前へ進め、お前にはその足がある
>家族 -act08-
「おやおや、こんな所までついてくるなんてお節介な人達だ。
私事ゆえ、これ以上はお手伝いいらぬと申したはずですが?」
「心配いりませんよ。僕らも私事できてるもんで」
長谷川の誤魔化しもきかず、似蔵の攻撃を避ける為に賀兵衛達の居る部屋へと入ってしまった達。
周りを取り囲む浪人たちは皆一様に刀を抜こうとしていた。
そこで神楽が取り出した砂糖に見せかけた煙幕によって視界を悪くし、賀兵衛たちが途惑っている間にそれぞれが素早く動く。
新八とで女性の縄を解き助け、格子窓を突き破り屋根へと逃れたがそれも似蔵には読まれた行動だったのだろうか。
すぐに見つかってしまい多くの浪人に追いかけられながらも、屋根を必死に走り逃げていた。
「俺は決めた! 今日でタバコとお前らとのつき合いを止める!!」
「あれ!? 神楽ちゃんは!? 神楽ちゃんがいない!!」
「新八君、あそこ!!」
「ぬごををを!!」
屋根の上にある機械部分の一部を抱え、力の限りそれを引きちぎる神楽だったがその後の行動は考える必要の無いほどに判りきったもの。
少し周りが見えていないのかなんなのか、まだ達がいるにも関わらずそれを浪人へ向けて投げ飛ばす。
間一髪それを避け後ろを見れば慌てて逃げる浪人たち。その中、一人動じず静かに佇んでいたのは似蔵だった。
目に見えぬほどの速さで刀を抜いたのだろう。神楽の投げたそれを真っ二つに切り捨ててしまった。
「なっ・・・!!」
「う、うそ・・・!?」
「んなバカな! 化け物かアイツ!?」
あまりの事に驚きとにかく逃げるしかないと再び走り始めたが、新八と長谷川は足をつまづかせて屋根を転げ落ちていってしまう。
は慌てて追っていくが足を縺れさせ同じように転げ落ちてしまった。
高層ビルと同じような高さのそこから落ちれば即死だろう。必至に手を伸ばしギリギリの所で屋根の端に捕まることが出来た。
隣を見れば一緒に逃げていた女性と神楽も屋根につかまり、追ってきた浪人はたちが突然姿を消したと思ったらしい。
他の場所を探す為に去って行く声が聞こえ、次第に足音も遠ざかっていく。
下を見れば別の屋根があり新八と長谷川はそこに落ちていた為、まさに九死に一生の状況。
ホッと息をつき下の屋根へと下りるとそこで漸く女性がずっと抱いていた疑問を投げかけてきた。
「あの・・・あなた達、一体誰なんですか? なんで私のこと・・・」
「あなたですよね? 僕らのウチの前に赤ん坊を置いていったのって」
新八の言葉で何者であるかすぐにわかったのだろう。
女性を安心させるように新八が勘七朗は保護していると言えば、無事であることがわかって嬉しいのか新八へと掴みかかってきた。
賀兵衛の言葉や女性の行動。その全てを繋ぎ合わせれば勘七朗の母親である事は明白である。
万事屋の前に勘七朗を置いていったことや、賀兵衛の異常なまでの行動。
その全てを知るには女性から話を聞く必要があった。
「なにがあったか教えてくれますか? それくらい、聞く権利ありますよね? 僕らにも」
女性はお房。勘七朗の母親である。
まだ十六の時に賀兵衛の屋敷に奉公にあがり、賀兵衛の息子である勘太郎の世話役として働いていた。
勘太郎は幼い頃から体が弱かった。お房はその世話をしていくにつれ勘太郎の心に惹かれ、やがて共に屋敷を抜け出て共に暮らすようになる。
賀兵衛が漸く居場所を突き止めた頃には勘太郎の体は衰弱していた。
お房の静止の声も虚しく勘太郎を屋敷へと連れ帰る賀兵衛だったが、その時勘七朗を身篭っている事が知れてしまう。
その時は無情にただ一言、堕ろせと言い残し去って行き、お房はその後一目も勘太郎と会うことすら許されなかった。
たった一人の息子であった勘太郎を失った賀兵衛は、橋田屋の後継ぎにと今度は勘七朗へと目をつけて奪いにきたという。
勘七朗を護る為に逃げ、それでも追っ手から逃れきる事も出来ないと、万事屋においていったのが今に繋がるというわけだった。
「・・・あなた達にはすまないことをしたと思っています。私の勝手な都合でこんなことに巻きこんでしまって」
「そんな・・・子供を護る為だったんですから・・・」
「・・・お房ちゃん、アンタ若いのに苦労したんだねェ。しかし賀兵衛って野郎はとんでもねェ下衆野郎らしい。」
「下衆はそこの女だ。私の息子を殺したのはまぎれもなくそこの女」
「!!」
逃げ切ったかと思われた矢先、浪人と賀兵衛が道を塞ぐように立ちお房を睨み立つ。
その口から紡がれる言葉はどれも橋田屋をいかに護り、その為にどれほど汚い事をしてきたかという事ばかりだった。
お房は勘太郎が嫌うほどの店への執着は一体何のためかと問えば、賀兵衛の言葉と共に周りの出入り口は塞がれていく。
「女子供にはわかるまい。男はその生涯をかけて、一つの芸術品をつくる。
成す仕事が芸術品の男もいよう。我が子が芸術品の男もいるだろう。人によってそれは千差万別。私にとってそれは橋田屋なのだよ。
芸術品を仕上げるためなら、私はいくらでも汚れられる」
背後のエレベーターのボタンを必死になって押す長谷川。
賀兵衛の合図と共に目の前から迫り来るのは抜刀した浪人たち。
この階にエレベーターがついた事を告げる音が背後で小さく響き、周りを取り囲んだ浪人たちは一瞬動きを止める。
目を閉じることなく見ていただったが、何が起こったのか判らなかった。それは事が終わったと思い背を向けた賀兵衛も同じであり
大きな音と共に倒れていく浪人たちに驚き振り返ると、聞きなれたやる気のない声が響いた。
「おーう、社長室はここかィ?」
「なっ! なにィ!?」
「これで面会してくれるよな?」
勘七朗を背負い、りんごを齧りながら現れたのは銀時だった。
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