の稼ぎは全て露と消えてしまったせいで結局はもらえていない。
それを考えるとこのまま無料で見てしまうのも癪である。振り返りまだ見える範囲にいる銀時へ呼びかければ、その足が止まり首だけを向けた。
「見てやるついでにこの蓋のひびぐらい、直してやってもいいんだぞ」
「・・・いらねーよ」
修理の一つでもすれば例え一円でもふんだくる理由にはなる。源外の目論見など銀時もすぐに理解した。
源外の手にある時計を一瞥したがすぐにまた背を向け歩きながら、手を軽く振って断る。
銀時の答えに無言のまま、小さくなっていくその背をずっと見ていることなど無く源外はすぐに作業へと移った。
「あ、お帰りなさい銀さん」
「あれ、お前何やってんの?」
帰ってきた銀時はお登勢の店の前でたすき掛けをし片手に箒を持ち、本格的に掃除をしている様子のをみて足を止める。
銀時が源外の所へと言った後、掃除の手伝いをしてくれと子供のお駄賃程度だが一応の依頼として受けたらしい。
切実にお金が欲しい常の万事屋家計を考えれば選り好みしているわけにも行かない。は二つ返事で了承した。
何より大破してしまった銀時のバイクも何とかしなければならないし、仕事の関係上、やはり無いよりあった方が良い。
それをどうにかするにもやはり、コツコツとでも稼いでいかねばならない。
しかしは源外にいまだ元々の修理代が支払われていないと言う事実は知らないが、銀時はきっと言う事は無いだろう。
言えばどうなるか、想像したくないほどに恐ろしいと本人の知らぬ所で銀時は身震いをした。
そんな事は微塵も感じさせず、状況を把握した銀時はさして感心したわけでも、自分から進んでやるという事もなくただやる気の無い返事をしてさっさと階段を上っていく。
玄関先の二人の会話に気付いたのだろう。神楽達が店内から出てくると銀時も手伝えというが、まったくやる気が見られない返事だけが聞こえるばかり。
神楽のマダオという言葉が背中にぶつけられるが、言われている本人はある種自覚症状はあるらしい。まったく気にしていないように見える。
「じゃあこっちは手伝わないで良いんで、定春のお散歩お願いします」
「え、何それ? あいつ俺の言う事全然聞かねーんだよ。コミュニケーション不足だから無理無理」
「だったら今から定春とコミュニケーションをとってきてくださいよ。
それに銀さんは一応万事屋の家主なんですから、従業員だけ働かせて自分はソファで寝転がってジャンプ読みふけるなんて
そんな都合のいい事できるわけ無いじゃないですか。それに働かざるもの食うべからず。晩御飯いらないって言うなら話は別ですけど。
だいたい家計が苦しいって言っているのに、甘味はおろかパチンコだって・・・」
「喜んで散歩に行かせて頂きます!!」
有無を言わせないような一部を強調したの言葉の嵐と添えられた笑顔に、ただ銀時は壊れた首振り人形のように激しく首を縦に振るしかできない。
銀時の返事にお願いしますね、と言ってまた掃除に戻ってしまったの背を、苦虫を噛み潰したような顔をして見つめ
その背に向かって、小さく溜息をつけば新八と神楽がにやにやと笑いながら銀時の顔を階下から見上げている。
どうやらの尻に敷かれているような状況が面白いらしいが、銀時にとっては面白くない。
不機嫌面のまま居間で寝ているであろう定春の所へ行き散歩だと引っ張っていこうとしたが、気持ちよさそうな寝顔を見て腹立たしい気持ちが湧き上がる。
ウサ晴らしも兼ねて軽く叩いたら三倍以上になってそれは返ってきたのは言うまでもない。
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