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前へ進め、お前にはその足がある
>軋む音 -act04-
銀時の見舞いにきたname0達は、病室に入る事はなくその目の前のありえない光景に暫し呆然とした後
神楽が何かを叫びながら走り去り、それを切欠に皆もゾロゾロとその場から居なくなってしまった。
name0達同様に銀時の見舞いにきた長谷川が何とかフォローをいれてみたが、正直今は何を言っても心に突き刺さるだろう。
そう考えるとname0も他の者達同様、何も言う事はなくその場から離れるしかなく待合室の椅子に座って一息つく。
できれば見舞いをしたあと、銀時にも今朝二人に話した事を話そうとしていただけに、すぐに話せない事は不安だった。
不意に自分の胸元へと手を当て、少しでも不安を感じた時に聞こえる音も湧き上がる恐怖なども感じる事が無い事に気付く。
ますますもって、原因があの時計であると思えてきた時、やっと神楽が機嫌を直して戻って来た事で今日の所は帰る事となった。
結局その後銀時は、臓器売買をしている医者に目をつけられ危うく全蔵共々臓器を摘出されそうになったが、さっちゃんによって臓器は無事だった。
ただ、その時の出来事が原因で余計な傷が増えて少々入院の日数は増えてしまったが。
それでも元々回復が早いのか、予定よりも早く退院出来そうだといわれ数週間。とうとう明日が退院の日。
ここ最近仕事の有る無しに拘らず、連日銀時の見舞いに行っていたname0達。
行けば銀時は見舞いはいいから仕事しろと言ってきたり、銀時が寂しがっていると思ってきてやったと言う神楽とそのやり取りはいつもと変わらない。
今朝も神楽が病院へ行こうと言ってきたのに誰一人、異存はなく万事屋を昼前に出た。
明日には帰ってくるのだから良いだろうと出かけ際に会ったお登勢達に言われたが、それを理由に今日だけ行かなければ行かないで
帰ってきて早々ああだこうだと文句を言われてはたまったものではない。妙な所で子供じみた所があるのが難と言えばそうだろう。
しかし連日の見舞いに行く理由は銀時を心配して、というのも嘘ではない。だがその他の理由があるとすればもう一つ。
今だname0は銀時に音の事や時計の事などを話してはいなかった。最初にタイミングをはずしてしまったのが一番の原因である。
その後も何度となく言おうと思っても、銀時は仕事柄、なんだかんだで色々な人脈がある。入院患者の知り合いの知り合い、と言う話の流れで伝い聞いたのだろう。
見舞いの客などがそれなりに来たりもするわけで、結局言うタイミングが中々訪れない。
何より、name0は自分の事だから自分で言いたいと新八たちに前もって言っている為、二人からも漏れ伝うという事はなかった。
今日こそは、と思っていっても結局は長谷川やお登勢、前に仕事の依頼をしてきた者など見舞い客との他愛のない話であっという間に時間は過ぎてしまう。
やはり、今日こそはと、内心思いながら病院へ向かう途中、新八が見舞いの品は何がいいかと聞いてくる。
今更いらないかもしれないが、それでも手ぶらで行けばやはり文句が一言、二言と飛んでくるのは予想に難しくはない。
手軽にりんごを一つかバナナを一房でも買っていけば誤魔化せると、笑顔で答えたname0の事はこの先銀時には言わないでおこうと内心
難く心に決めた新八の決意など知らず、神楽も目の前にあるコンビニでちょうど切らした酢昆布を買ってくると行ってしまった。
往来の真ん中で立ち止まっているのは通行の邪魔になるだろうと、壁にもたれかかるようにして二人を待つname0は突風に驚き目を閉じた。
風はすぐに止み、目を開けたname0の視界の端を何か布のようなものが飛んでいく。目で追えばそれは女性物のハンカチ。
脇道の中に入ってすぐの所に、フワリと落ちていったそれを見たname0は持ち主であろう女性が走ってくるのに気付く。
しかし、いつまた風が吹くかもわからない。ここで自分が拾っておいた方が良いだろうと脇道へ入ろうとしたname0だが、一瞬その足は止まる。
数日前に土方に言われた事を思い出したが、表の道からすぐに見える場所であるし、今は一人だが少しすれば神楽たちも戻ってくる。
そう思えば一度止めた足もすぐに動き出し、落ちたハンカチを拾うと軽く土を払い、落とし主の女性へと手渡せば、深々とお辞儀をしてお礼を言い去っていった。
人込みに消えていくその背を見た後、name0もその場からすぐに離れようとした時。突然背後で何か固く軽いものが当たる、カツンと言う音が聞こえた。
思わず振り返ってしまった瞬間、自分の行動を深く後悔する。
「お久しぶりですね」
「・・・あなたは・・・っ」
name0に時計を預けた何時ぞやの男が、不気味なほど以前と変わらぬ微笑を浮かべて立っていた。
クルクルと手元で弄ぶようにしてステッキを回す男は相変わらず、その目元は見えない。
name0は唇を噛み締め、ただ男を睨み据えることしか出来なかったがそれだけでは意味が無い。
一体何が目的で、何者なのか。それを問うname0の声は恐怖でか、怒りか。自分でも驚くほどに震えていた。
だが男はその問いに答える事はなくより一層笑みを深くするばかり。
もう一度、同じ問いをしようと口を開いたname0は、言葉を発する事はなく息を飲む事しか出来ない。
不意に聞えた、最近聞くようになり、二度と聞きたくはなかった音が響いた気がした。
目を見開いて男を見つめるname0だが、その視点は揺れるばかりで合ってはいない。
name0の怯えた様子を楽しげに見ながら男はゆっくりとステッキの先端でname0の胸元を指し示す。
その行動の意味する所を知りたくはなく、できれば知らぬフリをし続けたいと思っていても自然と、その手は懐へと当てられる。
着物越しに感じた硬い感触に、驚き一度手を引っ込めるが自分の目で確かめなければならない。
まさか、そんな事はあるわけがない。
だってアレは引き出しの中に仕舞いっぱなしだ。
そう思いながら懐に手を入れ指先に触れた冷たい硬い感触にまた、動きを止める。
name0の一連の動作をシルクハットのツバの陰で見つめる男の視線は外される事はなく、意を決してソレを掴み取り出した。
「・・・ヒッ!!!」
ソレを何かと認識した瞬間、背中に駆けたのは嫌な気配。感触。
まるで虫が這いずっているかのような嫌悪に塗れた感覚に苛まれ、ソレを地面に投げ捨て大きく後ろへと下がった。
カシャンと音を立て地面に落ちた時計。それを拾う気にもならずただname0は怯えるばかり。
ガチガチと音を立てているのは、言い表せぬ恐怖によって震えぶつかり合う歯の音か。それとも自分の中で響き渡る恐怖や不安を煽る音か。
それすら冷静に判断する事も出来ず立ち尽くす事しか出来ないname0へ、男は一歩、一歩。近づいてくる。
後退る事も出来ずただ投げ捨てた時計から目を逸らす事も出来ず、何故、と繰り返す事しか出来ない。
あと少しでname0の目の前に立とうとした男は、突然足を止める。同時にname0の視界に映ったのは傘の先端を男に向け立つ神楽と
男からname0を護るようにして立つ新八の背中。
「お前、何者ネ」
「それ以上、name0さんに近づかないで下さい」
二人の姿を見やり男はツバを下げると、また後ほど、と一言言い残してその場を去っていった。
男を追う事はせずに新八はすぐにname0へ大丈夫かと気遣ってくる。けして大丈夫なわけでは無いが、動けないわけではない。
何よりこれがいい切欠になるかもしれないと、銀時の所へ早く行こうと促せば神楽が落ちていた時計を壊そうとする。
以前はひび一つ入れる事が出来なかったがコレでやれば一発だと、傘の先端を時計へと向けた。
name0はそれを止め、銀時にも見せた方が良いと恐る恐るではあったがそれを漸く拾いあげると銀時の元へと急いだ。
病室に行けば相変わらずつまらなさそうな、暇そうな顔をしながらベッドの上に座る銀時に安堵の溜息が漏れる。
来て早々、話たい事があると言えば怪訝な顔つきになるが、三人の様子を見て屋上にでも行くかと、ベッドから起き上がればそれ以上何も言葉にしない。
屋上には幸い風が少し強いせいか、他に人が居ない。寒いから手短にしろと憎まれ口を叩くのは、銀時なりの気遣いだろう。
新八と神楽が話そうと口を開いたがそれを制したのはname0。自分から話すつもりらしく、しかし先ほどの状態を考えると二人には躊躇いがあった。
三人をそれぞれ見やった後、銀時はジャンプを買い忘れてたとボヤクと神楽と新八は二人して売店へと買いに行かされてしまう。
意図的にname0と二人きりになった銀時だったが、その方がname0には話しやすいだろうと考えての事。
それは間違いではなかったらしく、ポツリポツリと先ほどの出来事も含め、今まで話すに話せなかった事を全て話せばその時計を見せてみろと手を出してきた。
懐から出した時計を渡せば鎖部分を掴み色んな角度から見るが、見た目は何の変哲もないただの時計にしか見えない。
とりあえず知り合いに見てもらうから預かっておくと、そのまま銀時が懐に入れてしまった。
name0に背を向けて柵にもたれかかると、冷たい風が吹き付けてくる。二人の間に言葉はなく、暫くの間沈黙が流れた。
「name0、オメーは護られてばっかりってのは嫌かもしんねーけどよォ」
そこまで言ってその先をなかなか言わない。
言い辛いのか、言い難いのか。どちらにしても途中で止められることほど気持ちの悪いものはない。
それでもname0が銀時の言葉を急かす事はなかった。
「俺らは、テメーの護るって決めたもんは、最後まで護るから」
確かに、name0は銀時の言う通り、護られてばかりでいる存在ではいたくはない。何か小さな事でもいい。name0も護る側に立っていたい。
そう思う事は簡単だが、実行するのは至極難しい事である。
ただ、護ってくれる存在がいる。護りたいと思う相手がいる。それは一人きりではないという確かな証拠。
だからこそ、苦しい事を一人で抱え込むなとそう言いたいのではないだろうか。
name0の憶測でしか無いが、銀時が聞いて本心を話してくれるわけもない事はわかっている。今は自ら導き出した答えだけで十分だった。
「大丈夫ですよ・・・私には、帰る場所があります。おかえりって言ってくれる、皆がいます。
ちゃんと、分かってますから・・・」
「なら、いいけどよ」
照れくさいのかなんなのか、先ほどから銀時はname0に背を向けたまま顔を向ける事はせず、頭を掻く仕草をする。
久しぶりに真面目くさった事を言って疲れたから、何かピンク色の甘い物を口にしたいと遠回しに、いちご牛乳を請求してきた。
病院へくるまでの緊張感や不安など全て嘘のように払拭されてしまったname0は、本来なら入院中ぐらい甘味は控えて欲しいと思いながらも
つくづく銀時には甘いものだと、他の者が聞いたら「それはない」とツッコミを入れられるような事を思いながら、今回だけだと言いつつドアへと手を掛けた。
「おいname0、ストローはつけてもらうんじゃねーよ? アレはな、がぶ飲みが一番美味いんだからよー」
「じゃあワサビつけてもらいますね。三つぐらい」
「あれ? ナニソレ、嫌がらせ?」
「愛情の裏返しです」
「そんな痛い愛情の裏返しいらないから。銀さん泣いちゃうから」
銀時の最後の言葉に笑いながら行って来ます、と返して扉を閉めたname0は扉に背を預けて立ち尽くした。
先ほどの銀時の言葉を一つひとつを思い出しながら、それを噛み締めるように一歩、一歩。歩き出し、静かに階段を下りていった。
閉じられた扉を暫く見つめていた銀時は、ふと空を仰げば時折強く吹く風で流れの速い雲を暫し、目で追っていく。
時計を懐から出せば、微かに揺れた鎖が細い音を立てる。
「随分と、舐めた真似してくれるじゃねーか」
強く握り締められた時計は小さく音を立て、鈍く光るその表面にはひびが入っていた。
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