前へ進め、お前にはそのがある

>家族 -act07-







「ねえ、本当にばれない?」

「大丈夫アル。こう言うのはまず心からなりきるネ。新八なんて生まれた頃から雑用って感じが滲み出てるアル」

「それどういう意味だコラァ! しかもそのお茶どっから持ってきたの!?」


大きな会社ならばセキュリティなども厳しいだろうと思っていただったが、意外と死角はあるものでこうして三人は難なく中へ潜入する事ができ
ちょうどいい所に使用人専用の更衣室があったためその衣装一式を拝借すれば見事に周りの従業員などと溶け込む事が出来た。
新八に至っては先ほど社員の一人から掃除をしておいてくれと頼まれたぐらいだ。
三人はどんどんと先へと進んでいくが、途中は少しだけ心配になりバレないかと二人に聞けば冒頭の神楽の返答。
新八の突っ込みに対しマイペースな神楽は給湯室からだと言いながら、どこか勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
掃除をするフリなどをしながら情報を得る為にどんどんと奥へ進んでいく三人の耳に、聞き覚えのある声が飛び込んできた。
目の前の角からまるで身を隠すかのように壁に背を預けて立ち尽くしているのは長谷川。
どうやら今回はここで使用人として仕事をしているらしい。
声をかけようかとしただったが、それを神楽が制止してそのままコッソリと背後に立つとなにやらボソボソと呟く。
長谷川の心の声を真似ているらしいが、それはどんどんとおかしな方向へと向かっていき、とうとう長谷川に気付かれた。


「お前かァァ! 人の頭ん中に変なナレーション流してた奴は!!
 オイ! なんでこんな所にいるんだ!? 何やってんだてめーら!?」

「家政婦アルネ」

「長谷川さんこそなんでこんな所にいるんですか? また転職ですか?」


呆れた視線を向けながらも新八は知り合いに会えたならちょうどいいと、社内の案内を頼んだ。
このまま右も左もわからずに動き回るより、それが一番手っ取り早い方法である。
お登勢に調べて来いと言われたといいながら、からも是非お願いしますと頼めば渋々ながらも長谷川は了承した。
ただ、案内をしてもらう傍ら一体何を調べにきたのかと聞かれ、今まであった事を掻い摘んで説明をすれば長谷川の驚く声が廊下に響き渡る。
改めて新八たちが何をしにきたのか理解すれば、先ほどまで前方を歩いていた長谷川の足取りは重くなり
やがては後ろを歩き始め必死になって止めようとする。
賀兵衛は浪人を使って勘七朗を探したり、他にも黒い噂が絶えないからというが逆にそれがさらに三人の足を進める言葉となった。


「帰ろう! オジさんと一緒に帰ろう! 酢昆布買ってあげるから!」

「そんな話聞いたら余計に帰れないですよ。やっぱりお登勢さんの言った通りだ。何か裏があるよ、これは」

「その通りネ! 酢昆布ぐらいで釣られる尻軽女と思ったかコノヤロー!」

「もし止まってほしいなら、長谷川さんの通帳の中身全部出して下さい。そしたら考えてあげますよ」

「エエェェェ!! ちゃんってこんな事言う子だったっけ!?」


接客スマイルのとしか会った事が無い長谷川にとって、の素の言葉には驚きを隠せなかった。
隣で神楽は一体いくつ酢昆布をくれるのか言うだけ言ってみろと、いまだ長谷川へ詰め寄っている。
やがて四人がついたのは他とは作りが違う、重厚な扉の部屋。そこに勘七朗を攫ったと言われ賀兵衛に連れて行かれた女性が居るらしい。
扉の格子から新八とが覗けば、柱に縛り付けられた女性が浪人によって水をかけられ勘七朗はどこだと聞いている。
それをやや離れた所で見つめていた賀兵衛は女性へ近づいていった。


「ええ? ひとの息子をたぶらかし死なせたうえ、あまつさえその子をさらうとは。この性悪女が」


「勘七朗をさらったのはあなた達の方でしょう。あの子は私の子です。誰にも渡さない」


新八たちが来るまでの間にも責め苦を受けていたであろう女性は、真っ直ぐと賀兵衛を見つめてはっきりと意思を述べる。
だがその言葉すらも叩き落して賀兵衛は女性の言葉を認めない。
その様子を息を潜めて窺っていた四人だが、聞こえた賀兵衛の言葉には思わす声を上げそうになった。





「勘七朗に母親はいらん」




「・・・っ!」




「お前のような貧しい女が一人で子を育て、幸せにすることができると思っているのか?」




上がりそうになった声を拳を握りしめ耐えると、格子ごしに賀兵衛を強く見つめる。
隣では新八が長谷川へと振り返りこれはもしや、と頭に過ぎった考えを言葉にしようとした。



「オイ」

「!」



突然後ろからかけられたドスの利いたような低い声に驚き振り返れば、十人前後の浪人がそこに立っている。
長谷川が咄嗟に機転をきかせて新入りの使用人を案内している所だと言い、何とかその場を離れようとしたのだが
一人の浪人によって呼び止められてしまう。





「くさいねェ。ねずみくさい、ウソつきスパイの匂いだね」





サングラスをかけ、両目を閉じた男がそう言いながら四人の方へと歩み寄ってくる。
それを息を呑みながら見つめていたが、突然男は立ち止まり持っていた刀を鞘から抜きだした。












「闘り合ってくれるかィ。この人斬り似蔵と」





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