前へ進め、お前にはその足がある
>家族 -act05-
朝食の準備をすると出勤して最初の仕事である二人を起こす新八。
暫くして起きてきた神楽は洗面所へ向かい顔を洗い、今だ現れない銀時は新八に布団をはがされている頃だろう。
いつもと変わらない万事屋の朝。
一通りの朝食を用意し終えたは冷蔵庫を開け、食後に銀時が食べるであろうデザートを出そうとしている。
だがその手は一瞬、動きを止めた。その理由はチラリと視界に映った賞味期限表示。
一般的に言えば万事屋の冷蔵庫の中身は空に近しいものがあるが、物がまったく入っていないわけではない。
他の食品や調味料。前日に作ったおかずの残りが入った皿などに追いやられてしまったそれは、食べられることも手に取られる事もなく
今の今まで冷蔵庫の中でただ虚しく冷えて無駄に賞味期限を切らしてしまった。
一瞬見えたその日付にも流石にまずいかもしれないと思いながら、ずっと封も切らずに冷えていたのだからきっと、たぶん大丈夫だろう。
両極端の考えが行ったり来たりしながら最終的に導き出した答えは、食卓にそっと置かれたデザートの存在で十分過ぎるほどである。
のそんな行動など知らず、皆は暫くの間は普通にご飯を食べていたが途中神楽は朝刊の芸能関係の記事を熱心に読みはじめた。
「オーイオイオイ、アイドルグループ「反侍」のGOEMONできちゃった結婚だってさ」
「神楽ちゃん、新聞は食べ終わってからにしたら?」
神楽の記事を読み上げる声を聞きながら、銀時がデザートに手を伸ばしたのを見て
まるで逃げるかのように空いた食器でも片付けようかとしただったが、銀時の言葉がの動きを止める。
「・・・・・・・・・腐ってんな」
「・・・っ・・・」
「ホント、世の中腐ってますな。
どいつもこいつもやれ同棲だ、できちゃっただ。物事の筋道ってのが揺らいできてますよ」
ビクリと肩を揺らして動揺するだったが、新八は神楽が読み上げた記事に対しての事かと思ったのだろうか。
古きよき日本の美徳はどこにいったのかと呟く新八だが、銀時の腐っているという発言はあくまでその手に持っているデザートに対してだ。
視線も確りとそれへと向けられているにも関わらず、新八も神楽もまったくそちらに取り合わず、今だ先ほどの記事に対しての話題で切り返してくる。
「やっぱり人間っていうのは、自分を律する精神がなくなったら、終わりじゃないですか」
「いや、そーじゃなくてよ。コレ、いつ買ったんだ? 賞味期限切れてんだろ」
「そう! 女達も賞味期限とか気にしすぎネ。自分を安く売っちゃダメアルヨ」
「オイ、いい加減にしろよ。腐ってんだよコレ。誰だ? 出したのコレ」
「・・・」
無言のままは視線を銀時から逸らすが、銀時は神楽のほうを見ていたためその些細な変化に気付かなかったのが幸いだろう。
結局そのデザートは手をつけられずもったいないがゴミ箱行きとなり、文句を口にしながら食後のデザートを求めに外へと出てしまった。
悪い事をしてしまったと内心反省をしていたは、新しいデザートの一つでも買っておこうかと考えながら食器を洗っている。
その時突然、表から銀時の意味のわからない叫びと、お登勢の怒号が聞こえた。
だが三人はいつもの事だと特に外に飛び出すような事もせず、ゴミを出しに外へと出ただったが階段を下りた所でゴミ袋を落としてしまう。
仁王立ちをするお登勢と、倒れている銀時に原因はない。の視線はただ一点へ向けられ、はずされる事は無かった。
「あぶ〜」
「・・・・・・赤ちゃん・・・・・・?」
銀時にまるで瓜二つな赤ん坊だった。
「腐ってる」
「腐ってるね」
新八とお登勢から言われた言葉に、銀時は頬に汗を流しながらも身に覚えが無いと言い張っている。
だがお登勢も新八も銀時の子だと疑っているようだった。
は仲裁に入ろうとも思ってはいたがある意味、疑いようが無いほどに赤ん坊は銀時にそっくりな顔立ちや髪質をしている為
余計な事は言わず傍観の位置に収まりながら話をふられないようにと、少し離れた場所に立っていた。
銀時から赤ん坊を預かり抱き上げた神楽は、周りの大きくなる声を注意しながらもあやしている。
まったく身に覚えの無いことである以上、赤ん坊はその親が万事屋に置いて行ったのだろうから親を探そうといっているが
誰一人、その言葉に頷く者はいなかった。
「天パが責任逃れしようとしてましゅよ〜。諦めの悪いパパでしゅね〜。ねっ? 銀楽」
「やめてくんない! その落語家みたいな名前やめてくんない!」
「いや、なかなか可愛い名前じゃないですか。あ、でも私は銀次がいいな」
「ちょっとちゃんまでやめてくんない! ホント身に覚えなんか毛ほどにも無いんだよ!」
「あ、ヤバイ。ぐずりだした」
神楽の言葉にオムツだお乳だと一時、お登勢の店内は騒然とする。
皆が慌てつつもボケていく中、的確にツッコミを入れながら銀時がミルクか何かあるだろうと言えば、店の奥からお登勢が温めたミルクを持ってくる。
子守りなどの経験があるのか、その動きに無駄は無く赤ん坊にミルクをあげるお登勢。
ミルクを飲む赤ん坊を見て段々と銀時以外のテンションが上がっていく。
「ちょっと私にもやらしてヨ!」
「ガキガガキニ触ルナンテ百年早ェヨ!」
「ちょっ、押さないで下さい!」
「やかましいよ、ババァに任せときな! ババァは得意だからこんなん!」
「皆さん落ち着いて下さい、赤ちゃん泣いちゃいますよ!」
周りが見えなくなってきた五人は銀時の事など忘れたかのように、ミルクの買出しだ遊ぶものが必要だと
あれやこれやと引っ張り出してきたり、買ってきたりなどしてあっという間にお登勢曰く健全なエロを嗜む店の中は託児所のような有様である。
一体誰が何を持ってきたのかなどわからない量の玩具などに囲まれながら、赤ん坊は歩行器の中で大人しくしている。
その後ろでは銀時は立ち尽くし赤ん坊にメロメロな五人を呆然と見ているばかりだったが、その内心ではかなり焦っていた。
「よーしよし金時。お前は親父みたいな人間になっちゃダメだよ」
「万時、こっち向いて万時」
「銀楽、お母さんだヨ。銀楽」
「坂田。アホノ坂田」
「一杯お母さんがいるよ、よかったね銀次」
―― 全部俺にちなんでるしィィ!!
が赤ん坊へ声をかけたのを最後に、銀時は歩行器ごと赤ん坊をつれてドアを蹴破りどこかへ走り去ってしまった。
お登勢たちはどこへ行くんだと声を張り上げるがは声をかけるよりも体が先に動き、銀時の逃げていった方へと走って追いかけようとする。
「銀さん! ちょっと待って下さいって!!」
「ー! 銀ちゃんしっかり捕まえてくるアル!!」
背後から聞こえた神楽の言葉に返事をする事は無かったが、心の内で頷いた。
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